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妹弟兄姉マイティブラスター  作者: 秋保嵐馬
一.ドライバウター登場編
8/50

8.高速のハヤト

 林の中で、3人の若者が姿無きガイチュラに襲われていた。

 聞こえてくるのは、ヒュイィィィィーーンという羽音のみ。

 3人はその音と、近づく気配を頼りに、持っている剣で何とか攻撃をかわしているのだ。

 若者は男2人に女1人。

 年は20歳前後。

 横から来た気配を感じて、女が剣を振るった。

 ところが、その剣は、攻撃に力負けして弾かれてしまった。

「セシル!」

 男たちが叫んだ。

 セシルと呼ばれた女の剣を弾き飛ばした姿無き攻撃の主の羽音は、いったん上空へ昇り、再びセシル目がけて急降下してきた。

「くそう!」

「速すぎて俺たちには見えん」

 2人の男がセシルをかばうように剣を構え、上空を見上げた。

 音が近くまで来た。

 2人は剣をふるった。

 剣と音の主とが激しくぶつかるガキンという音がし、姿の見えない音の主は横へ飛んだ。

「次は横からくるぞ」

 しかし、2人の剣の刃はこぼれてぼろぼろだった。

 亀裂も入っている。

「この剣では、次の攻撃を受け止めきれるかどうか分からん」

「しかし、立ち向かうしかない!」

 音が迫って来た。

 2人は、2人の剣をXの字に構え、攻撃を正面から受け止めた。

 ガキガキーッンと、ものすごい音がして、攻撃を受け止められた、音の主が姿を現した。

 今まで姿が見えなかったのは、あまりの高速のため、人間の目にとまらなかったからだ。

 姿を現したのは、スリムな体型のトンボ型ガイチュラ。

 体長は2メートルちょっとか。

 ガイチュラとしては小型だが、左右4枚の羽根が異様に長いため、実際の体長より大きく見える。

「ト、ト、ト……。よくぞこの私の攻撃を受け止めたな」

 2人の男たちは、ガイチュラの爪を、X字に構えた2本の剣で受け止めている。

 だが、既に腕は震えだし、攻撃を受け止め続けるのも限界だ。

 剣の亀裂がさらに大きくなる。

「ト、ト、ト……。剣とおまえたちの腕、どちらが先に折れるかな?」

 ニヤリと余裕の笑いを見せながら、ガイチュラが2本の剣を押す爪に更に力を込めた。

 ――と。

 ガイチュラは、斜め後方から攻撃の気配を感じ取った。

「誰だ!?」

 斜め後ろを振り向き、別の腕でその攻撃を弾き飛ばしながらガイチュラは叫んだ。

 弾き飛ばされたのは斧だった。

 斧はくるくると回りながら宙を飛び、1人の青年の手に収まった。

「何だオマエ?」

 2本の剣を持つ2人の男への爪による押しは続けながら、ガイチュラが言った。

 斧を持った20歳ぐらいの紫色の髪の青年は名乗った。

「俺はハヤト。ドライバウターのハヤトだ」

「なにィ、ドライバウターだと……?」

 ガイチュラは、2人の男を適当にあしらうように突き飛ばした。

 それまで互いの剣をX字に構えていた2人の男たちは、セシルと並ぶように尻餅をついた。

 ついた拍子に、2人の剣はぼろりと折れた。

「噂は聞いているぞ。信じられない事だが、人間の分際で我らの仲間を何人も倒してくれているそうだな」

 ガイチュラはハヤトと名乗った青年に正面から向き合った。

「まあな。そしておまえもその1人になる」

「ト、ト、ト、俺が貴様に倒されるだと?」

 ハヤトの言葉にガイチュラが笑った。

「ガイチュラで1、2のハイスピードを誇るこの私が、人間ごときの貴様に?」

「直ぐに分かるぜ!」

 ハヤトが再びガイチュラに斧を投げた。

 斧はブーメランのように回転しながらガイチュラに飛んだ。

