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変人の憂鬱

今日も一日いつもと変わらない日常かと思いきや、後藤の様子がおかしい。

いや、あいつがおかしいのはいつものことなんだけど、いつも通りでないという意味で今日の後藤は、おかしかった。


放課後は、いつもなら口やかましく部活に行くぞと誘ってくるはずだが、今日は一回も来ていない。

というかすでに机にいない。

先に部活に行ったのか。


気になったので帰り支度をしていた殿こと、殿角 豊に聞いてみることにした。

すると、殿はワンテンポ遅れてあぁ、と手を叩いた。


「後藤くんならチャイムと同時に出てったよ。さっき見たらグラウンド横切ってた」


「なに!?あいつ、部活休むのかよ」


珍しいこともあるもんだ。

あいつがオカ研を休むなんて雨でも降るんじゃないだろうか。

殿は愛用のラケットを担いで帰り支度が整ったらしい。

こちらを向いてのほほんと笑った。


「後藤くんにだってそんな日があるよ。じゃ、僕部活に行くから」


「おう。サンキューな」


軽く手を振りながら殿を送り出す。

相変わらず癒し効果抜群だな。

殿のおかげでほんわかした気分になったところで、再び後藤の席を見る。


ふーん。帰ったのか。


「…俺も帰ろ」


なぜ一言声をかけなかったのかが気になったが、別に明日聞けばいいかとカバンを背負い、帰路に着くことにした。

それにしても、チャイムと同時に帰るなんて、よっぽど急ぎの用だったのだろうか。

教室を出て廊下を歩きながらぼんやりとそんなことを思った。


***


体育館裏は、ジメジメしていて日が当たらないため暗い。

あまり人はいないが、ごくたまにカツアゲやイジメの現場として使用されることがある。

その現場を目撃したことはないが、今自分が似たような場面にいることだけは確かだ。

後藤暁良は、一息はいて前にいる男を見据えた。

素行が悪いと評判の3年生が4人とも、仲良くこちらに詰め寄り行く手を塞いでいる。

顔がいかつく、髪は逆立っていて、耳にはピアスが数個。

明らかに不良やってますと主張したビジュアルの先輩方に後藤は軽い倦怠感を覚えた。


(こんなのに構ってる暇ないのに…)


「おい、一年。お前今、なんつった?あ"?」


後藤の横にいた髪に赤のメッシュを入れた先輩がドスの効いた声で呼びかけてきた。

後藤が答えるよりも早く、今度は反対側にいたやけにネックレスをジャラジャラとかけた先輩が口を開く。


「これから人に会うからこっから出て行けって、テメェそう言ったよなぁ?」


「いえ、そんな言い方は…」


できるだけ丁寧に、なるべく刺激を与えない言い方をしたつもりだったが、どうやら逆効果だったようだ。

こういう時、どうすれば人は怒りを鎮めるのだろう。

とりあえず笑っておけば、相手も許してくれないだろうか。

そう思い、後藤は真っ正面にいる一番いかつい先輩に笑顔で答える。


「ただ、これからこの場所で人と落ち合う予定になってるんで、先輩方は席を外してくれませんか?って、言っただけで…」


ーーーす、と言おうとして、腹部に強烈な衝撃が走り、一瞬呼吸ができなくなった。


「が…っは…!」


続いて激痛と胃の内容物が逆流してくるような気分の悪さが押し寄せてきて前かがみに倒れこむ形になってしまった。


何回か咳き込んでいると、髪の毛を引っ張られて無理やり立たされた。

目の前にいる先輩が凍てつく目でこちらを見ていた。

どうやら先ほどの一撃はこの先輩の拳が繰り出したものだったらしい。


「ふざけんなよ。一年」


髪をひっぱられる痛みに堪えながら、息を整え先輩方を見回す。


「…っは、なかなか、いいパンチをお持ちで…ッいてて…」


「この後に及んでまだそんな口が聞けるのか。大したやつだな」


それまで黙って一歩後ろから鑑賞していた背の高い先輩がこちらに近づきながら見下すようにこちらを見て笑った。


「一年。お前の名前とクラス言えや。今日からお前は俺らのパシリだ。呼び出したら、すぐに来いよ」


ニヤニヤと四人の先輩方が普段から使っているであろう常套句を述べ、完全勝利を確信した時だった。

俺の正面、つまりは先輩方の真後ろにお目当ての人物がやってくるのが見えた。


(あー…やなとこ見られた)


