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今際の青  作者: 由科
第一章 灰舞う桜
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“ムゲン”


 今回は、ぐだぐだな説明回です。





「まずは、どうして刀祢くんの思っていることが分かったのか、です。私は、人の“思い”にとても敏感なんです。だから、『怖い』とか『不安だ』とか、そういう思いが伝わってきたから分かったんです」



「……つまり、サイコメトラーとかエンパシーってこと?」



「さ、さいこ……? えんぱ、し……?」



 こちらが確認のために問いかけたというのに、その疑問が疑問で返された。



 目測でしかないが、少なくとも志乃はオレよりも少し年上に見える。


 恐らく、高校生くらいの年頃だろう。


 だが、少なくともこの瞬間の彼女は、無知で無垢な幼子のような表情で小首を傾げていた。


 哀歌は呆れきった様子でジト目を向けている。


 何処となく、この空気に程よく肩の力が抜けた。



 そろそろ痺れを切らしたらしく、哀歌は苛立ちを隠さず志乃に補足説明をした。



「サイコメトラーは、サイコメトリーという超能力を持った超能力者の一種のことよ。大体が触れたモノに込められた思念や、過去の出来事なんかを見ることが出来るらしいわ。

 そして、エンパシーはあまり一般的ではないけれど、強い共感力を持った人のことを言うの。簡単に言ってしまえば、他人の感じていることを自分のことのように感じられる人がそれに該当するわね」



「……へぇ、意外と物知りなんだな」



 理解出来たのか否か、ぽかんと口を開けたまま瞬きを繰り返す志乃。


 彼女のことはさておき、自分と同じくらいに見える哀歌が博識であることに感心していると、あからさまに不愉快そうなしかめっ面でひと睨みされた。



「心外ね。アナタみたいなおチビには言われたくないわ」



「なっ……!?」



 それはどういう意味だと問い詰める前に、哀歌はツーンとそっぽを向き完全無視を決め込んだ。



 確かにオレは同年代の男子と比べると、少しばかし小柄ではある。


 それを否定するつもりもないし、まだ成長期まっただ中だからとあまり気にしすぎないようにしてきた。


 だが、純粋に感心したにもかかわらず、ましてや自分と然程背も変わらないような少女に言われて腹が立たない訳がない。



 ……ていうか、別に身長は関係ないだろ!?



