48.王宮の攻防
ボータイギャクの額を射抜いたのは、オレンジ王女に扮したタダシの放った電撃だった。
「ぬ……? な、なんだ?」
だが、さすがは魔人。
人間ではない。
額を射抜かれたにも関わらず、ボータイギャクは生きている。
ただ、突然のことに、何が起きたのか理解できていないようだった。
タダシはボータイギャクに向けた人差し指から、立て続けに2撃目、3撃目、4撃目を放った。
その3つの電撃は、ボータイギャクの両眼と胸を射ち抜いた。
「おのれ……、油断したわ」
肉体に少なからぬダメージを受け、しかも視力を奪われたボータイギャクはその姿をゆらりと消失させた。
「逃げた……んだよね?」
「多分ね」
タダシがダルクに答えた。
「大したもんだな、タダシ。あっという間に追っ払っちまった」
「不意打ちだったからさ」
「謙虚だね」
「そうじゃないよ。魔人のあいつは、まさか人間が超能力で反撃してくるなんて夢にも思ってなかったんだろう。油断しているからこそできた芸当だったんだ。あいつは天候を操ると言っていた。おそらく雨や風や稲妻を使ってくるはずだ。となると、1人で僕ら兄弟3人分の魔力を有するという事になる。厄介な相手だよ」
勝っておごらず。
12歳の少年が冷静に戦況を分析している。
幼いながら、タダシが既に歴戦の戦士であることを、ダルクは理解した。
ヒメールランド王宮のあるムーンストーンエリア。
王宮上空には、すでに八虐の魔人最後の1人、ムヘンが出現していた。
王宮最上階のベランダから、マサムネ王子の影武者を務めるダイゴと、ボディガードのサイボーグアンナが、ムヘンを見上げる。
ムヘンは、二十代前半の男の姿をしていた。
「我が名はムヘン。謀反とは、王の命を奪う事よ。王妃ミノリーナに、王子マサムネ。命はもらったぞ」
ムヘンは、王子の扮装をしているダイゴに向かって言った。
「そう簡単にやられはしないよ」
ダイゴは隠し持っていたネビュラメタル製ブーメランを、勢いよくムヘンに向けて放った。
宙空のムヘンは、横にすばやく体を動かし、難なくブーメランをかわした。
「そんな子どもだましの武器で、我を倒すことはできん」
アンナが身構えた。
「ダイゴ、私が行く」
「しかし」
「今のあなたは飛べないでしょう? 宙に浮いているあいつを倒すには、私が行く」
アンナは戦闘スタイルにチェンジし、両足のジェットエンジンに点火すると、空へ飛んだ。
「む? なんだ、おまえは?」
想定外の敵の出現に、ムヘンは多少驚いた様子だった。
アンナは、ムヘンに近づくと、高速のパンチとキックを繰り出した。
しかしムヘンは、さきほどダイゴのブーメランをかわした時と同様、余裕でその攻撃をかわす。
「く……」
アンナは、繰り出すパンチとキックの速度を更に上げた。
「ぬ……?」
アンナからの攻撃速度の上昇に、ムヘンは少々意外な様子だった。
さきほどまでの余裕の表情は無くなり、真剣な表情でかわしている。
そして、その表情は何かを待っているようだった。
「いけない……、アンナ、攻撃ばかりに集中してはダメだ」
ダイゴがアンナを案じた。
ムヘンがアンナに隙ができるのをうかがっているのが、ダイゴにも見て取れたからだ。
(いまだ!)
