40.ボディガード
「ダイゴ!」
信じられないといった様子でアンナは声を上げた。
今、向こうの丘に、ダイゴが立っている。
ダイゴの他にも3人の人物が立っていた。
ダイゴの両脇にいる2人にもアンナは見覚えがあった。
確か、フォーグナー学園初等部新任のアカネ先生と、上級生の女の子だ。
あとの1人は大臣のゲンツだった。
アンナは駆け出した。
ダイゴも走り寄った。
アンナがダイゴに抱き付いた。
アンナの方がちょっと背が高い。
アンナに押し倒されるような形で、アンナとダイゴは草むらに倒れた。
「ごめんなさい、大丈夫?」
アンナは直ぐにダイゴから降り、ダイゴに手を貸して助け起こした。
「どうやら、お捜しの者にお会いになれたようですな」
ゲンツがやって来て言った。
「アンナ、元気だった?」
アカネがアンナに声をかけた。
「アカネ先生」
「もう先生じゃないの。ガイチュラ“シャドウセブン”を倒すまでの仮の姿だったのよ」
「え、それじゃあ――?」
「エスパシオのシャドウセブンはドライバウト(Drive Out 退治)したわ。私たちと……、あなたの仲間、ヤン、ビリー、オウカ、ハルノでね」
「シャドウセブンを倒した……、信じられない! それで、ヤンたち4人は無事なんですか?」
今度はチャコが答えた。
「ヤンとオウカの2人は重症を負ったわ。でも命に別状は無いから大丈夫。4人とも治療のために、地球の私たちの友達の所に来ているわ。私たちはあなたを迎えに来たのよ」
「あなたは……」
アンナは言いよどんだ。
フォーグナー学園初等部で顔を見かけた事のある上級生だったが、アンナはチャコの名を知らなかった。
「私はチャコ。ダイゴの姉よ。実はアカネ先生も私たちの姉なの。私たちは姉弟なんだ」
「なんだか……、急な事で、いろいろ信じられない」
「さあ、行こう、アンナ」
ダイゴがアンナを促した。
それまで黙ってやり取りを見ていたマサムネが口を開いた。
「待ってよ。いきなりやって来て、君たちは一体誰だ?」
「王子様。この者たちは、マイティーブラスターサーカス団の者たちです」
ゲンツが代わりに答えた。
「マイティブラスターサーカス団……。ああ、そうだ。見覚えがある。君は、一輪車のお姉さんだね。あとの子は……」
「僕はピエロをやっていた。メイクしてたから分からないだろうけど」
ダイゴがマサムネに言った。
「だけど、なんで君たちがアンナを連れて行くんだ。アンナはこの国のために戦ってくれる戦士なんだぞ」
「王子様、実はいろいろわけがございまして……。とりあえず詳しくご説明しますので、一度お城にお戻りください」
ブラスト兄弟とアンナは城の一室に居た。
事情の説明を受け、アンナは事の次第を全て理解した。
「ヤン、ビリー、オウカ、ハルノ。みんながキミの帰りを待っている。ヒメールランドには何の義理も無いはずだ。アンナ、4人の元へ、エスパシオへ帰るんだ」
ツヨシが言った。
「でも、ヒメールランドに義理が無いのは、皆さんも同じでしょう。私と引き換えに皆さんがここに残って戦うなんて……、申し訳ないです」
「アンナ、そんな事は気にしないで帰って。その方が僕たちもうれしいんだ」
「だけど……」
ダイゴにも言われたが、アンナは戸惑っていた。
おかしな話だが、いつでも帰れるとなると、逆に帰りがたく感じてしまう。
それは、孤独な王子、マサムネの存在があるからだろうか。
マサムネが自分を思ってくれている事にアンナは気付いていた。
今のところ、マサムネの友人といえるのはアンナだけなのだ。
「なんだか迷いがあるようね。それが何なのか、アンナ自身は言わないけど」
アカネが言った。
「何を迷っているの?」
「女の子はいろいろあるのよ」
疑問を呈するダイゴにチャコが答えた。
「分かった。ではこれからどうするかは、アンナ、キミが自分の意思で決めろ。助けが欲しい時は遠慮しないでいつでも言ってくれ」
ツヨシが話を切り上げた。
王妃ミノリーナの部屋では、王子王女たち8人が、母親からの話を聞いていた。
「ボディカード? あのサーカス団の子たちが?」
王妃ミノリーナの言葉を聞いて、長女のベリー王女が驚きの声を上げた。
「確かにサーカス団の人たちは器用でしょうけれど……。それとボディガードの腕前は別じゃないかしら」
次女のアップル王女が続ける。
「でも、このあいだ暴漢から私の事を守ってくださいましたわ」
三女のパイン王女が言った。
「そこですよ。実は彼らはサーカスが本業ではないのです。専門はガイチュラ退治。宇宙害虫と戦って倒すほどの実力者だそうなのです」
ミノリーナの言葉に、四女メロン王女が驚く。
「ガイチュラを倒すですって?」
「信じられない!」
五女チェリー王女も同調した。
「そらなら安心かも」
「この間のパイン姉さまのような事がまた起きたらこわいし」
六女オレンジ王女、七女グレープ王女の言葉からも賛意が感じられた。
「お母さま、アンナはどうなるのですか?」
マサムネは、ボディガードがどうのこうのという話には興味が無かった。
興味があるのは、アンナが今後、自分の元から去っていってしまうのかどうかという事だ。
