46.高速の火の玉
水着姿のアオイとラムは格闘戦を行っていた。
格闘戦といっても、ラムを傷付けるわけにはいかない。
アオイは防戦一方だ。
ラムは、人間離れした獣じみた動きでアオイに攻撃をしかけてくる。
攻撃を受け続けるアオイの手足が腫れてきた。
アオイはサイコキネシスを発動させた。
ラムの手足を押さえつける。
ラムはものすごい形相で、その束縛から逃れようとした。
目は充血し、歯を食いしばり、手足の血管が浮き上がってきた。
己の骨や筋肉を破壊してでも束縛から逃れようという力の入れようだ。
たとえば手足を縄で縛られている人間が、自身の手足を破壊してまでその縛りから逃れる事などできない。
が、ラムはそれをしようとしている。
アクギャクの魔力をかけられ、人間としてのリミッターが外れているのだ。
このままでは、ラムに大怪我をさせてしまう。
アオイはサイコキネシスを解除した。
たちまちラムがアオイへの猛攻を再開した。
「ラム、やめて!」
ベリーが悲痛な叫びを上げたが、ラムの心には届かない。
「姉さん!」
アオイの苦境にヒロシも叫ぶ。
「人の事より、自分の事を心配したまえ」
アクギャクが、指先から高圧水流を放った。
ヒロシと同じ能力だ。
だが、その水しぶきはもうもうと湯気を上げている。
ヒロシは紙一重でかわした。
「熱湯か……」
「さよう。我輩は、瞬間移動能力に加え、水と熱を操る能力をもつのだ。我輩の熱湯にふれたら、ただの火傷では済まないよ。皮膚どころか、骨まで溶けて、あっと言う間に蒸発してしまうだろう」
厄介な相手だった。
ヒロシ1人で、ヒロシ自身とキイロとモモコを相手に戦っているようなものだからである。
「そうら、くらえ!」
アクギャクが、指先から高熱高圧水流を放った。
「ちっ」
ヒロシも高圧水流を放った。
正面から激突する水流。
もうもうと水蒸気が上がる。
水蒸気の煙の向こうにいるはずの、アクギャクの姿が無い。
ヒロシは真横に殺気を感じた。
瞬間移動したアクギャクが出現した。
ヒロシが水流を放つ。
最小限の動きでその水流をかわし、カウンターでアクギャクが熱湯水流を放つ。
跳躍してヒロシはかわしたが、着地点に直ぐアクギャクがテレポートしてきてヒロシに攻撃をしかけ、ヒロシに一息つく暇も与えなかった。
戦いながらヒロシとアオイはアイコンタクトした。
お互い、唇の動きを読んで会話した。
『姉さん、交代だ』
『オッケー』
アオイとヒロシは跳躍すると、互いの立ち位置を入れかえた。
アオイが戦う相手がアクギャクとなり、ヒロシの戦う相手がラムになった。
「むう? 何のつもりかね?」
アクギャクがアオイに問う。
「こういうつもりよ!」
アオイが最大限の力でアクギャクにサイコキネシスをかけた。
手足の自由を奪い、首をしめつけた。
「か……、ぐわ――!」
苦悶の声を上げ、アクギャクの顔色が青白く変色しだした。
一方、ヒロシは水を操る自身の力を駆使して直径2メートルほどの水ボールを作り、その中にラムを閉じ込めた。
水ボールの中でラムが暴れるが、水の抵抗でスピードが出ない。
ヒロシは、中のラムに対して一気に高水圧をかけた。
「!」
ショックでラムは気絶した。
ヒロシは、水ボールを解除。
バシャーンと水が弾けとび、ラムは地上に倒れた。
一方、アオイにより最大限のサイコキネシス束縛を受けているアクギャク。
骨がきしみ、筋肉が悲鳴をあげた。
このままでは、やがて五体はちぎれてバラバラだ。
「ぐ……、くそっ! 覚えておれ……!」
アクギャクの姿はすうーっと消えた。
気絶しているラムの上半身を起こし、ヒロシは背中から活を入れた。
ラムは正気を取り戻した。
「ラム! 大丈夫?」
駆け寄るベリー。
ヒロシはベリーにラムを任せ、アオイの元に行った。
「大丈夫か、姉さん」
「うん、まあね」
アオイは、腕の腫れ上がった箇所を押さえながら言った。
「アクギャクめ……、姉さんの体をこんなにしやがって」
ヒロシは濡らしたタオルを、アオイの腫れ上がった箇所に当てた。
「ありがとう、大丈夫よ。それにしても厄介ね、八虐の魔人」
「うん、確かに。能力の相性を見極めて戦わないと面倒だね」
チェリー王女の行列。
既に八虐の魔人が出現し、進行を止めていた。
「私は八虐の魔人ムホン。『謀叛』とは外からの力を利用して国にわざわいを成す事さ」
20歳前後の女性の姿をしたムホンが言った。
対するは、チェリー王女の影武者モモコと、ボディガードのハヤト。
