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妹弟兄姉マイティブラスター  作者: 秋保嵐馬
三.ヒメールランド王国編
47/50

47.戦いが終わったら

 宙空のハヤトに向かって跳んでくる無数の鋭利なムホンの髪の毛。

 ハヤトは腰に備えた2つの斧を抜いた。

 高速行動能力をもつハヤトの目は、マッハの速度で動くものでも捕捉することが可能だ。

 ハヤトは2つの斧で飛んでくる無数の髪の毛を全て弾き飛ばした。

 そのままムホンに向けて急降下、斧で切りつける。

 ムホンは無数の髪の毛の束を触手のように操り、それらを受けた。

 ネビュラメタル製のハヤトの斧は、ムホンの髪の毛を苦も無く切断した。

「散髪の手間が無いよう、丸坊主にしてやるぜ」

 ハヤトがムホンに迫る。

 跳び退くムホン。

 しかし、ハヤトのスピードは、ムホンにぴったりついてくる。

 ハヤトの振るった斧が、ムホンの頬に傷を付けた。

「う……、く……、女の顔によくも……、よくも傷を!!」

 傷をおさえてムホンが叫んだが、

「何が女だ。女の姿をしているだけのバケモノだろう」

 ハヤトは容赦なく切り付けた。

「うわ……、ちぃ……」

 ムホンは何とかかわすが、髪の毛を更に切られ、体にもいくつかの傷を付けられた。

「お……、おのれ……、おぼえておれ!」

 ムホンの姿は、すうーっと消えた。

「負け犬がシッポ巻いて逃げる時の定番のセリフだな」

 ハヤトは斧を腰に収納し、モモコに歩み寄った。

 2~3回、やさしくゆすると、モモコは目を覚ました。

「あ……、兄さん?」

「大丈夫か?」

「うん……、ガイチュラは?」

 周囲を見回すと、ムホンの呪縛から逃れた百体を越えるガイチュラたちが、重症の火傷と嫌虫花の匂いで、動けずに苦しんでいた。

 戦いを遠巻きに見ていた兵たちが、どうしていいのか分からずにいる。

 ハヤトが叫んだ。

「ヒメールランドの兵たちよ! 今、ガイチュラたちは動きの自由を奪われている。臆せずにそのとどめをさすのだ!」

 兵隊長が応じた。

「ハヤト殿の言われる通り。者ども、とどめだーー!」

 ヒメールランドの兵たちにより、ヒメールランド史上、初めて国土内に侵入したガイチュラたちは、全て葬られた。


 ヒメールランド国土は、宝石の名をもつ8つのエリアに区切られている。

 卵の断面図を想像してもらいたい。

 白身に当たる部分が6つに、黄身に当たる部分が2つに区切られている。

 白身の部分の6つのエリアの名は、サファイヤ、ルビー、コハク、エメラルド、サンゴ、アメシスト。

 黄身の部分の2つのエリアの名は、サンストーンとムーンストーン。

 王宮はムーンストーンエリアにあった。

 7人の王女たちは、100人の兵と、ブラスト兄弟等によるボディガードと影武者をそれぞれともなって各エリアに出発した。

 第6王女オレンジが向かったのは、王宮のあるムーンストーンエリアの隣のサンストーンエリア。

 半日でたどりつける最寄エリアだ。

 ボディガードはダルク、影武者は……なんと男子のタダシだった。

 本来なら同じ女性のダルクが影武者を務めれば良さそうなものだが、オレンジとダルクとでは体格が違いすぎた。

 14歳のオレンジは小柄で華奢なスタイル。

 一方ダルクは、身長こそアオイやアカネと同じ170cmぐらいだったが、筋肉のついたたくましい手足をしており、体重はずっとありそうだった。

 お世辞にもお姫様といった体格ではない。

 タダシが女装した方が、ずっとそれらしく見える。

 ブラスト姉妹は6人なので、王女7姉妹の足りない1人は男の誰かが務めるしかないのだ。

 不本意なまま、女装のタダシは、王女のオレンジ、ボディガードのダルクと共に馬車に揺られていた。

 御者台にはダルクが座り、タダシとオレンジは車室に居た。

「タダシ」

「なんだい、オレンジ」

「よく似合ってるわよ、かわいい」

「うれしくないなあ」

「タダシ」

「今度はなんだい」

「言葉遣いもあらためたほうがいいわ」

「言葉遣い? 僕、そんなに言葉遣い悪いかな」

「違うわよ。女の子らしい言葉遣いにすべきってこと」

「女の子らしい言葉遣いに?」

「だって、今のあなたはオレンジ王女。女の子なのよ」

「それはそうだけど……」

「じゃあ、練習しましょう」

「練習? どうするの」

「私の真似をして」

「真似を? うん……、いいけど……」

「じゃ、いくわよ。――私はオレンジ王女よ」

「私は……、オ、オレンジ王女……ょ」

「最後の方が聞こえなかったわ」

「オレンジ王女よ!!」

 タダシは半分ヤケになった。

「あ~あ、おなかが空いたわ」

「あ~あ、おなかが空いたわ」

「うまい、うまい」

「うまい、うまい」

「あ、今のはいいの。真似しないで」

「あ、今のはいいの。真似しないで」

「だからいいんだって!」

「だからいいんだって!」

「もう、タダシったら」

