6.女戦士ダルク
アオイ、チャコ、ダルクは、スタジアムだった場所に居た。
客席からフィールドを見下ろしていた。
3人の眼前には20~30の立方体の“まゆ”が点在していた。
大きさは3メートル四方ぐらいか。
「あの四角いまゆ1つ1つの中に、村の男女が1組ずつ入れられているのさ」
ダルクが言う。
「その男女って、夫婦とか恋人同士なの?」
チャコが聞いた。
「いや、ガイチュラがそんな事まで考えるもんかい。適当に組み合わせて放り込んでいるんだ」
ダルクが答える。
今度はアオイが聞いた。
「じゃあ、バールとルナの2人は?」
「もともと恋人でも何でもなかった。だけど、まゆの仲で一緒に居る内に仲良くなったようだ。ま、結果オーライってやつだな。――来たようだよ」
3人の周囲にはいつの間にかダンゴムシ型ガイチュラが集まって来ていた。
それぞれの大きさは2~3メートル。
地球のダンゴムシとの違いは大きさだけではない。
甲羅に10本の角が生えているのだ。
「やつら、図体に似合わず身軽だよ。気を付け――」
ダルクのセリフが終わらない内に、1体のガイチュラが体を丸めて宙を飛び、3人に突っ込んできた。
跳びのく3人。
ガイチュラはそのまま客席に激突。
椅子やコンクリートが飛び散った。
跳躍しながらダルクが続けた。
「身軽なだけじゃない。やつら角を飛ばしてくるぞ!」
ダルクの言葉どおり、数体のガイチュラが体の角をアオイやチャコに向けて発射した。
アオイは念力で10本の短剣を抜いた。
そして、自身の周囲に短剣を配し、回転させながら、襲ってくるガイチュラの角を弾き飛ばした。
さらに指揮者のように腕を動かすと、短剣を1本飛ばし、1体のガイチュラの眉間に打ち込んだ。
「ギギ~~!!」
悲鳴を上げてガイチュラは客席からフィールドに転げ落ちた。
一方、チャコは飛んでくる角を一切よけはしない。
すべてチャコの体を素通りしていくからだ。
チャコは腰の両側に携えていたヨーヨーを両手に取った。
そして、ヨーヨーの一撃をガイチュラの眉間に放った。
そのガイチュラは眉間を割られ、倒れた。
チャコのヨーヨーは、もちろんネビュラメタル製だ。
「2人ともやるねえ、さすがドライバウター」
飛んでくるガイチュラの角や、球体になって攻撃してくるガイチュラの体をかわして跳躍しながらダルクは矢を弓につがえた。
「ダルク、普通の矢ではガイチュラに通じないわよ」
戦いながらアオイが叫ぶ。
「分かってるさ、見てな!」
ダルクは立て続けに2本の矢を放った。
それは見事に1体のガイチュラの両眼を射抜いた。
「ギギ~~」
両眼を射抜かれたガイチュラは動きを止め、うめいた。
「甲羅の硬いこいつらも、目だけは違うって事さ」
次の矢を弓につがえながらダルクが言った。
「やる~~」
チャコが感心する。
ダンゴムシ型ガイチュラどもは、どこからともなく続々と現れてきた。
倒しても倒しても戦いは続く。
アオイとチャコも、少々息切れしてきた。
「姉さん、けっこうキツいわね」
「まったくどこからわいてくるのよ」
「わいてくるから虫なのさ!」
ダルクも善戦していた。
「だけど……、これでおしまい」
アオイの短剣が、最後のダンゴムシ型ガイチュラを倒した。
「どうにかやったね」
ダルクがアオイとチャコの元へやってきた。
「あなたももう矢が無いようね」
アオイの言う通り、ダルクの矢も空になっていた。
「さあ、あとは“まゆ”を1つ1つ切り裂いてみんなを助け出せば終わりだ」
そう言うダルクに一瞬の油断があった。
背後から近づいた巨大な影に気付かなかったのだ。
「ダルク危ない!」
アオイがダルクをかばって飛び出した。
ダルクに覆いかぶさるようにしてアオイが伏せた。
その上を鋭い刃物上の物がかすめていった。
3人のそばには、体調6~7メートルはあろうかという親玉ダンゴムシ型ガイチュラが立っていた。
背後から近づいてきた巨大な影の正体はこいつだったのだ。
「ギ……、ギ……、人間の分際で仲間をよくも……。許さんぞ」
親玉ガイチュラは言った。
「このステージのラスボスってわけね……」
チャコが言う。
「ダルク、大丈夫?」
覆いかぶさったままアオイが聞いた。
「あたしは、大丈夫だけど……、あんた!」
ダルクをかばった時、アオイは親玉ガイチュラの攻撃をかわしきれず、腕に傷を負っていた。
「平気、かすり傷よ」
アオイが片目をつぶって見せたが、顔に冷や汗をかいている。