 考えていることが顔に出ていたのか、志乃は慌てた様子でオレ達の間に割って入ってきた。



「あ、あのっ」



「何?」「何よ」



 あからさまに不機嫌な刺々しい二つの返答に、ごっごめんなさいぃ、と狼狽えながら瞬く間に小さくなっていった。


 その分かりやすいほど顕著なしおれようには、さすがに罪悪感が湧いてくる。


 けれど眉間に寄ったしわは消えないまま、黙って志乃の言葉の続きに耳を傾けた。



 だが、あまりにも次の語が出てこないものだから、つい急かすような声が出てしまっていた。



「……で?」



「へっ?」



「だから、何か話したいことがあったんじゃないの」



「あっ、そう、そうです!」



 手の平をポンと叩いて、志乃は思い出したというような顔をする。


 何処か懐かしさすら感じる仕草に、少しだけ気が抜けた。



「刀祢くんが言っていた、その、さねこめたりっく……」



「サイコメトリー」



「そ、それと……あんぱん?」



「エンパシーだよ。あんた、覚える気ないだろ」



「……ご、ごめんなさい」



 もう、何の話をしようとしているのか分からない。



 図星だったのか、さっき以上に落ち込んだ様子でうなだれている志乃に、もうフォローの言葉も思いつかなかった。


 それどころか、これから話そうという話に身が入るのかも甚だ疑問である。


 その一方で、この異様に緩く気の抜ける空気感に慣れ始めている自分が一番恐ろしかった。



 仕切り直すように咳払いをする志乃も、今度こそはという真面目な表情で口を開いた。



「私の体質は、刀祢くんが挙げてくれたものとは違って、『ムゲン』という力が関係して起きている現象なんです」



「……その、ムゲンって何なんだ?」



「一言で言ってしまえば、ムゲンは強い“思い”が持つ力よ」



「思いの力?」



 ついさっきまで仏頂面でだんまりを決め込んでいた哀歌が、簡潔に説明してくれた。


 だが、どうもしっくりと自分の中で咀嚼することが出来ず、小さく首を傾げる。


 それに気付いているのか、彼女は淡々と言葉を続けた。



「病は気から、と昔の言葉にもあるでしょう? それはどういう意味か、言ってみなさい」



「……病気は気の持ち様によっては、良くも悪くもなるってことだろ。最近じゃ、ただのタブレット菓子を薬だと思い込むことで体調が良くなったりする、思い込みによるプラシーボ効果も証明されてる。病は気からっていうのも強ち間違いじゃないって、科学的に証明されてる訳だけど……それがどうしたっていうの」



「必要ない無駄知識まで説明ご苦労さまね」



 哀歌の言葉は、いちいち癪に障る。


 確かに今のは、余計な話を付け加えた自分にも非はあったかもしれない。


 だが、其処まで言わなくてもいいのではないかと真っ先に思ってしまう。



 そんなやや荒れの心内環境をよそに、哀歌は一言。



「つまりは、そういうことよ」



「……は?」



 駄目だ、意味が分からない。



 これで説明は終わりだと言わんばかりに口を閉ざす哀歌だが、こちらからしてみれば深刻な説明不足だった。


 現在提示されている情報を整理しながら、その中から彼女達が言わんとしているものを見つけ出そうと思考を回した。



 少なくとも、今確実に分かっていることは、ムゲンは強い“思い”が持つ力であるということ。


 その後に「病は気から」という話が出てきたが、それもまた気持ち――つまり“思い”に関するものだった。


 そう思ったことが、実際に起きるということを差しているのだろうか。


 いや、それにしてはどうも色々と腑に落ちない点が多すぎる。



 ―――などと思索に耽り続けているオレに、志乃が眉をハの字に下げながら声をかけてきた。



「あの……、すみません。哀歌ちゃんの説明、かなり難しいというか、性質の“一部”しか説明していないんです」



「はぁ?」



「とどのつまりが……答えに辿り着くヒントすらない説明だけで理解しろ、と言っているようなもので。あの説明だけで理解するなんて無理なんです」


「……何それ喧嘩売ってんの」



 真剣に考えた自分が馬鹿だった。



 いよいよ嫌気が差してきて、思考することを放棄しようとした時。


 これでもかというほど謝り倒した後、急に真剣な顔をした志乃がゆっくりと語り出した。



「“思い”には、強い力が宿っているんです。人を愛する思い、人を憎む思い、その種類は様々です。

 でも、どんな思いだったとしても、強い執着や思い入れがあるとそれは大きな力を持ちます。長い間大事にされてきた愛着のある物に意思が宿る付喪神や、この世に強い未練を残し魂だけが彷徨っている幽霊なんかも、このムゲンだという説があるんです」



「……じゃあ、オレがさっき見たあの子供も、幽霊じゃなくてムゲンなのか?」



 おずおずと尋ねると、恐らくは、と志乃は目を細める。


 そして、隣でソファに凭れながらくつろいでいる哀歌を一瞥し、微笑みと共に目を伏せた。



「そして、ムゲンとして意志を持ち人の姿を介する者は、通常なら目視されることはないんです。哀歌ちゃんはムゲンですから、滅多に認知されることはないので、刀祢くんが彼女の言葉に反応した時は驚いちゃいました」



 そうか、だから最初会った時……。



 哀歌が突然現れたように見えたことや、その言葉に反応を示した時の様子を思い出し、ようやく合点がいった。


 そして、これまで幽霊だと思っていたものがすべてムゲンだとするのなら。


 オレはずっと、ムゲンを無意識のうちに認識してきたのかもしれないと思うと、何処か現実離れしていた話が身近な話題に思えてきた。



 ―――が、其処ではてと疑問が湧いた。





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