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うぬぼれ  作者: 北川瑞山
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 私はそのとき、長年自分を煩わせてきたものの正体を見た気がした。こんなにもはっきりした形で的確に自分の特徴を探り当てられた経験がなかったからだ。なぜもっと早くに気が付かなかったんだろう?と、自分のアンテナの低さを悔やんだ。ともかくその場でその本を購入して、家で熟読、という運びとなったのだが、これが丹念に読めば読む程自分の特徴に合致するのである。多動性、衝動性、不注意、先延ばし、いずれにしても幼少時代からその時に至るまでぴったりと自分に寄り添ってきた特性であり、またその点については母親という第三者が指摘した事なのだから、客観的に見ても恐らくそうなのだろうと思われた。あろう事か二次的症状やその他の特性まで当てはまってしまっている。とすればこれはもう自分の事を叙述したものとしか思えない。

 だが一方で、その時の私に一抹の後ろめたさがあったことも否定できない。後ろめたさというのは、自分が上手く生きられない理由を病気や障害のせいにしてしまってはいないだろうか、という感覚である。誰にでも、生まれ持った個性がある。それが社会に上手く適合するかしないかは結局のところ時の運である。それがたまたま適合しなかったからと言って病気だ障害だと決めつけてそこばかりに気をとられ、適合できる部分まで諦めて努力する事を止めてしまっては、如何なる人間であろうとも生きていく事の難しい障害者だということになるだろう。私は、自分がそうした陥穽に嵌ってしまうことはなるべく避けたかった。いくら愚鈍な人間であっても、せめて愚鈍である事を認められるくらいには誠実でありたかったのだ。そうして自分の愚鈍さを何とかカバーしつつ生きていくのが本当だと思われた。

 しかしそれは口で言う程簡単ではない。そう簡単にカバーできたら最初から悩んではいないだろう。大抵の場合、愚鈍さとはカバーすればする程露呈してしまうものだ。それどころか愚鈍さそのものよりも、それをカバーしようとする努力の方が却って滑稽だったりするものである。とすればもう、愚鈍さは認めきってしまって、できないものはできないと開き直り、それで文句のある奴は付き合ってくれなくて結構と突っぱね、前向きに生きていく方が気楽ではないかとも思われた。つまりそれは、障害だから色々とうまくいかないのは仕方がない、その他にできることで、何か一つでも認められればそれでいいじゃないか、ということだ。そう思うと如何にも気が晴れ晴れとした。私は自分がADHDであることを疑ってみる事にした。

 実は一度、この件についてかかりつけの医者に相談した事もある。すると、現代の医学は驚く程進歩しており、ADHDのための飲み薬をもらう事ができた。私の読んだガイドブックには心構えとか周りのサポートとか、そうしたもの中心に対処法が書かれていた。ところが医者に聞いてみたら薬物療法があるではないか!戦利品を得た私は嬉々として家に帰り、早速その薬を飲んで、様子を見てみた。

 ところがこれがあまり良くなかったらしい。というか先にも言った通り、私は前から精神を病んでおり、そちらの治療をするべく別の薬を飲んでいたのだが、その薬との飲み合わせが良くなかったのか、それとも元々の精神疾患の症状を強めてしまったのか、とにかく新しくもらった薬を飲んでからというもの、気分が恐ろしく鬱々としてきた。私はすぐに飲むのを止めた。すると今度は立っていても歩いていても容赦なく襲ってくる強い眠気に苛まれたが、これは時間が経つにつれて弱まっていった。後から聞いた話だが、この薬はかなり強い薬だったらしい。私は当分の間薬物療法はしない事に決めた。

 しかし、私の考え方はそれから大分変わってきた。まず自分のADHDを「障害」と考えることに疑問を持つようになった。アスペルガーでも何でもそうだが、障害と個性の境界というのは極めて曖昧で、専門家の間でも意見が割れているくらいである。だから障害と考えて薬物で治療してしまおうというアプローチを改め、個性としてむしろ受け入れようという考え方をするようになったのだ。治療の必要なんかなかったのだ、と。これは考えてみれば、悩むより受け入れろ、悩むより開き直れ、という当初の考え方からすれば、当然のアプローチだ。治す必要なんてない。むしろ受け入れて開き直ればいい。それで他人に迷惑をかけたところで、知った事ではない。というか仕方がない。私は強くなった。


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