4.変形のダイゴ
「ダイゴ、見て見て」
「どうしたの、リオン? わあ、きれいな色の石だね」
たくさんの花が咲く草原に2人の子どもが居た。
10歳ぐらいの男の子と女の子。
ダイゴと呼ばれた男の子は、髪が銀色に輝く少年だった。
「貸してみて」
石をリオンに握らせたまま、上からダイゴがその手を両手でそっと握った。
やがて手を離すと。
リオンの手の中にあった石は、星の形に変形していた。
「すごーい! どうやったの?」
「これが僕の“力”なんだ」
遠くから2人を呼ぶ声がした。
「おおーい、リオン! ダイゴ君! 来てくれ。アカネさんが着いた」
その村にやって来たのは、アカネとバール、ルナの3人だった。
3人が待たされていた部屋に、ダイゴとリオン、それに村長をはじめとして何人かの村人が入ってきた。
「もうダイゴったら。迷子になっちゃって心配するじゃない」
ダイゴの顔を見るなり、アカネが言った。
「あの、この子、いえ、この人が、アカネさんの言っていた“彼”?」
ルナは意外そうだ。
少なくとも10歳以上は年が離れて見える。
「ええ、ダイゴって言うんです」
ルナの言葉に、アカネがにこにこして答えた。
突如現れた美しいライバルに、リオンは不服そうに頬を膨らませてダイゴの腕を取った。
それに気付いてダイゴが言った。
「もう、誤解されるような事言わないでよ。迷子になったのはそっちじゃないか。遠くまで目が見えるからってアバウトすぎるんだよ、姉さんは」
「え……?」
「お姉さん?」
ルナは納得、リオンはほっとしたという感じで同時に言った。
「言いませんでしたっけ? 彼、私の弟なんです」
ルナから村長に顔を向けてアカネが聞いた。
「――それで、“その子”はどこに?」
一行は、村の医師の家に移動していた。
ベッドの上に10代半ばの少女が寝かせられていた。
頬がこけ、目にはくまができ、衰弱した様子だ。
アカネやダイゴ、バール、ルナ、村長ら皆の前で医師が話し始めた。
「2週間ほど前のことです。水くみに出ていたリオンと姉のカノンは、ハチ型のガイチュラに教われました。何とか逃げおうせたのですが、あろう事か……。カノンは刺され、体内に卵を産み付けられてしまったのです」
医師の説明にルナが口を押さえた。
「ひどい」
「人間の体内に産み付けられた卵は1日で孵化しますよね?」
アカネはカノンの体内を透視した。
「胃の中にいますね。胃の中に入ってきた栄養を全部奪い取っています」
医師が続けた。
「それでも初めの頃はまだカノンも元気だったのです。しかし、ガイチュラの幼虫に栄養を奪われ、今はすっかり衰弱してしまいました。このまま幼虫ガイチュラが大きくなれば、カノンの体は……。ご存知のように今の時代、満足な医療機器もありません。また、仮に手術できたとして、いくら小さくともガイチュラの幼虫に襲われたら我々には手も足も出ない。だから、あなたがたドライバウターをお願いしたのです」
アカネとダイゴは顔を見合わせ、うなずき合った。
アカネが言った。
「お引き受けします。食料11日分で」
「おや、確か報酬は食料1ダースでは?」
いぶかる村長にアカネが笑顔で答えた。
「ダイゴが1日お世話になりましたから。1日分引いておきます」
カノンの寝かされている部屋の中には医師とダイゴ、アカネの3人になった。
ダイゴは宇宙服のようなスーツに身を包んだ。
これは胃液で溶かされてしまわないための装備だ。
アカネは頭にレシーバーを付けている。
これは、ダイゴとの無線通信用だ。
「じゃあ、行くよ」
ダイゴは言うと、ジャンプした。
空中でダイゴの体は縮み、身長が100分の1になってテーブルの上に着地した。
「カプセルをお願いします」
アカネに言われ、医師が薬用のカプセルを手渡した。
アカネがカプセルを開き、その中にダイゴが入った。
「カノン。起きられる?」
アカネがベッドに腰掛けると、カノンが弱々しく目を開け、微笑んだ。
「ええ……」
「このカプセルを飲んで。あなたのおなかの中のガイチュラをドライバウト(退治)する薬よ」
アカネはそっとカノンの上体を起こし、ダイゴの入ったカプセルを渡すと、コップの水で飲み込ませた。
