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第百十九話 奴が絡むと敵の予定はだいたいぽしゃる

『糸使いf』の胸中には、激しい苛立ちがあった。

 

 はっきり言って、今回の任務は予想外の展開がひたすら続いていた。

 

 それもこれも、あの白髪の男が全て原因だ。『白髪アレ』が行う全てが、此方の思惑を台無しにしてくれたのだ。

 

 最初は些事だと気にも止めていなかったが、塵も積もれば何とやら。いい加減に無視できないまでに積み重なっている。おかげでいくつもの段取りが台無しになり、予定を繰り上げて事を進めなければならなくなった。

 

 予定通りに物事を進める事を信条としている身として、これほどの屈辱は久しく感じていない。

 

 ──下手をすれば、貴様ご自慢の『糸』を引きちぎるやもしれんぞ?

 

 馬鹿馬鹿しい、と『糸使い』は脳裏にぎった言葉を否定した。


『糸』が万能ではないのは承知している。


 同志たち・・・・には当然ながら、他にも膨大な魔力を有する人間に対して『糸』の効力は低い。また、普段から魔力の扱いに長けている魔術士に対しては、『結び目』を植え付けた時点で気づかれる恐れすらある。今回の標的である『女』に対して直接的な手段に出られなかったのも、女の前で糸の結び目を新たに植え付けるのを控えたのも同じ理由だ。


 一行の中に、以前に人形として手駒にしていた『獣』がいたのはさすがに驚かされた。以前に下した密命が失敗に終わった以上、既に死んでいるものと思っていた。そうなるように術式を埋め込んでいたのだから。


 生きているのは寧ろ行幸であり、改めて『人形』にしようとも考えたが、『標的』の前で行うにはやはり危険がつきまとう。惜しく思うが諦める。惜しく思う一方で、それほど執着する個体でも無いからだ。


 それよりも何よりも、問題なのはあの白髪だ。


 遺跡の内部に送り込んだ『人形たち』の不意打ちを悉く看破し、あまつさえ森の内部に竜騎兵対策として忍ばせておいた貴重な魔術士をも破られた。

その全ての生命活動が停止したのが『糸』を通して伝わってきている。


 残る手札は、戦闘力を期待できない幾つかの人形・・・・・と、支配下にある『魔獣』のみ。


 魔獣に関して言えば、もっと強力な個体を用意すれば良かったと後悔している。幻竜騎士ら歩兵だけならともかく、ディアガル帝国にて名実ともに武勇を誇る天竜騎士団の竜騎兵を相手にするには戦力不足だった。竜騎兵の弱点である『速度を得るまでの時間』は魔術士で狙い撃てば問題ないと高を括っていたのが大きな間違いだった。


 全てはあの白髪の男が原因だ。あの男さえどうにかしさえすれば、万事が上手く行く。


 そう考えた糸使いは、標的の優先順位を女からあの忌々しい白髪に変更した。


 簡単な話だ。子供・・を人質に取り、あの男の動きを止めさせた上で一行の誰かしらに殺させれば問題ない。あるいは身動きが取れない程度の重傷を負わせればいいのだから。


 標的に命じて、男がこちらに来るように指示を出させる。あの遠話の魔術式は、原理は不明だが対象との間に障害物があると効力が薄いらしい。手間だが魔獣どもを直線上からどかしてやった。


 少しすると、白髪の男がこちらに気が付いた。そして、氷の板らしきものに乗っかると、猛スピードでこちらに接近してくる。


「手前で止まるように命じろ」

「もう伝えてあるわ」


 命令に対して、女はこちらを睨みつけながら忌々しげに返した。


 その表情を見て、糸使いの溜飲は少し下がる。従順な人形を操るのも好きだが、相手を無理矢理従わせる事への優越感もまた彼の好むところだった。


 あるいは、この女を自らの人形にするのも〝あり〟だと考え始める。


 膨大な魔力を秘めた魔術士を相手に『糸』を結ぶのは確かに骨が折れるが、逆を言えば時間さえかけて入念に仕込めば不可能ではない。森の中で死んでいるであろう魔術士も、時間を掛けて調整を行ったのだ。今回失った人形の数を補充する上でも悪くない考えだろう。


 ──そこで、白髪の男に目を向けた時点で、気が付く。


「おい女、あの男に手前で止まるように指示を出したのか?」

「……ええ、間違いないわ。それが?」


 顔をしかめた女が、こちらと同じく白髪の方へと振り向き、目をしばたかせた。


 白髪の男は、氷の板が持つ能力なのか、馬が野を駆けるほどの速度でこちらに近づいてくる。


 その速度──緩む気配が一切無い・・・・


「「「…………まさか──」」」


 女の周囲を固めている護衛たちの全員が声を揃え、表情がひきつった。いったい何がどうしたというのだろうか。


「嘘でしょう……この状況で本気なの? 人質がいるのよ!?」


 女は女で絶叫している。


「どうした、もう一度奴に──」

「カンナ! お願いだから止まって! 子供が人質に──」


 此方が命じるよりも早く、女が白髪に向けて叫んでいた。既にこちらの状況は把握できているはず。念のために人質の様子がわかりやすくなるように、男の方へと体ごと向き直る。


 子供が人質になっている以上、動きを止めるはず。


 はずなのに──。

 



 なぜ、眼前に靴底が迫っているのだろうか?



 

「『玉石混淆(ぎょくせきこんこうドロップキィィィィィック』!!」


 そんな妙に腹が立つ声が聞こえた直後、人質を取っていた男と人質に取られていた少年は、白髪の男が繰り出した〝跳び蹴り〟を食らって吹き飛ばされた。

試験勉強が終わった後のちょっとした時間にちまちま書いてます。

現在は来月の半ばに行われる資格試験に向けてお勉強中。


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