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第百四話 虎穴は爆破しよう

重大発表が後書きに!

活動報告を見てくれている方は既に存じていると思いますが!

 露天商の冷やかしや食べ歩きをしていると、いつの間にか空の色が夕に染まり始めていた。日が沈む前には戻るとファイマ達には申告しているので、俺は皇居への帰路についた。


「──『白夜叉』と呼ばれている冒険者は貴殿のことか?」


 そんな言葉を掛けられたのは、皇居の正面口をくぐり、最初の通路を進んでいた時だった。「ん?」と足を止め、声のする横へと顔を向けると、鎧を纏った竜人の兵士がこちらを見据えていた。


「……自分で名乗ってるわけじゃぁ無いが、そう呼ばれてる身ではあるね。で、おたくはどちら様?」

「自分は『天竜騎士団』に所属する者だ」


 天竜騎士団──聞き覚えはないな。そもそも、俺が知っているのは幻竜騎士団と鋼竜騎士団しかないけど。


「我が団の団長が、貴殿との会談を望まれている。今から自分と一緒に天竜騎士団の部署にまでご同行を願いたい」

「だが断る」


 …………………………。


「………………じゃ、そう言うことで」


 軽く手を振って、俺はその場を後に──。


「──ハッ!? ま、待て!」


 惜しい、誤魔化しきれなかったか。


 大慌ての声を背中に投げられた俺は、仕方が無く兵士へと向き直った。


 第一印象が良い奴にまともな人間はいない──とは暴論が過ぎるが、この竜人族の兵士に対してはそれに近いものを感じていた。


「とりあえず護衛対象の所に戻るから、会談はその後でもいいか? 一応、夕方には帰るって伝えてあるんで」


 関わり合いになるにしても、ファイマや他の騎士団を知るカクルド達に相談してからが無難だ。


「貴殿は我が天竜騎士団を知らぬのか!?」

「俺が知っているのは、雇い主である幻竜騎士団と、要人警護の専門である鋼竜騎士団だけだ。天竜騎士団の名前は初めて聞いたな」

「そ、そうなのか……(ちっ)」


 おうこら、今の舌打ちバッチリ聞こえたからな。最初の印象どおりろくな人間ではなさそうだな。とりあえず、目の前の竜人族が、腹芸の出来ない三流・・であるのは間違いない。


「どうする? ここで待ってるか、護衛対象ファイマの部屋の前まで着いてくるか」

「だ、団長からは貴殿を見つけ次第、迅速にお連れしろとの指示を受け取っている……」

「こっから護衛対象の部屋までそう大して掛からんよ。それより、ここでうだうだ話を続けてるほうが時間を食うだろうさ。ほら、行くぞ」

「ま、待たれよ!」


 歩きだそうとする俺を、天竜騎士団の兵士はなおも呼び止めた。俺は表情に険しさを少し含めながら振り返った。


「あいにくと俺の休憩は終わってんだ。ここからは勤務時間。いい加減、職務に戻りたいんだが」

「…………団長は、貴殿と内密に言葉を交わしたいと、そう仰っていた」

「いわゆる『密談』ってやつ?」

「………………」

 

 兵士は答えなかったが、本来ならばこの場で伝えるべき情報ではなかったのだと、彼の渋面が物語ものがたっている。印象の悪さに加えて、きな臭さも漂ってきた。


「申し訳ないが、雇い主や護衛対象に秘密で誰かに会うってのは、雇われの身として信用問題に関わってくる。下手すりゃぁギルドの方から仕事を干されかねないんでね。次からはちゃんと『上』の方に話を通してから──」

「天竜騎士団の団長殿は、皇帝陛下より『伯爵』の地位を賜っている」


 俺の断り文句に被せるようにして、兵士が言葉を挟む。


「貴殿が以降もディアガルで冒険者としての活動を続けるのならば、あまり機嫌を損ねてよいお方ではない」


 彼は『具体的な内容』は言わずに口を閉じた。


「……脅しのつもりかい?」

「貴殿の受け取り方次第だ」


 地位を持ち出した時点で、明らかに脅しだ。


 現時点の心境を正直に表現すると、『面倒くさい』が一番しっくりきた。この兵士の『脅迫』を受けようが拒絶しようが、先に待ち受けるのは確実に面倒事だ。権力を持ち出してきた時点で容易に想像できる。


 俺だけの問題なら、あえて虎穴に入って虎児を奪った上で穴を爆破する位の気持ちで突っ込むが、今の俺はファイマの護衛だ。なるべくなら彼女に迷惑を掛けたくはないのだが……。


(──いっそ、こいつをピチュン・・・・して)


 この遭遇そのものを無かったことにしてしまおう、と短絡的な思考にすら行き着いた。

 

 後で考えると相当に物騒な行動を思い描いていたときだった。


「みだりに権力を持ち出すのは感心せんな」


 決して大きくはない。だが、有無を言わさずに意識してしまうその声に、俺と兵士は声がした方角へと顔を向けた。


 視線の先、通路脇から姿を現したのは、『偉丈夫』という形容詞を体現したかのような男だった。目の前と同じ竜人族なのは頭部の角で判断できたが、体格は一回り以上は巨大だった。そして所属を表す紋章は見覚えのあるそれ──鋼竜騎士団の紋章であった。


(マジかよ、レアルやシュライアクラスの化け物じゃねぇか)


