7.五人のドライバウター
アオイの短剣とチャコの“壁抜け”の力で、まゆに閉じ込められていた村の男女たちは8割方助け出された。
あと少しだ。
「もう、ちょっとだね」
まゆを切り裂きながらダルクが言った。
ダルクもアオイから借りた短剣で、まゆを切り裂いていた。
「急がないと」
テレキネシスで短剣を操り、まゆを切り裂きながらアオイが言った。
片腕の傷は抑えたままだが、アオイの場合は手を使えなくても作業ができる。
「さ、こっち。これで最後ね」
最後のまゆの中から、その外壁を通り抜けてチャコが男女を連れ出した。
――と。
空が急に暗くなった。
地面には無数の黒い影。
チャコは上を見上げた。
上空を、ダンゴムシ型ガイチュラの大群が覆っていたのだ。
ダンゴムシ型といっても、地球のそれとは違う。
その体長は小さいもので2~3メートル、大きいものだと10メートル近くはあった。
そして、甲羅には10本の角が生え、さらに羽根を持ち、それをはばたかせて空を飛んでいるのだ。
「ちい、あとは逃げるだけだったのに!」
ダルクが舌打ちした。
大群の中でひときわ体の大きいガイチュラが上空から叫んだ。
「仲間からのテレパシーを受けてやってきてみれば……。わしらの仲間をやったのは貴様らだな!?」
フィールドのあちこちには先刻アオイ、チャコ、ダルクが倒したガイチュラたちが転がっている。
「やるしかないわね」
アオイは念力で、自分の上空に8本の短剣を整列させた。
チャコも両手でヨーヨーを回し始めた。
ダルクもアオイから借りた2本の短剣を両手に身構え、叫んだ。
「みんなは早く、建物の影へ!」
ダルクが叫んだ!
助け出された村の男女たちは、怯えた表情で建物の影へ走った。
「ものども、やれ!!」
大ガイチュラの叫びとともに、ガイチュラたちの角が雨のように降って来た。
角をかわしながら、フィールド上を走るアオイ、チャコ、ダルク。
角の雨にまじって、今度は上空から球体状に変形したガイチュラたちが高速回転しながら、3人を襲った。
かわして走る3人。
「きゃあ!」
悲鳴が建物の方から聞こえた。
逃げ遅れた女が1人、建物の手前で転んでいる。
そこへ八方から8本の角が女に襲い掛かった。
アオイが短剣を放った。
次の瞬間、女の手前で8本の短剣と8本の角が、空中で先端同士真向かいになってぶつかり合い、静止していた。
「さ、今の内に逃げるんだ」
駆けつけたダルクが女を促した。
大ガイチュラがアオイを見て叫んだ。
「そのメスの人間、今は武器を持っていないぞ! やれ!」
2体のガイチュラが、無防備になったアオイに向け、20本の角を放った。
「アオイ!」
ダルクが叫んだ。
アオイの表情が険しくなった。
アオイの体を貫くかと思われた20本の角は、空中で静止した。
「なに!?」
驚く2体のガイチュラ。
ダルクも一瞬、何が起きたのか分からない。
20本の角は、ゆっくり空中で向きを変えると、自分たちのあるじ目がけて猛スピードで飛んだ。
外甲を貫き、2体のガイチュラには、10本ずつの角が打ち込まれた。
「ギ……」
10本の角が体から逆さに生えた2体のガイチュラはそのまま悶絶して倒れた。
「アオイ……、今、やったのアンタなのかい?」
ダルクが言った。
「私が操れるのは別に自分のナイフだけじゃないのよ。」
アオイが答えた。
「ただ、やつらも念力で自分の角を操っている。それ以上の念力を出すわけだから消耗するけどね」
アオイはかなり汗をかいていた。
「くそ~~、人間め」
大ガイチュラが上空で歯ぎしりした。
「あの3人は後回しにしろ! 建物に逃げ込んだやつらを建物ごとつぶしてしまえ」
大ガイチュラは凶悪な笑いを浮かべて続けた。
「ミンチになったところで、食べるのに支障は無いわ」
「なんだと!?」
ダルクが叫ぶ。
ダルクの背後の建物の中には、今助け出したばかりの村の男女たちがいるのだ。
「はっ」
大ガイチュラの指示に返事をすると、他のガイチュラたちが一斉にダルク背後の建物に角を放った。
「しまった!」
ダルクが悲痛な叫びを上げた。
無数の角の攻撃を受け、がらがらと崩れる建物。
「みんな……」
ダルクがうめく。
――が。
もうもうとした土煙の中から、大きな瓦礫がとつぜん浮き上がった。
いや、浮き上がったのではない。
誰かが持ち上げたのだ。
持ち上げたその誰かとは――。
アオイやチャコの兄、ツヨシだった。
「兄さん!」
アオイとチャコが同時に叫んだ。
村の男女たちは巨大な瓦礫の下で皆無事だった。
「ダルク!」
ツヨシの背後から声がした。
バールとルナが顔を出した。
「バール、ルナ」
ダルクが驚きと喜びの声を出した。
「――と、いう事は?」
チャコの言葉に答えるように声がした。
「ボクらもいるよ、姉さんたち」
土煙がやむと、声の主が明らかになった。
銀色に輝く髪、ダイゴ。
そしてその隣には真っ赤な長い髪、アカネが居た。
「アカネとダイゴも!」
アオイの言葉に、片目をつぶって笑顔でアカネが答えた。
「助けに来たわよ。アオイ姉さん、チャコ」
「よーし、一気に片付けるぞ」
ツヨシが持っていた巨大な瓦礫を上空の大ガイチュラに向かって放り投げた。
瓦礫は大ガイチュラに激突。
だが、瓦礫は粉々に砕けて落下。
上空には球体状に変形した大ガイチュラの姿があった。
「そんなものオレには……」
大ガイチュラは、そのまま体を高速回転させて、ツヨシに向かってきた。
「通じん!!」
ガシ――!!
