5.壁抜けのチャコ
「バールとルナはまだ戻らないのか?」
「森を抜けた隣村にドライバウターがやって来るという噂を聞き、2人を送ったが……」
「果たして無事に連れて来てくれるのか」
その村の一室では、村のリーダー格の者たちが集まり、バールとルナの帰りを今か今かと待っていた。
「じたばたするのは、およし! いったんあの2人に任せた以上、信じて待とうじゃないか」
年齢30ぐらいの女性が口を開いた。
女だてらにこの村ナンバー1の戦士ダルクだ。
「き、き、き、来ました~~!!」
突然、ノックもせずに村人の男の1人が部屋に飛び込んできた。
「バールとルナが戻ってきたのかい?」
ダルクに聞かれ、男は言いよどんだ
「それが……」
村の広場に2人の女が立っていた。
ざわざわしながら村人たちが2人を取り囲んでいる。
1人はアオイ。
もう1人は10歳ぐらいの茶色い髪の少女だった。
「あんたがたが、ドライバウターだって?」
「ドライバウターってのは、女子どもなのか!?」
村人たちから声がした。
「そういう反応には……」
アオイが言いかけると、茶色い髪の少女が引き取って言った。
「慣れているわ。で、依頼の方はどうするの?」
外見に似合わず強い態度の少女の言葉に、村人たちは少々驚いた。
アオイが少女を見て小声で言った。
「ちょっとチャコ、今の私のセリフでしょ」
「いいじゃない。毎度の事だから覚えちゃった」
チャコと呼ばれた茶色い髪の少女がアオイを見上げて言った。
「なかなか威勢がいいじゃないか!」
広場に大きな声が響いた。
「あ、ダルク!」
「村一番の女戦士ダルクだ」
ダルクが、アオイとチャコの前に立ちはだかった。
背中に弓矢を背負っている。
「女だからって差別しやしない。あたしも女だからね。だけど、仕事を依頼する以上、力は試させてもらうよ」
それを聞いてアオイが次のセリフを言おうとしたが――。
チャコの方を見て、小声で言った。
「ちょっと、あんたが言うの?」
「うん」
チャコが答えた。
「じゃ、どうぞ」
アオイに促され、チャコがキッとダルクを見返して言った。
「いいけど、無料のお試しはしてないの。私の腕試しをしたいなら、報酬は倍にしてもらうわ」
チャコの言葉に、ダルクは大笑いした。
「元気だねえ。嫌いじゃないよ。だけど、あたしに大きな口をきいて無事でいた人間は居ない」
「じゃ、私が最初になるわね」
チャコが答えた。
ダルクはアオイを見て言った。
「アタシの相手、その子でいいのかい? まだ、アンタの方が強そうだけどね」
「結構よ。あなたの相手は妹のチャコがするわ」
「ふ~~ん、茶髪のチャコちゃんかい!」
ダルクは矢を1つつがえると、ギリギリと弓をチャコに向けて引き絞った。
「わ、わ~~~~!」
「危ない、逃げろ~~」
村人たちがわらわらとチャコとダルクから離れた。
アオイも数歩チャコから離れた。
「いくよ!」
矢が放たれた。
その矢は一気にチャコの額を貫いた。
「おお!」
「きゃあ」
驚く村人たち。
顔を抑えている女もいた。
アオイは表情を変えない。
ダルクの方が驚いた。
「な、なんだい、よけもしないで! いいのかい! アンタの妹、当たっちまったよ!」
「ふふふ、よく見て」
アオイの言葉にダルクはチャコをよく見た。
チャコは額を矢で貫かれながら笑っていた。
片手ですっと矢を抜いた。
額には傷1つ無い。
「どういう事だい?」
驚くダルクに対し、アオイは指揮者のように両手を動かして答えた。
「こういう事よ!」
アオイの左右大腿部に収納されている十本の短剣が飛んだ。
そして四方八方からチャコに襲い掛かった。
だが、10本の短剣は、全てチャコの体を通り抜け、地面に突き刺さった。
「これは、一体……」
今度はチャコがダルクに答えた。
「これが私の能力。“壁抜け”よ。あらゆる物は私の体を通り抜けてしまう」
続いてアオイが言った。
「そして私の力はテレキネシス。手を触れずに物を動かす事ができるわ」
