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うぬぼれ  作者: 北川瑞山
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 東京は、やはり雨の匂いがした。東京はどうして雨の匂いがするのだろうか。湿気が多いのか、それとも都会の汚れた空気に人々の汗が混じるとこんな匂いになるのか。分からない。雨の匂い?金の匂い?無感情な匂いだ。匂いの感覚は記憶を呼び起すのに一番有効な感覚であるというが、その匂いによって私に呼び起こされた記憶は、そんなに呼び起こしたくもない記憶である。一人で街を彷徨って、適当なバーを見つけては、ウイスキーばかりがぶがぶ飲んで、記憶を失っていた。そんな思い出ばかりだ。だからその匂いは憂鬱だ。気が遠くなる。

 山の手線に乗って、浜松町まで行った。私は数年前まで、東京にいた。営業職として、東京中を飛び回っていた。浜松町といえば、会社の人たちと浜松町出港のディナークルーザーに乗った事もある。東京湾を一回り。クルーザーの窓から見えるレインボーブリッジが、夜闇の中にダイヤモンドのごとく輝いて、海上を遠くまで伸びていた。しかしクルーザーを降りてから、飲み足りなく思って、駅前の安い居酒屋に行って悪酔いした。全くもって無駄な思い出だ。でも有益な思い出って何だろう?

 改札を出て、モノレール乗り場へと歩く。人混みの中に、悲しい忙しなさを見た。この人たちはどこへ行くのだろう?なぜそんなに急ぐのだろう?人間に行く当てなんか、どこにもないのに。多分私も含めて、人々はこの駅の青白い蛍光灯、その下から、私は逃げ出すのだ。行く当てなんかなくても。待つ人がいなくても。私は、モノレールの切符を無言で買い求めた。


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