ツヨシは、2本の角をつかんでその巨体を受け止めた。
「むむっ! 何だと? 人間の分際で何という力」
球体状のまま大ガイチュラが驚愕して叫んだ。
「みんな、このデカい奴はオレが引き受けた。後の奴らは任せたぞ」
ツヨシの言葉にアカネが答えた。
「オーライ、任せて!」
アカネは口笛を吹くような表情で、顔を上空の一体のガイチュラに向けた。
超音波だ。
アカネの超音波を浴びたガイチュラの外甲にはたちまちひびが入り、羽根はぼろぼろに崩れた。
「わ? わわ~~」
飛ぶすべを失ったガイチュラは地上に落下。
「ダルクさん、これを」
ダイゴが筒を差し出した。
中には金属のような物で作られた矢が入っている。
「これは?」
受け取りながらダルクがダイゴに尋ねた。
「瓦礫を変形させてボクが作ったんです。ガイチュラの目を狙うのには十分でしょ」
「そうかい、ありがとよ。――じゃあ、さっそくあいつに試してみるか!」
ダルクは、さきほどアカネが落としたガイチュラの、むき出しになった胸の筋肉に向かって矢を放った。
「ギギーー!!」
胸を矢で貫かれ、そのガイチュラは倒れた。
「甲羅が無けりゃ、目じゃなくてもオーケーだね!」
「お役に立って良かった」
ダルクに答えながらダイゴは空中にブーメランを放った。
ブーメランは3体のガイチュラの首を切断してダイゴの手に戻った。
ダイゴの横から1体のガイチュラが高速回転しながら転がってきた。
ダイゴは自分のブーメランを湾曲した板に変形させると斜めに地面に刺した。
ちょうど回転して転がってくるガイチュラの進路上だ。
球体状のガイチュラは、その板の上を転がり上がると、まるでカタパルトから発射されるように上空に飛び出した。
そして他のガイチュラに激突した。
「ギ……」
2体のガイチュラはお互いの角が刺さり合い、地面に落下した。
「ボクの武器は変形自在さ」
ダイゴが言った。
ダイゴは板を抜くと、今度は長い槍に変形させた。
そしてビリヤードの玉を操るように、転がり襲い来るガイチュラたちをさばいた。
チャコは1体のガイチュラに壁際に追い詰められていた。
「壁にめり込みな!」
ガイチュラは爪をチャコの顔面に叩き込んだ。
ガイチュラの腕はチャコの頭部を貫通し壁に深くめりこんだ。
「めり込むのはお前の方よ」
チャコがガイチュラの背中から顔を出した。
「な、何だと……。あれ? ぬ、抜け――」
胸、腹、腰とチャコがガイチュラの体から姿を現した。
チャコが移動しているからではない。
チャコは同じ場所に立っている。
ガイチュラがずぶずぶと壁にめり込んでいったのだ。
「ない……」
言いかけた言葉は途中で途切れ、尾と足だけ残し、ガイチュラは壁と一体となって動かなくなった。
アカネは口からの超音波砲と、ネビュラメタルを編み込んだムチを振るって戦った。
兄弟の参戦を得て再び力を取り戻したアオイも10本の念力ナイフでガイチュラを次々に倒した。
一方、こう着状態となっていたツヨシと大ガイチュラ。
ツヨシが大ガイチュラを放り投げた。
上空に放り投げられた大ガイチュラは高速回転しながら再びツヨシに襲いかかって来た。
「しつっこいんだよ!」
ツヨシは襲いかかって来た大ガイチュラを殴り飛ばした。
大ガイチュラはスタジアム反対側の電光掲示板まで飛ばされ、壁に激突、めり込んだ。
球体状から通常体勢に戻っていた。
「ギ……、何という力だ。くそ、今度こそ……」
「もう終わってるぜ」
大ガイチュラにツヨシが言った。
「終わってるだと、何が……、な、な?」
大ガイチュラは自身の体を見て驚愕の悲鳴を上げた。
外甲に無数のひびが入り始めたのだ。
「そ、そ、そんなバカな? 人間ごときにそんな~~!?」
大ガイチュラは口から黒い体液をげぼっと吐くと、電光掲示板下に轟音と共に落下し動かなくなった。
全てのガイチュラが片付いた。
「たいしたやつだね……、ドライバウター。あんたたち、みんな兄弟なのかい?」
ダルクに答えて、5人が自己紹介をした。
「俺は長男のツヨシ」
「長女アオイよ」
「次女アカネね」
「末の妹チャコ」
「末弟のダイゴです」