「アンナについては、故郷に帰してやるという事で、ブラスト兄弟と約束しました。ですから、アンナはここを去る事になるでしょう」
「そんな……、そんなの僕はイヤです!」
マサムネは部屋を駆け出した。
「マサムネ!」
背後から名を呼ぶミノリーナの声が聞こえたが、マサムネは振り返らなかった。
アンナはダルクの部屋にいた。
小さいながらも傭兵達はそれぞれ個室を与えられている。
「ふーん、そうだったのか……」
ダルクはアンナからの話を聞き終えた。
「自分の意思でやって来た私と違って、あんたがここに来たのにはそんな事情があったんだね」
「ダルク、私どうしよう……」
「こうやって、相談しているって事が、すでに答えが出ているって事じゃないか」
「答えが?」
「本当に帰りたいなら、一も二もなくあんたはエスパシオに帰るはずさ。ところが、そうじゃない。アンナ、あんたには帰りたくない理由があるのさ」
「帰りたくない理由?」
「気になるんだろう? マサムネ王子の事が」
「……」
「あんたが優秀なサイボーグだって事は分かっているが、あのドライバウターの兄弟たちは相当な腕前さ。あんたが居なくたって、きっとマサムネ王子の事は守ってくれるだろうよ」
「それは……、分かっているけど……」
「けど、帰りがたい――って事だろう?」
「うん……」
「じゃあ、帰んなきゃいいじゃないか」
「え?」
「なにもこのヒメールランドにずっと居ろって事じゃないよ。帰りたいっていう気持ちになるまで居たらどうかって事だよ。私だって、あのドライバウターの兄弟連中だって、いつまでもヒメールランドに居るわけじゃない。だから、あんたもいつまでここに居るか、自分で決めればいいって事さ。私やあの兄弟たちがそうしているようにね」
「そうか……、そうだね」
ダルクの言葉で、アンナも気持ちがすっきりした。
ヤンやオウカの治療にはまだ時間がかかる事を、アンナもブラスト兄弟から聞いている。
せめて、ヤンやオウカが治るまでの間だけでも、アンナは地球に、ヒメールランドに残る事にした。
ダルクの部屋のドアがノックされた。
「アンナ、いる?」
ダルクがドアを開けると、マサムネ王子が居た。
「おや、王子様じゃないか」
「アンナがここに来ているって聞いて……、その……、アンナいるかな?」
「来ているよ、ホラ」
ダルクは、部屋の中のアンナを差した。
マサムネは部屋に入ってきた。
「アンナ……、その……、知らなかったんだ、君が無理やりヒメールランドに連れて来られていただなんて……。宇宙に帰ってしまうのかい?」
「マサムネ王子……」
「君がここでつらい思いをしないようにするよ。だから、今まで通り、ここに居てもらえないかな……?」
「私の事は心配してくれなくてもいいわ。それから……、もうしばらくここに居る事にする」
「本当!?」
「ずっとというわけじゃないけど……」
「ありがとう。良かった。もし、これで急にアンナが居なくなってしまうような事になったら、どうしようかと思って……」
横からダルクが口をはさんだ。
「マサムネ王子様よ」
「?」
「あんた、いずれこの国の王様になるんだろう? だったら、みんなの幸せを考えられる人になんなきゃいけないよ」
「みんなの幸せを?」
「ああ、そうさ。あんたは今、自分の事を考えてアンナにここに居てほしいと思っているだろう。だが、本当の王様ってのは、国民の幸せを第一に考えるものさ。あんたも、何がアンナにとっていちばん幸せなのか考える事だね」
「何がアンナにとっていちばん幸せなのかを考える……。分かったよ。……でも、僕が次の王様になるかどうかは分からないけどね」
ヒメールランド王国はこの年建国500周年を迎えた。
それを記念し、国内8つのエリアで祝典が催される。
8つのエリアには、8人の王子王女たちがそれぞれ1人ずつ列席する。
どの王子王女に誰がボディガードとして付くのか。
ブラスト兄弟は12人。
王子王女は8人。
1人につき2人のボディガードが付くとして、16人が必要だ。
足りない4人は、傭兵の中から選ばれた。
2人はダルクとアンナ。
そして――。
インセクタワーで共に戦った、ロンの村のジャックとケン。
なんと彼ら2人もまた、傭兵としてヒメールランドに来ていたのだった。
「驚いたぜ。キミたちもヒメールランドに来ていたなんて」
ブラスト兄弟は、ジャック、ケンと、固い再会の握手を交わした。
王子王女たち8人と、ボディガードの組み合わせは次の通りとなった。
第1王女ベリー(19歳)に、アオイ(24歳)とヒロシ(15歳)。
第2王女アップル(18歳)に、アカネ(22歳)とコウジ(18歳)。
第3王女パイン(17歳)に、キイロ(19歳)とケン(20歳)。
第4王女メロン(16歳)に、ミドリ(16歳)とジャック(21歳)。
第5王女チェリー(15歳)に、モモコ(13歳)とハヤト(21歳)。
第6王女オレンジ(14歳)に、タダシ(12歳)とダルク(28歳)。
第7王女グレープ(13歳)に、チャコ(10歳)とツヨシ(25歳)。
王子マサムネ(9歳)に、ダイゴ(9歳)とアンナ(9歳)。




