39.再会
マイティブラスターの12兄弟姉妹は、ヒメールランド王国城の謁見の間に通された。
ゲンツが言った。
「まもなく王妃ミノリーナ様がいらっしゃいます」
その言葉通り、直ぐにミノリーナが表れた。
12兄弟姉妹は座ったままだ。
「お立ちください」
ゲンツが小声で兄弟姉妹を促した。
「よい。国外の者に、国のしきたりを強制するつもりはない」
ミノリーナはゲンツを制すると、椅子にかけた。
「私はこのヒメールランド王国の王妃ミノリーナです。国王亡き今、この国を率いております」
「俺はマイティブラスターサーカス団の団長、ツヨシ・ブラストだ」
ツヨシは自分の名前に「ブラストレンジャー」の「ブラスト」をくっつけて名乗った。
「王女パインを救ってくれた事、礼を申します」
「どういたしまして」
片目をつむってキイロが答えた。
「王女様が私たちに何のご用かしら」
アオイがミノリーナに問うた。
「実は、あなた方にお願いがあっていらしていただきました」
「お願いだと?」
ツヨシが聞き返した。
「あなた方はマイティブラスターというサーカス団を名乗っていますが、実はトライバウト(Drive Out ガイチュラ退治)をなりわいとする者である事を知っています」
「ほう、それで? ヒメールランドには嫌虫花のおかげでガイチュラは近づかないのだろう。ドライバウターの俺たちに用は無いはずだが」
ツヨシの言葉に、弟妹たちもうんうんとうなずいた。
「ガイチュラと戦って倒すほどのあなた方の腕を買いたいのです」
「傭兵として雇いたいという事か? お断りだな」
「いえ、そのような兵としての扱いではありません。私の8人の子どもたちのボディガードをお願いしたいのです」
「ボディガードだと?」
「サーカスの公演中、パイン王女が襲われたのはご存知の通り。その暴漢を撃退したあなた方の腕前、見事でした。王子王女たちの命が狙われています。しばらくの間、彼らのボディガードをお願いできませんか?」
「どちらにしろ俺たちの仕事じゃない。ガイチュラに困っている人たちからの依頼を受けるのが俺たちの仕事だ」
「では、ガイチュラからこのヒメールランドを守ってください」
「話が最初に戻るな。ヒメールランドには嫌虫花のおかげでガイチュラは近づかないのだろう」
「実はその嫌虫花が狙われています」
「本当だろうな? なぜそれを最初に言わない」
「我が国の恥をさらす事になりますから。でもこうなった以上、包み隠さずお話しましょう。実は、8人の子どもたちの誰が王位を継ぐかで、我が家臣団は8つに分裂してしまっているのです。お恥ずかしい限り。このまま国の内部で争えば国は弱体化し、近隣諸国が我が国の豊富な嫌虫花を奪いに攻め込んでくるでしょう。そうすれば、多くの人々の血が流されます。そしてもし嫌虫花が失われれば、ヒメールランドもまたガイチュラに蹂躙されてしまいます」
「……」
ブラスト兄弟は黙ってミノリーナの言葉を聞いていた。
「自分の国さえ良ければいいのかとおっしゃるかもしれません。しかし、嫌虫花は場所を変えては育ちません。どの道、他国に嫌虫花を与える事はできないのです。ですから、我が国が力を保つ事が、今の勢力バランスを維持する事につながります。そのためには、王子王女たちに万一の事があってはなりません」
しばらく沈黙が続いた。
こういう時の判断はすべて長兄のツヨシが下す。
ツヨシを全面的に信頼している弟妹たちは、長兄の判断に従うのだ。
「ヒメールランドでは、金で雇った兵隊――傭兵を集めているな」
ツヨシに問われ、ミノリーナはゲンツを見た。
その辺の事情にミノリーナは詳しくないらしい。
ゲンツが意を汲んで答えた。
「おっしゃる通りです。王妃のお話にありましたように、他国から我が国を狙う不穏な動きがありますので、力のある者を集めているのです」
「その中に、アンナという10歳ぐらいの少女がいるはずだ」
「傭兵はたくさんおりますので……、急におっしゃられても直ぐに確認はできません。そのアンナという子がどうかしましたかな?」
「その子は俺たちの友人だ。さらわれてヒメールランドに来ている」
ツヨシの言葉を聞いて、ミノリーナの顔色が変わった。
「なんとゲンツ、本当か?」
「お、お待ちください。そのような事があるはずが……」
ゲンツもあわてた。
ツヨシが言った。
「あんたたちがアンナをさらったのではない事は分かっている。さらったのは武器商人ゼラーだ。買ったのか雇ったのか名目は知らんが、とにかく金であんたの国はアンナをゼラーから得た。アンナはここにいるべき子じゃない。俺たちはアンナを連れ戻しに来た。アンナを探して今すぐここへ連れてきてくれ。そうすればボディガードの依頼はお受けしよう」
戦士たちの訓練場。
長い黒髪の10歳ぐらいの少女と、30歳位のたくましい体格の女戦士が対峙していた。
「いくよ!」
女戦士が剣を抜き、少女に襲い掛かった。
剣を振り下ろす。
少女は跳躍してかわし、背後から女戦士に蹴りを見舞おうとした。
女戦士は持っていた盾でそれを受け止めた。
少女は後方に跳んで着地した。
「やるねえ、アンナ」
女戦士は構えを解いた。
「どうだい、ここの暮らしに少しは慣れたかい?」
「……」
アンナは黙っている。