ムヘンの目が光った。
ムヘンの人差し指の一撃が、アンナのみぞおちに炸裂した。
「ぐっ」
吹き飛ばされるアンナ。
アンナは、高速でダイゴのいる王宮ベランダに弾き飛ばされてきた。
ベランダを破壊し、室内にまでアンナの体が飛ばされてきた。
内装品が崩れ、アンナが下敷きになる。
「だ、大丈夫かい?」
駆け寄るダイゴ。
「う……、だ、大丈夫よ……」
がれきの下から顔を出したアンナが言ったが、言葉とはうらはらに、その表情は苦痛でゆがんでいた。
「あ……」
ダイゴは気付いた。
さきほどムヘンの人差し指で突かれたアンナのみぞおち部分には亀裂が走っていたのだ。
「だ、大丈夫なのかい?」
再び問うダイゴ。
「大丈夫よ……。外装にひびが入っただけ……。命に別状はないわ」
命に別状は無いにしても、重症のアンナにこれ以上の戦闘が無理な事は明らかだった。
ムヘンがベランダに降り立った。
ゆっくり、ダイゴとアンナに向かって歩いてくる。
「さあ、マサムネ王子。命をいただこう」
その時、部屋の天井に無数のトゲが生えた。
そしてそれは落下してきた。
「な、なんだ!?」
それらトゲを弾き飛ばすムヘン。
今度は左右の壁が倒れてきた。
次に、床に穴が開き、ムヘンは階下に落下した。
いずれも致命傷にはならないが、ムヘンはかなり翻弄された。
「な、なんだ……? ヒメールランド王宮はオバケ屋敷かね? 奇妙なカラクリがたくさんある」
これらは、全てダイゴの変形能力による行いである。
だが、ムヘンに対して大きなダメージを与えるまでには至らなかった。
「この奇妙な現象は貴様の仕業か……? ということは、貴様、マサムネではないな? 妙な能力を持った影武者か……?」
「……」
ダイゴは黙っている。
「ふん、まあいい。影武者の貴様を倒してから、ゆっくりホンモノのマサムネ王子と、ミノリーナ王妃を探す事にするよ」
ムヘンはダイゴの至近距離まで迫ってきた。
「覚悟せい!」
ムヘンはダイゴの胸倉を掴んだ。
その瞬間、ダイゴは自身の変倍能力を発動させた。
その能力は一瞬にしてムヘンの全身に作用した。
「ぬ? な、なんだ?」
ムヘンは驚いた。
周囲の物がものすごいスピードで巨大化していったらである。
目の前にいるマサムネ王子の扮装をした少年も、巨人に変貌していく。
次の瞬間、ムヘンはこのカラクリを理解した。
周りが巨大化しているのではなく、自身が縮められている事に気付いたのだ。
これは、目の前の、マサムネ王子の扮装をした影武者の少年の仕業であろう。
「く……、いかん」
ムヘンは、ダイゴの胸倉から手を離し、跳び退いた。
これ以上、縮められるわけにはいかない。
ダイゴは、隠し持っていた金属製の虫かごのような箱をかざすと、ムヘンをその中に捕えようと振り下ろした。
ブーメランを変形させた、ネビュラメタル製の虫かごである。
「捕まってたまるか」
再び跳び退くムヘン。
ダイゴが追う。
ムヘンが逃げる。
ムヘンはついに宙空に逃げた。
飛べないダイゴは、ベランダの端に立ち、上空に制止する小さな姿のムヘンをにらみつける。
「く……、マサムネ王子の影武者の小僧。ちと、油断したぞ。出直してくるわ。首を洗って待っているが良い」
ムヘンの体もまた、すうーと消えた。
八虐の魔人を辛くも撃退した、ブラスト兄弟らボディガードたち。
マサムネ王子と7人の王女たちは、ヒメールランドの建国記念祝典に参加はしたものの、本来の目的である、魔人の再封印を行うには手遅れであった。
それぞれのエリアでの式典を終え、7人の王女達はムーンストーンエリアの王宮に戻ってきた。
兄弟たちもまた、敵の能力の情報交換を行った。
ある程度のダメージを与え、魔人たちを追い払ったが、八虐の魔人はおそらく次の機会には、8人まとめてこのヒメールランド王宮に攻撃をしかけてくるだろう。
一体、どう戦うのか……?
兄弟たちは考えた。
アンナの部屋。
腹部にダメージを追ったアンナは、人間の姿に戻り、包帯を巻いてベッドに横になっていた。
かたわらには、ダイゴとマサムネ王子が付いていた。
「アンナ、おなかの傷は大丈夫かい?」
心配そうにマサムネがアンナにたずねた。
「大丈夫よ。少し寝ていれば良くなるわ」
アンナは笑顔を作って言ったが……、損傷を負ったメカニズムが自然修復する事は無い。
しかるべき施設のある場所で、治療(修理)を受けなければならないのだ。
生体機能に障害を受けていないのが救いだったが、アンナがこのままでは戦闘不能なのは明らかだった。
「ごめんよアンナ、僕のために……」
マサムネがアンナにわびる。
「いいの……。だって私ボディガードだもの。マサムネ王子が無事だったのだから良かったわ……。ね、ダイゴ?」
アンナは黙ったままのダイゴに声をかけた。
「アンナ……」
ダイゴは言葉が無かった。
戦士である以上、危険は隣り合わせだ。
シビアな言い方をすれば、アンナが傷を負ったのは、アンナに力が無かったからである。
だが、アンナは元々なりたくて戦闘用サイボーグになったわけではない。
本人の意思に反し、運命に翻弄される形でサイボーグになってしまったのだ。
今回の戦いにだって、アンナが臨む義務など全く無いものであった。
そんなアンナが、ダイゴは気の毒だった。
今回、ダイゴの任務はマサムネを守ることだった。
アンナを守ることではない。
だから、アンナが怪我をしたからといって、ダイゴが責めを負う事は何も無いのだ。
しかし、そのような理屈で割り切れるほど、人間の感情は単純ではない。
「アンナ、とにかく今は安静にしてて……。マサムネ王子、アンナを頼むね」
言い残して、ダイゴは部屋を後にした。
翌朝。
日の出と共に、王宮上空に8人の魔人たちの姿が出現した。




