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百十二話 学名『人の形をした非常識』

久しぶりにこちらを更新です。


 ファイマの護衛という立場ではあったが、気分は修学旅行で歴史のある名所を歩いているようなものだ。最初に見た壁画にこそ興味を惹かれたが、パペトが以降に案内する各所の説明はほとんど聞き流していた。そもそも、事前の知識がほぼ無い状態なので、歴史学者の詳しい見解などを聞かされても理解できない。

 

 逆にファイマは、パペトの話に聞き入っており、質問を投げかけている。さすがにこの遺跡の案内を担っているだけあってその殆どに答えられてはいるが、たまに驚くような仕草を見せる。


「お嬢様にとって、ここはまさしく遊園地(テーマパーク)なんだろうな」

「──てーまぱーく、とはなんでござるか?」

「こっちの話だ、気にするな」

 

 首をかしげるクロエに笑って誤魔化し、俺は何気なく辺りを見回した。

 

 過去の歴史を後世に伝えるための場所──というだけあり、外から見た印象のままその中も資料館のような作りをしている。何かを展示していただろう台座に、書物を収められていたと思わしき本棚もある。無論その中身はなく、パペトが言うには書物や展示品はほとんどが皇居の保管庫に収まっているらしい。資料書の中には、写本されて一般販売されているものもあるとか。


「ちなみに、一冊銀貨五枚です」

「……ぼり(ぼったくり)すぎじゃねぇか、そのお値段」


 マリトの少年の補足に俺はつっこんだ。日本円換算で五万円とか、売る気が欠片もみつからねぇよ。買う人いるのかそれ。


「一部の好事家や貴族様には結構いますよ。ただ、貴族に関しては本の中身というよりも、〟持っている〝という一種のステータスが欲しいためだったりもしますけど」


 味が分からない癖に、高級ワインを取り揃えて己の資産を自慢する富豪と同じだな。彩菜がよく言ってた。


「愚鈍な金持ちほど、無用の長物を揃えたがる……か」

「辛辣ですね──僕も同感ですが」


 ぼそりと付け加えられたマリトの言葉。


「お、過激だな少年。もしかして貴族様が嫌いだったりするか?」

「いえいえそんな。


 ──ただ僕は、何かしらを揃えるならば、それに相応しい役割を与えるのが持ち主の義務だと思ってるだけですよ」


 美術品を集めるなら、その美しさを楽しむ。


 書物を集めるなら、その知識を得る。


 美酒を集めるのならば、その味に舌鼓を打つ。


「物の価値を生かすも殺すも、所有者次第です。過去に歴史を伝えるものであるならば、その所有者は正しく過去の事実を受け入れ、広めていく義務があるのだと、僕は思っています」

「正しい歴史──ねぇ」


 彼の言葉を聞き、俺は再びあの竜と人々が『神』に平伏している壁画を思い出した。どうにも違和感を拭いきれない。


(──帰ったら、ファイマに聞いてみるか)


 この世界の歴史にとんと疎い俺の意見なぞ鼻で笑われそうだが、それを予想できながら俺は自分の中に生まれた疑問を打ち消せなかった。そもそも日本史ですら勉強以外の時は関心を持たなかったのに、俺はいつ勤勉家にクラスチェンジしたのだろうか。


 ふと、俺の中でまた別の疑問が浮かび上がった。


「なぁマリト少年。案内役ガイド見習いのお前さんに少し聞きたいんだが?」

「何でしょうか。……僕は父ほどまだ遺跡ここを詳しく勉強していないんで、答えられる質問には限りがありますけど」

「あそこの知的好奇心の塊おじょうさまほど穿った質問をするつもりは無いから安心しろ。確か、竜種の魔獣は神からの祝福を受けた存在ってのがこの国での認識だよな。そもそも、何で竜種だけ・・・・が〟祝福〝とやらを授けられたんだ?」


 現実世界にある漫画や小説でも、『竜』という空想上の生物は良くも悪くも特別な存在だ。大半は悪役でありながら、中には神にも等しき存在と崇められている場合もある。だから、というわけでは無いが、同じくこの世界でも他の魔獣とは異なる扱いがされていることが気になった。


「面白い質問ですね。そんな〟常識的〝な事に疑問を抱くなんて」

「よく『非常識が人の形をして歩いている』との褒め言葉をいただいております」

「……それ絶対に褒め言葉じゃ無いですから」


 脊髄反射でボケをかますと、マリト少年の目が生温くなった。


「で、冗談はともかく実際にはどうなってんの?」

「そうですね──」


 かつては神に敵対していた存在がいて、竜種はもともと敵対者の仲間であった。やがて、神の御心に触れた竜種は神の陣営に付き、その勝利に大きく貢献した。これが切っ掛けとなり、竜種は魔獣の中で唯一神の祝福を得られた存在になったのである。


「──というのが、有力な説です。実のところ、明確な記録が残されているわけではなく、様々な古い文献の内容を照らし合わせて推測された内容ですけど」


 敵陣営に寝返った竜種がそのご褒美として〟祝福〝を得ました。めでたしめでたし──身も蓋もなくまとめるとこんな感じだな。普通なら美談で終わりそうなところを、こうした捻くれた捉え方をするのは、俺の性根が捻くれているからかもしれない。


 ……だとすると、どうして壁画の竜は神を睨みつけていたのだろうか。


(神が竜の裏切りをそそのかしたのではなく、神によってその『敵』とやらを裏切るしかない状況・・・・・・・・・に追いやられた?)


 柄にもなく深く考え込んでしまう。


「……カンナ氏がらしくもなく真面目に歴史のお勉強をしているでござる」

「らしくもないのは事実だが、人に言われると腹がたつのが不思議だな」

 

 ガシッ!


「わぎゃぁぁぁぁあッ! カンナ氏の笑顔が恐ろしいことにぃぃぃぃぃ!? というか頭が割れちゃうでござる! でちゃいけない汁っけが吹き出そうでござるぅぅぅぅ!?」

 

 失礼なことをのたまうクロエの頭を片手で掴み、笑顔を浮かべながら締め上げた。

 


『邪剣伝説』

 http://ncode.syosetu.com/n4184dl/

 十万字を目処に書いている、短期連載中の小説です。

『カンナ』に比べるとエロ少なめシリアス多めになっています。

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