「まあ、あんたもいろいろ事情があるんだろうけど、来ちまった以上、ここでやっていくしかないのさ。元気だしな」
「分かってるわ、ダルク……」
アンナと戦っていたのは、かつてツヨシ、アオイ、アカネ、チャコ、ダイゴの5人と共闘した、女戦士ダルクであった。
そこへやって来た者がいた。
ヒメールランド王子、マサムネであった。
「アンナ、ここに居たんだ」
「マサムネ王子」
「アンナ、城の庭の花壇の花がすごくきれいに咲いたんだよ。一緒に見に行こうよ」
「でも今私はダルクと訓練中なの」
「いいよアンナ、行ってきな」
「ダルク、でも……」
「王子様と花を見てたら、少しは気分も晴れるかもよ。いいから行きな」
「うん、分かった」
アンナは、マサムネの後をついて、訓練場を出た。
入れ替わるようにやってきた者がいた。
大臣のゲンツであった。
「ここに、アンナという者が来ていると聞いて来たのだが?」
「なんだい、ゲンツのじいさんか。あんたもアンナと花見がしたかったのかい?」
「おお、そなたは確か……」
「ダルクだよ。ヒメールランドに雇われてやって来た」
「うむ。うわさは聞いておる。女だてらにガイチュラを向こうに回して戦った勇敢な戦士」
「まあな。もっとも戦ったのはあたしだけじゃない。ドライバウターってすごい兄弟が手助けしてくれたのさ」
「なんと、ここでもドライバウターの名を聞くとは……」
「なんだって?」
「今、その兄弟たちがこの城に来ておるのじゃ」
「本当か? 会わせておくれよ! なつかしいな」
謁見の間に、ゲンツが戻ってきた。
「アンナとやらは見つかったのか?」
「それが……」
ミノリーナの問いに答えてゲンツが言いかけたが、
「ツヨシ! アオイにアカネにチャコにダイゴ! 久しぶりだな、元気だったかい」
ゲンツの言葉を大きな声でさえぎって、ずかずかと部屋に入ってきた者があった。
ダルクであった。
「ダルクじゃない」
アオイが声を上げた。
意外な人物の登場に、兄弟たちも驚いた。
「なつかしいーなーー。こんな所で再会できるなんて!」
ダルクは何の遠慮も無くツヨシに歩み寄ると、いきなり抱き付いた。
「あ!」
「ちょっと!」
「兄さんから離れて!」
ダルクを知らない、キイロとミドリとモモコが、ダルクをツヨシから引き離した。
「うわあ、いっぱいいるなあ。ツヨシ、全部あんたの弟妹かい?」
「ダルク、キミがなぜここに?」
「ヒメールランドに雇われて来たんだよ。傭兵ってやつさ」
「12人の内、7人はキミを知らない。自己紹介してくれないか」
ツヨシに言われ、ダルクは簡単に過去のいきさつを話した。
「あのう……、そろそろよろしいですかな?」
ダルクの話が終わる頃まで辛抱強く黙っていたゲンツが口を開いた。
「あ、悪い悪い。ゲンツのじいさん、何の用だっけ?」
「私は王妃様にご報告に上がったのです」
王妃ミノリーナも、目の前で展開される様子を黙って見ていた。
ただ、ブラスト兄弟の過去の事情を知る事は、ミノリーナにとっても興味深い事であり、不快な時間ではなかった。
「王妃様。アンナという娘は確かにおるようです。実はマサムネ様と親しい様子で……。ただ、ちょっと今、2人で城の庭に花を見に行ってしまっているようで会う事はできませんでした。代わりにこの者ダルクがやって来てこのような振る舞いを……。申し訳ございません」
「構わぬ。では、ゲンツ。ブラスト兄弟の皆さんを城の庭の花壇にご案内するのだ」
「はっ」
ゲンツには、アカネ、チャコ、ダイゴの3人が案内されて行った。
12人全員で押しかけても、アンナは他の9人を知らない。
ダイゴの事は同級生だから覚えているだろう。
アカネとチャコは、先生と上級生という事で見かけるぐらいはしていたかもしれない。
だから、この3人で行ったのだ。
花壇にはマサムネとアンナの2人だった。
「どうだいアンナ、きれいだろう」
「本当ね」
アンナは故郷、エスパシオを思い出していた。
人工宇宙都市とはいえ、エスパシオ内にも、花の咲き乱れている場所はあった。
時々家族で訪れたりもしていたのだ。
家族はどうしているだろう?
ガイチュラ“シャドウセブン”の潜んでいるエスパシオはあれからどうなっただろうか?
同じサイボーグ仲間のヤン、ビリー、オウカ、ハルノは無事だろうか?
また――。
また、転入生のダイゴはどうしているだろう。
銀色の髪がとても印象的だった。
「アンナ、何を考えているの?」
ぼうっとしている様子のアンナにマサムネが声をかけた。
「何でもないわ」
「今、ヒメールランドには、いろいろな所から戦士が集められているんだ。アンナも戦士なんだよね。僕と同じぐらいの年なのに……」
「……」
アンナは黙っていた。
その事はあまり話したくない。
子どもでありながら戦士である事は、通常の人間ではないからだ。
マサムネもそれくらいの事は察しているだろう。
マサムネはどれくらい知っているのだろう?
自分がサイボーグだという事を知っているのだろうか?
できればサイボーグである事は、人には知られたくないというのがアンナの気持ちであった。
「アンナ!」
懐かしい声がアンナの思考を中断した。
聞きたかった声が、アンナの名を呼んだ。
アンナは振り返った。
向こうにダイゴが立っていた。