すでにチェリーは馬車の車室に入り、周囲を兵たちが固めている。
他の兵たちが、一斉に武器を構えてムホンに向けていた。
「フッフッフッ……、威勢がいいねえ、人間ども。だが、この私の力を見たら、驚くよ~~」
「なんだと?」
ムホンはまだ何の魔力も発動しているように見えない。
ハヤトとモモコは油断なく身構えた。
ムホンは、顔の前で両手を組み、人差し指を立てると叫んだ。
「ガイチュラ招来!!」
兵たちがざわついた。
「ガイチュラ……」
「ガイチュラ招来だって?」
「ふん、はったりさ」
「我が国には嫌虫花がある」
だが……。
空のかなたに、無数の点々が見えた。
その点々は次第に大きくなってきた。
その数、数十……、いや、軽く百を越えていた。
兵たちがざわついた。
「あれは、」
「あれは……」
「ガイチュラだぁぁぁぁーーー」
そう、それは百を越える数のガイチュラの大群だったのだ。
「馬鹿な! 嫌虫花が国土のいたる所に咲き乱れる我が国に、ガイチュラが侵入した事など、かつて一度も無かったのに!」
兵隊長が叫んだが、百を越えるガイチュラの大群がヒメールランドに侵入してきたのは紛れもない事実であった。
「アーーハッハッ、人間どもよ、ガイチュラの餌食になるがいい」
面白くてしようがないという様子でムホンはわらった。
ガイチュラたちが、チェリー王女の行列周囲に次々と着地した。
ダンゴムシ型、カマキリ型、ムカデ型、カブトムシ型、トンボ型……、ありとあらゆるタイプのガイチュラたちがそこにいた。
「ひ、ひるむなーー! 戦えーー!!」
兵隊長が檄を飛ばした。
それに触発されて、
「うわああああっ」
兵たちがヤケクソともいえる勇気を振絞ってガイチュラたちにかかっていった。
だが、通常の人間ではガイチュラにかなわない。
まして、ネビュラメタル製の武器でなければ、彼らの外甲に傷1つすら付ける事はできないのだ。
「だめ、みんな、さがって!」
モモコが、両手から最大火力で炎を放った。
「ギエェェェェェェ!!」
数体のガイチュラたちが、悲鳴を上げてあっという間に炎に包まれた。
「?」
モモコは違和感を感じた。
ガイチュラたちは、モモコの攻撃に対する回避行動を一切とらなかったのだ。
ガイチュラの表情を見る。
みな焦点の定まらない目つき、うつろな表情だ。
「気付いたようだね」
ムホンが言った。
「こいつらは私の強力な魔力で操っているのさ。今のガイチュラどもは正気を失っている。苦手なものも恐怖感も何もない。ただ、わき目もふらないでの攻撃あるのみだ!」
一応知的生命体であるガイチュラだったが、今は自身の判断力を失い、ムホンの単なる操り人形と化していた。
「モモコ! まとめて片付けるぞ、合体攻撃だ」
「了解、兄さん」
ハヤトはモモコをお姫様抱っこした。
モモコが炎を放つ。
ハヤトとモモコは1つの高速の火の玉となり、百を超えるガイチュラに次々と体当たり攻撃をしかけていった。
致命傷とまではいかないまでも、どのガイチュラも重症の火傷を負い、動きの自由を奪われた。
高速移動していた火の玉が止まった。
炎が消えると、モモコを抱いて立つハヤトの姿があった。
モモコは気を失っていた。
ハヤトの高速行動と共に炎を放ち続け、一気に消耗してしまったのだ。
「むむ、貴様……、せっかく私が招来したガイチュラどもを……」
ムホンは歯ぎしりした。
ハヤトはモモコをそっと地面に寝かせた。
「ガイチュラなんかの力を借りないで、自分で戦ったらどうだ、ムホンとやら」
「ふん、おまえら人間ごときに私の能力を使うなど惜しいわ。しかしまあ、またガイチュラどもを呼ぶのも面倒だ。一気に片を付けてやる!」
そう言うと、ムホンの髪の毛が全方位に向けて一気に伸びた。
そして生きた蛇のようにうねうねと動くと、尖らせた無数の髪の束が、先端をドリルのように回転させながら、ハヤトを突き刺そうと襲いかかってきた。
「!」
跳躍してかわすハヤト。
生きた触手のように、無数の髪束ドリルが次々ハヤトを襲う。
ハヤトが飛び退いた後の地面に髪束ドリルが刺さり、地面に次々と穴を開けた。
ハヤトは飛翔すると空中で制止した。
「ふん、遅いな。そんなスピードではこの俺は倒せない」
「おや? オマエ、人間の分際で空を飛べるのかい? ――そんなら」
ムホンは髪を元に戻した。
戻った髪は、今度は全てハヤトの方を向けて逆立った。
「これでどうだ!」
無数の髪の毛が、鋼のように硬く尖った針となって、ハヤトに発射されてきた。