 ガイチュラの姿が、腕組みした状態のまま、一瞬にして横に移動した。

 ハヤトの投げた斧は空を切り、旋回してハヤトの手に戻った。

「ト、ト、ト……。遅い遅い。そんなもんじゃ、この私は倒せないぜ」

 腕組みしたまま余裕の笑みを浮かべてガイチュラが言った。

「……」

 ハヤトは黙って斧を構えている。

「大口たたいた事を謝るなら今の内だぞ人間? もっとも……」

 ハヤトは黙ったままだ。

「謝っても許してやらんがなあ」

 ガイチュラは猛スピードでハヤトに向かった。

「また消えた!」

「速過ぎて見えないんだ」

 先ほど尻餅をついた男たちが叫んだ。

 ガイチュラの爪がハヤトを切り裂いた――かのように見えた。

 ところが、切り裂いたかと思ったハヤトの姿は蜃気楼のように消えていった。

 ガイチュラの爪はただ空を切っただけだった。

「遅い遅い」

 ガイチュラの背後から声がした。

「そんなもんじゃ、この俺は倒せないぜ」

 たった今までガイチュラが立っていた場所に、今度はハヤトが腕組みをして立っていた。

 斧は腰に携帯されている。

「貴様……」

 ガイチュラがゆっくりハヤトの方を振り向き、にらみつけた。

「ど、どういう事?」

 先ほどから、ハヤトとガイチュラを見ているセシルも言った。

 シュンッという音と共に、ガイチュラの姿が消えた。

 ハヤトの姿も消えた。

 林の中に、ヒュイイイイーーーンンという音だけが響いた。

 そして時折、ガキン! ガキン! という音が林のあちこちから響いた。

 枝が揺れた。

 幹が震えた。

 木の葉が舞い、大地が鳴った。

 そして突然、斧と爪とでつばぜり合い状態になったハヤトとガイチュラが姿を現した。

「貴様……、人間の分際で、この私並の速さで動けるのか……」

「さあね」

 再びハヤトとガイチュラの姿が消えた。

 だが、実際には消えているのではない。

 あまりの高速の動きに、常人の目にとまらないのだ。

 ハヤトとガイチュラは、高速の世界で戦闘を繰り広げていた。

 ガイチュラが幹の間を縫って飛ぶ。

 ハヤトもジグザグに走る。

 時折2者の動きが交錯する。

 ハヤトとガイチュラから見れば、セシルと2人の男は止まっているように見えた。

 3人とも驚いた顔で、全然見当違いの方向を見つめていた。

 木々の間を互いにジグザグに跳びながら、ハヤトとガイチュラは何度もぶつかり合った。

 木の頂点の辺りでひときわ激しくぶつかり合い、二者は離れて着地した。

「驚いたぞ。人間の分際でここまで戦える者がいたとはな」

 ガイチュラの言葉に対し、ハヤトが言った。

「どのガイチュラもそう言って倒れていったぜ」

「減らず口もそこまでだ」

 ガイチュラの体が2つに分かれた。

 実際には2つに分かれたように見えているだけだ。

 左右から2体のガイチュラがハヤトに襲い掛かった。

「高速移動の残像による分身かい」

 ハヤトはもう一方の斧を腰から抜き、両手の斧で双方からの攻撃を受け止めた。

 ガイチュラは左右に跳びすさった。

 ハヤトは跳躍した。

 今度は宙空のハヤトを上下から2体のガイチュラが襲った。

 2つの斧を上下に構えて攻撃を受け止めるハヤト。

 ハヤトが着地。

 距離を取って、ハヤトを挟むように2体のガイチュラが着地した。

 一方のガイチュラが言った。

「なかなかやるな」

 もう一方のガイチュラも言った。

「だが人間の腕は2本。これならどうだ!?」

 ガイチュラは今度は4体に分身した。

「2倍の4分身だあ!」

 前後左右上下に高速移動しながら4体のガイチュラからの攻撃をかわすハヤト。

「ト、ト、ト……」