「エサにしてくれる~~」
親玉ガイチュラが上から爪をアオイとダルクに振り下ろした。
――と、親玉ガイチュラは横からの殺気に気付き、振り下ろしかけた爪の軌道を変えて、自身を攻撃してきた物を弾き飛ばした。
チャコが横からヨーヨーを放ったのだ。
ネビュラメタル製のヨーヨーとはいえ、うまく当てなければ致命傷は与えられない。
チャコは両手でヨーヨーをぐるぐる回しながら攻撃のタイミングを見計らった。
「姉さん、今の内に」
「サンキュー」
アオイとダルクは、親玉ダンゴムシから距離をとろうと走り出した。
「逃がさんぞ!」
親玉ガイチュラが再び爪でアオイとダルクを襲おうとしたが、
「おまえの相手はこっちよ!」
チャコが親玉ガイチュラにヨーヨー攻撃をしかけてきた。
眉間に当てられたら、親玉ガイチュラといえひとたまりもない。
親玉ガイチュラは再びそのヨーヨー攻撃をかわさねばならず、アオイとダルクを追撃する事はできなかった。
「おのれ……」
にらみ合うチャコと親玉ガイチュラ。
「ならばこれでどうだ!!」
親玉ガイチュラは体を球体状にすると、高速回転させながらチャコに突っ込んできた。
チャコはかわさない。
壁抜けができるチャコはかわす必要が無いからだ。
正面からヨーヨーを親玉ガイチュラに放った。
だが、高速回転の体が、ヨーヨーを弾き飛ばした。
そのまま親玉ガイチュラはチャコを直撃。
「ああ、チャコ!」
ダルクが叫んだ。
普通の人間だったらペシャンコだ。
チャコだから無事だと分かっていても、ダルクは思わず声を上げてしまった。
親玉ガイチュラは球体状を解除し、通常の態勢に戻った。
その背中からチャコが“生えた”。
ギロリとそのチャコを親玉ガイチュラがにらんで言った。
「やはり貴様、無事だったか……。どうやらお前には物理的攻撃は効かんらしい」
「そういう事ね」
「だが、お前たちの攻撃も俺には効かん。この勝負、我らの勝ちだ」
「どういう事?」
チャコの問いに、親玉ガイチュラが言葉を続けた。
「もう直ぐ出かけていた我々の仲間が戻ってくる。先ほどまで以上の大群だ。お前らはもう限界だろう!? これ以上は戦えまい」
「じゃあおまえだけでも片付けておかなきゃね」
チャコは両手を親玉ガイチュラの背中に置くと念を込めた。
――と。
ずぶずぶずぶと、親玉ガイチュラの体が地面に沈み始めた。
「な、なんだ? 何を始めた!」
あわてる親玉ガイチュラにチャコが言った。
「私の能力は“壁抜け”。物体を通り抜ける力。今、お前の体に、地面に対して“壁抜け”の力をかけたのよ」
「く……、うわ……」
妙な感じを覚えならが、親玉ガイチュラはどんどん地中に沈んだ。
チャコは親玉ガイチュラの体から離れた。
親玉ガイチュラはついに地面から首が出ているだけになった。
「自由を奪われる苦しみを、おまえも味わうがいいわ」
チャコの言葉に、親玉ガイチュラは叫んだ。
「なに言ってやがる! 地面に埋められたぐらいどうという事はない! 直ぐに出てやるわ!」
親玉ガイチュラは体に力を入れようとした。
しかし――、
「!?」
何も動かない。
「こ、これは?」
チャコが言った。
「おまえはただ土に埋まったんじゃないのよ。すでに地面と一体化してしまっているの。分子レベルで大地と融合しているから、もう動く事はできないわ」
「な、な、なにぃ~~! そんなバカな~~!!」
親玉ガイチュラが悲痛な声を上げた。
「ダルク、とどめはあなたが」
チャコがダルクに声をかけた。
腕の傷をおさえたまま、アオイがテレキネシスで短剣を一本ダルクに差し出した。
「これを使って」
「ありがとよ、アオイ、チャコ」
自分の目の前に浮いた短剣をダルクは握りしめると、ダルクは一歩一歩親玉ガイチュラに歩み寄った。
「う、うわあ、待て! 待ってくれ! 俺たちはただ食うためにやっただけなんだ。貴様ら人類だって牛や豚を飼って殖やしていただろう! それとおんなじだあ!」
「ガイチュラと話し合う気は無いね」
ダルクは短剣を両手で思いっきりガイチュラの眉間に突き立てた。
ギャアアアアアという悲鳴と共に、親玉ガイチュラは動かなくなった。
「ついに、やったぜ」
ダルクがアオイとチャコを振り返って言った。
だが、アオイが言った。
「ダルク、時間が無いわ。さっき、こいつが言った事が本当なら仲間がやって来る! その前に、みんなを助け出さないと!」