地上に刺さった10本のナイフは、宙を飛んでアオイの左右大腿部の鞘に収まった。
さきほど村のリーダー格の者たちが集まっていた一室で、アオイとチャコがダルクたちを話をしていた。
「じゃあ、あんたたちはバールとルナの依頼で来てくれたのかい?」
「ええ、直接会ってはいないけど」
ダルクの問いにアオイが答えた。
「向こうの村で私達の兄弟がバールとルナから依頼を受けたわ。」
「兄弟たちから連絡を受け、私たちの方が早く来られるので、代わりに来たというわけ」
アオイの言葉にチャコが続けた。
「で、ご依頼の内容は?」
今度はアオイの問いにダルクが答えた。
「ガイチュラどもの巣から村の若者たちを救い出してもらいたい」
アオイ、チャコ、ダルクの3人はスタジアム跡地に来ていた。
スタジアムの外壁は、ガイチュラたちの糸やら粘液やらで見る影も無い。
「この中にガイチュラの巣が?」
アオイが聞いた。
「ああ」
ダルクが話し始めた。
「人間より圧倒的に強いガイチュラどもがどうしてアタシたちを全滅させてしまわないかは知っているだろう?」
「人間がガイチュラのエサだから」
チャコが言った。
まだ幼い感じなのに、表情を変えずに恐ろしい事を言う。
ダルクが続ける。
「人間が全滅しちまったら、ガイチュラたちは食いもんが無くなっちまう。だから、やつらは食う時しかあたしたちを襲わない。無駄な殺生はしないというわけさ。だが、それでも人間は少しずつ減っている。だからあいつらは始めたのさ、養殖を」
「養殖……」
アオイが繰り返した。
ダルクの話は続く。
「このスタジアムの中は、ガイチュラが人間を殖やすための巣になっている。村の若い男女50~60人がそれぞれ強制的にペアにさせられているのさ」
「村に若い人がいなかったのは、だからなのね……」
と、チャコ。
「じゃあ、行こうか」
ダルクがスタジアムの中へ向かって歩き始めた。
「あなたも来るの? ここまで案内してくれただけで結構よ」
アオイが言った。
「なめんじゃないよ。巣の1つからバールとルナを救い出したのはアタシなんだ。だけど、アタシ1人じゃそれで精一杯だった。だから助っ人にあんたたちを雇ったのさ」
振り向かず歩き続けながらダルクは言った。
「姉さん?」
どうするの?という表情でチャコがアオイを見た。
「分かったわ。一緒に戦いましょう、ダルク」
アオイとチャコは、ダルクの後をついて、スタジアムの中に入っていった。
中に入ると直ぐ、崩れた壁で通路がふさがれていた。
「くそ、この前は、ちゃんと通れたのに!」
壁をたたいてダルクが言った。
「一応向こうも用心しているのね。ダルク、あなたの力を認めているという事よ」
アオイが言った。
「だけど、中へ入れなきゃしょうがない」
チャコがダルクの手を取った。
「?」
いぶかしげにチャコを見下ろすダルク。
「忘れたのダルク? 私の“力”」
チャコが微笑みながら言った。
「え?」
チャコはもう一方の手をアオイとつないでいた。
「通り抜けるわ」
チャコを真ん中に3人は横並びになり、壁に向かって歩いた。
「おい、なにを、ちょ……、えっ?」
次の瞬間、ダルクは不思議な感覚を味わった。
自分の体が壁にめり込んでいく。
自分の体を壁が通り抜けていく。
自分の体がまるで壁と一体になってしまった奇妙な感じ。
だけど、その中をチャコに手を引かれて前へ歩いている。
やがて、壁を抜けた。
「今のは……?」
「どうだった? 初めての“壁抜け”」
アオイが笑顔でダルクに聞いた。
「壁抜け……、そうか、今のが」
「触れていれば、私は自分以外のものと一緒に壁抜けができるの」
前を見たままチャコが言った。
「あれが……、そうなのね」
チャコ10歳。
12兄弟姉妹の11番目、六女。
身長145cm。
髪の色、茶。
物体を通り抜ける“壁抜け”の能力をもつ。
腰の両脇に2つのヨーヨーを備え、武器としている。