「もう、タダシったら」

「じゃあ、ちゃんと全部繰り返してよ」

「じゃあ、ちゃんと全部繰り返してよ」

「僕……、オレンジのこと愛してるよ」

「僕……、オレンジのこと愛してるよ」

 タダシは真っ直ぐオレンジの目を見て、言葉を繰り返した。

 オレンジの顔がみるみる赤くなった。

「ほんと?」

「ほんと?」

 タダシは相変わらず言葉を繰り返している。

「分かった! もう、繰り返しはおしまい。ね? ストップよ。――さっき、私のこと愛してるって言ったわよね? タダシ――。私のこと、どう思う?」

 一瞬の間。

 タダシが口を開いた。

「分かった! もう、繰り返しはおしまい。ね? ストッ……」

「もうキライ! 出てって!」

 オレンジはタダシを車室から追い出した。

 タダシはスカートのすそをまくり上げながら御者台のダルクの隣にやってきた。

「ずいぶんにぎやかだったじゃないか」

「そうお?」

「王女様はあんたのことが好きなんじゃないのかい。気付いてるんだろ? 本当は」

「……」

「まあ、あんな美人姉妹たちといっしょに暮らしていたら、目も肥えちまうだろうが……。オレンジ王女だって、なかなかかわいいよ」

「ダルクさんだって、美人でかっこいいですよ」

「子どものくせに言うねーー。ま、はずれちゃいないが」

「ダルクさんも言いますね」

「はっはっはっ……。今回の件――。ガイチュラ退治のドライバウターを仕事にしているあんたらが、ボディガードと影武者という畑違いの仕事を引き受けたのは、アンナのことがあったからなんだろう?」

「まあ……、そうですね」

「アンナは、あんたの弟のダイゴのことが好きみたいじゃないか」

「さあ……、どうなんでしょう」

「今回の件が終わったら、あんたらはどうするんだい?」

「それは……、無事に終わってから考えますよ。だって負けたら、もうその後の人生は無いんですから」

「シビアなこと言うね、子どものくせに。もっとも、それだけのことをしているってことか――」

「ダルクさんこそ、今回の件が終わったらどうするんですか?」

「おやおや。終わってから考えるんじゃなかったのかい?」

「僕らはそうですけど……。ダルクさんは何か考えているのかなと思って」

 女性に何かを聞かれたら、同じことを聞き返す。

 女性との会話の鉄則だ。

 姉妹6人をもつブラスト6兄弟全員が身に付けているコミュニケーションスキルである。

「そうだねえ……。戦い続けるのにも少し疲れた。温泉にでも行ってのんびりしたいね」

「今の地球にのんびりできる所なんかあるんですか?」

「秘湯があるのさ。そこは嫌虫花が咲いているから、ガイチュラ共も近づかない。なんならあんたら兄弟も一緒に行くかい?」

「そうですね……。兄弟みんなの事なので、僕1人ではお返事できませんが……、ダルクさんに誘っていただいたことは、兄弟たちにも話しておきます」

「ああ、そうしておくれ。心置きなく温泉に行くためにも、目の前の奴をどうにかしないとね」

「そうですね」

 いつのまにかオレンジ王女の行列の前には、20歳過ぎくらいの女が立っていた。

「何者だ!? 道を開けよ。オレンジ王女の行列であるぞ」

 列の先頭の兵が女に向かって叫んだ。

「よしな! 察するにその女は八虐の魔人だ。あたしたちが相手する」

 馬車の御者台に立ち上がり、ダルクが叫んだ。

 八虐の魔人と聞いて、ざわつく兵たち。

「私どもの事をよくご存知のようね。おっしゃる通り、私は八虐の魔人の1人ボータイギャク。『謀大逆』とは――、」

「王宮や王墓を損壊すること――だろ?」

 ボータイギャクの言葉を引き取ってダルクが答えた。

「よく、ご存知ですこと」

「このオレンジ王女からレクチャーを受講済みでな」

 ボータイギャクの言葉に対し、ダルクはオレンジ王女の女装をしているタダシを指して言った。

「だが、この場には、王宮も王墓も無いよ。おまえは仕事ができないと思うんだけどね」

「ふふふ……。そんなのあなたたちの命を頂いてから、ゆっくり損壊すればいいだけのことですわ」

 ボータイギャクは片手をさっと挙げた。

 それまで晴天だった空が、にわかにかき曇ってきた。

「何をした?」

 剣を抜き、ダルクがボータイギャクに問う。

「ふふふ……。刀なんかで私にかなわなくてよ。私は天候を自在に操る」

 ボータイギャクの言葉が終わるか終わらない内に、空から無数の雹が降ってきた。

 兵士たちはみな盾を頭上にかざして雹を防いだ。

 ダルクもまた、盾をかざして自身とタダシを守った。

 カンカンという音が響く。

 本物のオレンジ王女は馬車の車室の中だ。

「この雹を鋭いツララのように尖らせて、もっと大量に、もっと勢い良く落としてやることもできるよ。どうする? そんな事をしたら、全員即死――」

 ボータイギャクの言葉が途切れた。

 額を射抜かれたのである。

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