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第百十八話 やつらが出てこないだけで驚くほどシリアスになる

もはや本編にかすりもしないサブタイトル。

……や、間違いではないんだが

「……気づいておられましたか」

『操られている襲撃者があの三人だけとは限らないもの。遺跡の奥深くに入らずとも、入り口付近で迎え撃てばそれだけでも不意打ちにも対処しやすくなるわ』

「………………」

『けれども、貴方は最善とも思える案を却下した。私だって戦闘の素人だけれども、さすがに違和感を感じるわ。おそらく、他の皆も同じように不思議に思っているはずよ』


 一度遺跡の中へ避難するのは、ランドも実は考えていた。それが最善の選択肢だとも分かっていた。


 思いとどまらせたのは、小さな懸念。最初の切っ掛けは、他者・・から。しかし、戦士として、指揮者としての経験から基づく〝勘〟が、その懸念を無視できないものだと裏付けていた。


 一方で、その懸念が思い過ごしである可能性を、ランドも彼に〝懸念それ〟を伝えた者も承知していた。だからこそ、これまで誰にも伝えていなかった。


(だが、この状況だ。幸い、お嬢様の魔術式で顔を向けず、誰にも聞こえずに会話が成立する。お嬢様だけには伝えておくべきだろう)


 杞憂であれば問題ない。しかし、もし杞憂でなかった場合は、より状況が悪化するのは確実だ。故に、ランドはファイマにだけ己の中にある懸念を伝えようと決意し──。


「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ──ランドの思考は、突如として聞こえてきた悲鳴によって強制的に遮られた。


 悲鳴の元へ顔を向ければ、案内役ガイドの親子を守護していたはずのカクルド、スケリアが腕や足を押さえて蹲っていた。押さえている手の隙間からは血が流れている。



 そして、彼らが守っていたはずの息子マリトが、帝国軍の制服を纏った男性によって拘束されていた。



 男の手には血に塗れた剣が握られていた。そして左腕はマリトの首に回されており、少年の動きを封じ込めていた。父親の方は腰を抜かしているのか、尻餅をついてガタガタと震えている。


「動くな」


 咄嗟にアガット、キスカが動こうとするが、男の持つ刃がマリトの首筋に添えられる方が断然早い。子供が人質にされた今の状況で、二人は歯噛みをしながら踏み込んだ足を押し留めるしかなかった。


 マリトを拘束しながら、男はゆっくりと集団から距離を離していき、ある程度進んで足を止めた。


「貴様っ、何者だ!」


 アガットが動けないながらも怒号を発するが、男は平然とした顔で受け流した。その視線はアガットではなくその向こう側にいる人物──ファイマへと向けられていた。


 男とマリトから極力目を離さないようにしながら、キスカは負傷している二人へとゆっくりと近づいた。安易に踏み込めない距離を確保したからか、男は彼女の行動を黙認している。


「も、申し訳……ありません。不覚を……とりました……」

「謝罪は後でお願い。それより、何があったの?」


 激痛に呻くスケリアは、絶え絶えながら声を絞り出した。


 あの男は、遺跡の管理人として駐在していた帝国軍の兵士だった。


「最初は……魔獣の軍勢がきた時点で……駐在所から遺跡の中に避難したと。自分たちが外にいるのに気がついて、合流しようと外に出たと本人が……」


 あるいは遺跡の中から管理人が出てきた時点で、騎士の二人以外が管理人かれに気づかなかった事実に違和感を覚えるべきだった。カクルドらだけに・・・、己の存在を気づかせるように動いていたのだ。


「それで……自分たちは近づいてきた彼に、不意打ちをされ……マリト君が人質に……ぐぅぅぅっ!」


 そこまで言い終えたカクルドが、脂汗を浮かべながら呻き声を上げた。近くで見れば、彼の受けた傷は深い。すぐさま命に関わるような深手ではなかったが、放っておけば出血多量に陥りその限りではなくなるだろう。


 治療の道具は常に携帯しているため、すぐに手を施せば問題ない。しかし、あの男が治療行為まで黙って見逃してくれるかは望み薄だ。


「……子供を傷つけたくなければ、黙ってこちらの指示に従え」


 男は抑揚のない声を発する。


「いったい、何が目的なのかしら?」

「黙って、と言ったはずだ」


 ファイマは言葉を投げかけるが男はにべも無く撥ね除け、腕の中にいるマリトに剣を近づける。もはや触れる寸前の刃に、マリトが悲鳴を上げる。ファイマは口を閉じるしかなかった。


「そうだ。それで良い。では、指示を──」


 と、男が唐突に言葉を区切るとファイマ達から視線を外した。何事かとそちらを向けば、森の中から飛び出す白髪の少年カンナの姿があった。


 彼はそのまま、未だ地上戦を強いられている竜騎兵達の元へ急ぐ。飛翔途中に魔術で狙撃される危険が無くなった事を伝えるためだ。


「──そうだな。手始めにあの男に余計な手出しをさせないように命じろ。ついでに、他の騎士達にもだ」

「この距離でどうやって? とてもではないけど、私の声量では無理よ。それに、これだけ人間と魔獣が入り乱れている中で、こちらの状況に気付けというのも無理よ」

「ならば気づかせろ。貴様の魔術式ならこの位置からでも声を届けられるはずだ」

 

 なぜその魔術式を、とファイマは愕然とした。

 

 ──管理人かれの前ではまだ一度も使っていないはずなのに。


「早くしろ」


 さらに驚くことが起こった。男が急かした直後、ファイマとカンナを繋ぐ直線上から魔獣たちが退いたのだ。


 ファイマの遠話の魔術式は、対象との間に障害物があると声が届きにくくなる欠点を有している。魔獣たちの挙動は明らかにその欠点を理解した上でのものだ。


 ──あの男が魔獣たちに指示を?


 疑問が頭の中を駆けめぐるも、解を導き出す猶予はない。ファイマは男の指示に従い、カンナへと声を届けるために魔術式を起動したのだった。

試験忙しいんです。

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