 殺気を発しているわけでも、こちらを威嚇しているわけでもない。そうでありながらも、滲み出る気配オーラから彼が圧倒的な『強者』であるのを理解させられた。


 俺が言葉を失っていると、目の前の兵士は額に汗を流し、喉から絞り出すような声で言った。


「しゃ、シャルガ様。これはこれはお疲れ様です」

「形ばかりの労いなどいらん。それより、栄えある帝国軍人として、地位を笠に着た行いは品位を落とすことに繋がるぞ」


 兵士の言葉を跳ね退けた偉丈夫は、厳格な表情を彼に向けた。揉み手すらしそうな勢いだった兵士は、傍目から見ても分かるほどに顔をひきつらせた。


「い、いえいえ。自分は決してそのようなつもりは──」

「君にその様なつもりはなくとも、先ほどの言い回しでは相手にそう・・受け取られるだろう。以後は控えるべきだな」

「……も、申し訳、ございません」


 無理矢理言わされた感マックスな謝罪だった。しかもそれが俺に対するモノなのか、偉丈夫に対するモノなのかはいまいち曖昧だ。


 兵士は俺と偉丈夫を交互に見やり、やがて悔しげに歯を噛みしめてから「で、では、自分は失礼する」この場を後にした。ただ最後に、敵意の籠もった視線を俺に向けてきたのがどうにも小物臭を感じさせた。それを偉丈夫に向けられたらだいぶん男前が上がるだろうに。


 天竜騎士団の兵士を見送ってから、俺は改めて偉丈夫へと顔を向けた。


「えっと、ありがとうございます?」

「君を助けたわけではない。帝国軍人として許容できない内容だったので、割って入らせて貰っただけだ」


 照れ隠しではなく、本音そのままを口にしていると感じられた。こんな彫りの深い顔立ちで『ツンデレ』だったとしても、それはそれで反応に困ってしまうが。


 既にこの偉丈夫の正体に察しはついていたが、確認のために俺は彼に問いかけた。


「……失礼ですが、どちら様ですか?」

「私は鋼竜騎士団の団長を務めているシャルガと言うものだ。こうして会うのは初めてだな、『白夜叉』よ」


 ……もうその呼び方は当たり前なのね。


 非常にどうでも良いところで肩を落とした。


「──想像していた人物と少し違ったようだな。『例の件』で文句の一つも出てくると思っていたが」


 そんなシャルガの言葉で、気落ちに頭を垂れていた俺は顔を上げた。


 彼が指しているのは、俺がファイマの護衛として雇われる切っ掛けとなったあの事件だ。


「……思うところがないと言えば確実に嘘になりますけど、結果的に釈放されてますからね。今更感が強いですねぇ」

「そうか……」


 俺の言葉をどう受け取ったのか、シャルガは彫りの深い顔の眉間にさらに皺を寄せた。悪感情を抱いているわけではないのだろうが、それ以上のことは読みとれなかった。


「先ほどのことも含めてだが、私は君に何ら特別な感情を抱いているわけではない。我々は与えられた任務を全うしただけであり、仮に君が文句を言ってきたところで、素直に謝罪をする道理はない。悪く思わないで頂こう」

「さようですか……」


 罪悪感や悪びれた様子もない。ただひたすらに、任務に大して忠実に従っただけ。レアルから聞いたとおり、鋼竜騎士団の団長はどこまでも実直な印象を受けた。通常なら好感を持てる点であろうが、有無言わされずに拘束された俺にとって、鋼竜騎士団かれらに対して微妙な感情を抱くしかなかった。


「──だが、詫びの代わりといってはなんだが、一つだけ」


 思いも寄らぬ言葉が、シャルガの口から発せられた。


「先ほどの兵士が所属していた『天竜騎士団』には気をつけろ。君の雇い主や護衛対象に忠告しておくのをお勧めしておく」


 ──コレって、面倒事のフラグが立ったってことだろうな。


 俺は鋼竜騎士団団長の忠告に暗澹たる気持ちを抱いたのだった。

はい、前書きにありました重大発表!


五月二十一日にて『ネット小説大賞』の最終選考突破作品発表が発表されました。

去年の十月から応募が始まり、今年二月の締め切りと長い期間をかけたこの選考。



なんと、『カンナのカンナ 〜間違いで召喚された俺のシナリオブレイカーな英雄伝説〜』が最終選考を突破し、晴れて書籍化が決定いたしました!!!!



ここで我らが不意打ち系主人公であるカンナ氏から一言。


カンナ「こんな小説で大丈夫か?」

ナカノムラ「やかましい! 大丈夫で問題ないわぁ!! ──問題ないよね?」


問題がないと信じたい!!

ネタじゃないよ!?

http://www.cg-con.com/novel/index.html

ここにちゃんと載ってるから!

 


さて、そんなわけでして、いつ頃書籍になるかはまだ全然わからないのですが、この物語がここまでこれたのは、ひとえに読者の皆様方からの応援があったからです。数多くの感想文や評価に励まされてどうにか連載を続けることができました。


 活動報告でも載せましたが、ここで改めて申し上げます。


 読者の皆様、本当にありがとうございます。引き続き、『カンナのカンナ 〜間違いで召喚された俺のシナリオブレイカーな英雄伝説〜』をお楽しみください。ナカノムラもそのために連載を続けていきます。


次回更新も来週の日曜日(五月二十九日)の予定です。


 

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