ダイゴはカノンの胃の中に到着した。
カプセルの外に出ると、装備のライトを点灯させた。
あちこち、照らすが、幼虫ガイチュラが見つからない。
「姉さん、見つからない」
ダイゴがアカネに通信を送った。
アカネがカノンの体内を透視する。
「ダイゴ、やつは保護色で隠れているわ! あなたの後ろ――」
アカネの返信が言い終わらない内にダイゴは背後からの殺気を感じ、飛びすさった。
着地し、振り返ってライトを照射する。
一瞬、まがまがしい姿のイモムシ型ガイチュラが見えた。
しかし、再びガイチュラの姿は周囲に溶け込んで見えなくなった。
「保護色……。面倒だな」
ダイゴがつぶやく。
姿の見えないガイチュラの声がした。
「チチチチ……。このサイズの人間とは……。オマエきわめて珍しい種類のやつだな。ボクが大人になるための栄養にしてあげちゃうよ」
何もない空間からダイゴに向かって糸が吐かれた。
幼虫ガイチュラが吐いたのだ。
跳躍を繰り返してかわすダイゴ。
「チチチチ……。ボクはオマエを攻撃できるけど、オマエはボクを攻撃できまい。人間の体を傷つけてしまう恐れがあるからね」
次々糸を吐きながら、姿の見えない幼虫ガイチュラが言った。
ダイゴは壁に追い詰められた。
逃げ場を失ったダイゴに対し、幼虫ガイチュラが姿を現した。
ダイゴは腰の後ろに手を回した。
「武器を使おうってのかい? 人間の体を傷つけちゃうよ」
ダイゴが腰の背後から何かを幼虫ガイチュラに向かって投げた。
幼虫ガイチュラは、素早く横へ移動してそれをかわした。
イモムシのような体型をしているくせに、恐ろしく身軽だった。
「チチチチ……、下手くそ! どこを狙ってるんだい」
幼虫ガイチュラが糸を吐いた。
糸が、ダイゴの手足に絡みついた。
「チチチチ……、いただきまあ~~す」
巨大な口を開け、ガイチュラがダイゴに迫ってきた。
その時、ダイゴが投げた武器が戻ってきた。
それは行く手を阻むようにガイチュラの眼前を横切った。
ブーメランだったのだ。
ブーメランはダイゴの腕に絡み付いていた糸を切断し、ダイゴの手に戻った。
「チチチチ……、なんだとう!?」
ダイゴはブーメランを再び幼虫ガイチュラに投げた。
再び横にかわす幼虫ガイチュラ。
「チチチチ……、何度やっても同じだよ!!」
再び幼虫ガイチュラはダイゴに向かって糸を吐いた。
「!!」
今度はダイゴの全身が、がんじがらめだ。
「それでは、ブーメランもキャッチできまい! 今度こそ、いただきま~~す!」
幼虫ガイチュラが半身を持ち上げて大口を開け、ダイゴに迫ろうとした。
――が。
幼虫ガイチュラは大口を開けたまま動かなくなっていた。
そして、スローモーションのように倒れた。
その頭部には、ダイゴが放ったブーメランが刺さっていた。
「こっちだって考えているさ。1回目のブーメランはオマエがどう逃げるか見極めるために投げたんだ」
ダイゴが言った。
「姉さん。ドライバウト(冷徹な戦い)終了だよ」
ダイゴからの通信を受け、アカネが医師に言った。
「終わりました。胃洗浄の準備を!」
1日でカノンはかなり元気を取り戻した。
ベッドで上体を起こしているカノンのかたわらには、アカネとダイゴ、それにリオンが座っていた。
カノンが言った。
「ありがとう、アカネさん、ダイゴ君。2人は命の恩人です。フフ、ダイゴ君は私の可愛い王子様ね」
カノンの言葉にリオンがまたまた頬をふくらませてダイゴの腕を取った。
「ちょっと、お姉ちゃん。ダイゴは私の王子様なんだからね」
アカネがにこにこして言った。
「もてもてね、ダイゴ」
「やだなあ姉さん」
ダイゴが頭をかいた。
コンコンッとノックの音がした。
「どうぞ」
カノンが答えると、バールとルナが入ってきた。
「疲れているところ、申し訳ない。アカネさん、ダイゴ君、実は俺たちがこの村に来たのは、君たちに会うためだったんだ」
ダイゴ9歳。
12兄弟姉妹の12番目、六男。
身長140cm。
髪の色、銀。
物の大きさや形を変える能力を持つ。
ブーメランを武器としており、そのブーメランをもまた様々に変形させて使いこなす。