別にカッコつけたいわけじゃないが、こんなかっこ悪いところは見られたくなかった。

思わず顔をしかめていると、先輩方に勘違いされたらしく、いかつい先輩から再び拳が振り上げられた。


「なんだよ。気にいらねぇのか?あぁ?」


そのままおそらく顔面直撃するはずだった先輩の腕は振り上げられたまま止まった。


「いっ!?な、なんだ!?」


ようやく誰か後ろにいることに気がついたらしく先輩方が振り返る。

その勢いで髪をつかんでいた手も振り払われたため、後藤は少しふらついて地面に座り込んだ。


一番いかつい先輩の腕をキッチリ掴んだ相手は眉を寄せ、こちらを見下ろした。


「なにしてんだ?後藤」


「…見りゃわかるでしょ。カツアゲされてたんですよ竪山先輩」


同じオカルト研究部の唯一の2年の部員である、竪山龍牙は「ふーん」と興味なさげに納得してようやく先輩方を見渡した。


「てめぇ!離しやがれ!」


「あ、すいません」


あっさり手を離した竪山に3年の不良先輩方はタジタジだ。

いきなり現れて、この態度では仕方が無いとは思うが。


「なにもんだ。てめぇ…見ねえ顔だが、3年か」


「2年ッす」


「なに?2年だと!?」


相手が年下と分かり、一気に優位に立った気分となったのか、3年生は急に自信を取り戻した。


「2年がなに逆らってんだよ。年下の分際でよぉ!」


ネックレスジャラジャラの先輩が殴りかかったが、竪山はヒョイと避けると、殴ろうと伸ばされた腕を掴み勢いを逃さないまま背負い投げた。


「ぐえッ!…ッ!?な、なにが…」


自分が背負い投げされたこともよくわからず星を飛ばす先輩をよそに竪山は何事もなかったように立ち上がる。


「こ、この野郎!!」


赤のメッシュをした先輩が多少のビビりを隠すように竪山目掛けて突進して行く。

竪山はそれをただ見据えるだけで、突っ立ったままだ。

パンチの構えをする先輩があと数センチまで迫ったところでようやく避けると、すぐさま横に回る。

突進しながらの勢いの乗ったパンチは空を切り、竪山はメッシュ先輩の足に自分の足を絡ませた。

突進してきただけあって、勢いの乗った状態で彼は地面めがけて顔面から突っ込んだ。


「ブッフ…!」


間抜けな声の後痛みに顔を抑えながらうずくまる先輩を視界にすらいれず、竪山は残った2人を見た。


「喧嘩はやめませんか。俺はそこにいる1年に用があるだけで、先輩たちにはなんの恨みもないんですから」


「この…ッ!」


「待て!」


いかつい先輩が怒りのままに竪山に殴りかかろうとしたが、一番長身の先輩がそれを阻んだ。


「なんで止める!」


「…さっき、そこの1年が竪山って言ってたな。お前、竪山龍牙か」


長身の先輩は竪山を見ながらおそるおそる問いかけた。

問われた竪山の方は先輩方をきょとんと見つめている。



「なんで俺の名前を知ってるんですか?」


その一言で、先輩方は面白いほど顔を真っ青にさせた。


「竪山龍牙って、あの…!?」


「あぁ…!間違いねぇ…あの死んだような目に異様な強さ…!竪山だ!」


ヒィィと二人して怯える先輩方に竪山と後藤は眉を寄せる他ない。


「あの、俺って有名なんですか?」


と、言いつつ竪山が一歩近づくと背の高い先輩がビクリと後ずさった。


「く、来るな!おい、行くぞお前ら!!」


掛け声とともに4人は蜘蛛の子を散らすように駆け足で逃げて行ってしまった。

残ったのは、わけがわからないという顔の竪山に、座り込んだ後藤だけだ。


「なんなんだ一体…」


竪山が上の空でつぶやく。

後藤は腹を抑えながらゆっくり壁伝いに起き上がり息を吐いた。


「先輩、過去にいったいなにしたんですか」


「なんもしてねーよ」


後藤はどうだか、とつぶやきながら空を仰いだ。


「話があるんですよね」


「あぁ。大事な、な」


聞きたくないなぁ、と後藤は独り言をつぶやいた。






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