「どうした、どうした?」

「かわすだけで精一杯だな」

「そろそろとどめをさしてやるぞ」

 四方から4体のガイチュラが同時攻撃をしかけてきた。

「終わりだあ!」

 ガイチュラが叫んだ。

 だが――

「何い?」

 ガイチュラは驚きの声を上げた。

 ハヤトもまた4体に分身し、それぞれの攻撃を受け止めていたからだ。

「こしゃくなあ~~」

 4体のガイチュラは四方へ飛んだ。

 4人になったハヤトがそれを追う。

 高速の世界で、4体4の激突が繰り広げられた。

 戦いながらガイチュラが言った。

「全く驚かせてくれる。私に本気を出させる奴は初めてだぞ」

 ガイチュラが更に分身した。

 2倍の8体だ。

「さらに2倍の8分身! 今度こそ終わりだな!」

 それに対してハヤトも叫んだ。

「俺も本気出すぜ」

 8体のガイチュラを迎え撃つのは、3倍の12人に分身したハヤトだった。

「何、3倍の12分身だとぉ!?」

 驚愕するガイチュラ。

 2体のガイチュラにつき3人のハヤトが襲いかかり、各々が両手に持つ斧でガイチュラの体を、羽を切り刻んだ。

 円を描くように並んで12人のハヤトが着地した。

 その円の中央に、切り刻まれたガイチュラの残骸が落下した。

 12人のハヤトの姿はシュンッと1人に戻った。

 セシルと2人の男たちには、まるで突然上空からガイチュラの残骸が降り注ぎ、その近くにハヤトが姿を現したように見えた。

「い、一体……」

「何がどうなったの?」

 男たちもセシルもただ唖然としていた。

「ケガは無いかい?」

 キリッとした表情だが、口元には笑みをたたえながら、ハヤトが3人に聞いた。

 ハヤトは3人に歩み寄り、尻餅をついているセシルに手を差し伸べようとした。

 だが、男の1人がそれをさえぎるように立ち、セシルに手を貸して立たせた。

 もう1人の男が立ち上がり言った。

「助けてくれてありがとう。ハヤト――だったな。俺はジャック、こちらは俺の妹セシルに……、友人のケンだ」

 ジャックが2人をハヤトに紹介し、ハヤトに右手を差し出した。

 ハヤトはジャックとの握手に応じ、尋ねた。

「実は、仕事でロンの村というところへ行く途中なんだが、迷ってしまった。知らないか?」

「それなら、私たちの村よ」

 セシルが言った。

「私たち4人で村へ帰る途中だったの。でも途中であのガイチュラに襲われて……」

「4人? 3人のようだが?」

 ハヤトの問いにセシルが答えた。

「ガイチュラに襲われた時、はぐれてしまって……。無事だといいんだけど」


 林の別の場所を20歳ぐらいの女性が1人で歩いていた。

「ケン、セシル、ジャック……、みんなどこへ行ってしまったの?」

 不安そうに辺りを見回しながら歩いている。

 ふと、女性の体に何かが触れた。

 光の加減で見えたり見えなかったりする。

 それは女性の進路上に張られたクモの巣だった。

「は、こ、これは……!?」

 女性の体はいつの間にかクモの巣にかかってしまっていた。

 ザザザーーッ!!

 大きな音と共に、巣が空中に持ち上がった。

「きゃああっ」

 悲鳴を上げる女性。

 女性は木々の間の宙空に張られたクモの巣の中央で張り付けとなってしまった。

「ク、ク、ク……。獲物がかかったあ~~」

 獲物を捕らえた喜びに笑うクモ型ガイチュラが樹上にいた。

 ハヤト21歳。

 12兄弟姉妹の4番目、次男。

 身長180cm。

 髪の色、紫。

 高速で走り、空を飛ぶ。

 腰の両脇に斧を2つ備え、ブーメランのように投げて武器とする。

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