33.ブラストレッドvsガイチュラダン
「さあ、早くこいつらの息の根を!」
リズムが容赦ない口調で、ヤン、ビリー、オウカ、ハルノの4人に命じた。
「……」
4人は動かない。
「どうしたの? あんたたちがやらないっていうのなら……」
リズムは手刀を構えた。
「あたしがやるまでさ!」
リズムはとがった爪の生えた手刀の指先を、床に転がされているコウジ、ミドリ、モモコ、チャコの兄妹たちに振り下ろそうとした。
その時、コウジのポケットから小さな何かが飛び出した。
その飛び出した何かは、リズムの顔面に向かってこぶしをつき出し、巨大化しながら迫ってきた。
「!」
リズムはこぶしの直撃をくらうところだった。
かろうじてそれをかわした。
こぶしの主は、ブラストバイオレット――姿を変えたハヤトだった。
現れたブラストレンジャーはバイオレットだけではなかった。
ブラストブラック、ブラストブルー、ブラストレッド、ブラストシルバーも同時に現れたのである。
「な、なんだ?」
「なんだあ、お前ら!」
ガイチュラたちは色めき立った。
「お前たち裏切ったね」
リズムが怒りに顔をゆがめた。
「裏切るも何も……、最初からお前たちの仲間になったつもりはない」
ヤンが言った。
床に倒れていた、コウジ、ミドリ、モモコ、チャコが立ち上がった。
傷も、縄で縛られていたのも、芝居だったのだ。
これがダイゴがホテルで皆に提案した作戦だ。
兄妹たちは、ヤンたちに捕えられたふりをし、ガイチュラのアジトに乗り込んだのだ。
「お・の・れ~~~~」
リズム、ビート、トム、ダン、ゴメル、エレン、カレンの7人は、人間の姿から次々本性を現し、ガイチュラへと変貌した。
「この場はいったんひくよ!」
ガイチュラリズムの声に、7匹のガイチュラたちは部屋の外壁を突き破り、夜の街の上空に飛び出した。
「みんな、逃がすな!」
「おう!」
ブラストブラックの声に、ブルー、レッド、バイオレット、シルバーは一斉に答え、同じく外へ飛び出した。
ミドリも言った。
「私たちも」
「ああ、行こう!」
コウジの声で、コウジ、ミドリ、モモコ、チャコの4人は、ブラストシアン、グリーン、ピンク、ブラウンに姿を変えた。
また、ヤン、ビリー、オウカ、ハルノの4人のサイボーグも、それぞれ戦闘スタイルにチェンジした。
夜のエスパシオの街の上空で空中戦が展開され始めた。
ブラストスーツを着用していれば兄弟たちは飛行能力を有する。
戦闘スタイル時のヤンたちも同様だ。
ブラストレッドは、ナナフシ型ガイチュラのダンを追った。
ガイチュラダンはスリムなボディを生かして、建物と建物との狭い隙間を飛び抜けて逃げた。
「逃がさないわ」
レッドが後を飛んで追う。
飛行しながらレッドはムチを取り、前を飛ぶガイチュラダンに振るった。
ムチはガイチュラダンの足に絡みついた。
「うわっ、くそ!」
動きを封じられたガイチュラダンが悪態をつく。
ムチでつながった両者は空中でにらみあった。
「久しぶりね、ダン先生」
レッドが言った。
「なんだと? お前は誰だ」
「この顔を忘れた?」
レッドは、ブラストスーツのマスクのみをオフにした。
フルフェイスのマスクの装着が解かれ、アカネの素顔があらわになった。
赤いロングヘアーが風になびく。
首から下はブラストスーツのままだ。
ガイチュラダンは少々驚いた様子だった。
「なんと……、あんたはアカネ先生。我々の敵としてエスパシオにやって来たのは生徒だけではなかったのか」
「アンナはどこ?」
「さあ、知らんな。――我々だって探しているんだ!」
ガイチュラダンは、言うと同時に手足の鋭い爪を、弾丸のようにアカネに向けて発射してきた。
アカネは再びフルフェイスのマスクをオンにし、ブラストレッドとなった。
そして、両手でムチを持ち、棒のように伸ばすと、飛んでくる爪類をカンカンカンッと器用に弾き飛ばした。
そのままムチを引っ張った。
「うおっ!?」
ガイチュラダンがバランスをくずす。
レッドは銃を抜き、レーザーを射った。
レッドの放ったレーザーは、ガイチュラの6本の手足の内の2本を吹き飛ばした。
一方、地上には物音を聞きつけてわいわい野次馬が集まり始めた。
「なんだあれ?」
「ガイチュラじゃないか!」
「ガイチュラと戦っているほうは誰なんだ?」
「見た事もない連中だぞ!」
ガイチュラダンは、この状況を有利に活用しようとした。
残った4本の手足から、弾丸爪を地上の人間たちに向かって放ったのである。
気付いたブラストブルー、バイオレット、シルバーが、それぞれ短剣、斧、ブーメランを投げて、それらを弾き飛ばした。
弾かれた弾丸爪は、人間たちをそれ、ビル壁や路上に激突し、轟音と爆煙を上げた。
「きゃあああっ!」
「うわあ」
「なんだあ!?」
人々の悲鳴が上がる。
ブラストブラックが弟妹たちに通信機で指示を出した。
「ガイチュラ1匹に1人で当たれ。やつら地上の人間たちを無差別に攻撃する気だ。あとの者は地上の人間たちを援護するんだ」
「了解!!」
指示を聞いて、何人かのブラストレンジャーが地上に降り立った。
ヤンがブラックの通信回線にアクセスしてきた。
「ツヨシ」
「ヤンか。どうした」
「ガイチュラの何匹かは俺たちにやらせてくれ」
「キミたちに? ――だが、大丈夫なのか」
「自分たちの事は分かっている。無理はしない。1匹に対し、複数で当たるつもりだ」
「……いいだろう。じゃあ、カブトムシ型のうちの2匹をキミたち4人に任せる」
「分かった」
ブラックは弟妹たちに伝えた。
「みんな聞いた通りだ。カブトムシ型のうち2匹はヤンたちに任せた。あとは俺たちでいくぞ!」
ガイチュラダンは、自分の放った弾丸爪の攻撃が無駄に終わった事に歯ぎしりした。
「ぐぬぬ……、よくも~~」
レッドは、ムチを強く引くと、ガイチュラダンをビルの壁にたたきつけた。
「ぐふうっ」
ガイチュラダンの体がビル壁にめり込み、破片が落下した。
下には人々がいた。
「きゃあぁぁぁっ」
悲鳴が上がる。
地上に降りていたブラストグリーンとピンクが、それぞれ光線銃と火炎放射でそれらの破片を地上に到達する前に焼き尽くした。
ブラストレッドはマスクの口元のみをオフにし、口笛を吹く動作をした。
超音波攻撃だ。
ガイチュラダンの体に、みるみるひびが走っていく。
「そんな、そんな! 人間ごときにこの俺があああ!!」
ガイチュラダンの体は粉々に砕け散った。
アカネはマスクをフルフェイスに戻し、同報送信した。
「1匹目ドライブアウト(Drive Out 退治)完了」
ブラストブルーは、角を折られたカブトムシ型ガイチュラのゴメルを追っていた。
ガイチュラゴメルは、追ってくるのが1人と見るや、逃げるのをやめ反転してきた。
戦って勝てると判断したのだ。
ゴメルは巨大なボディで体当たりすべく、ブラストブルーに突進してきた。
ブルーは、突進をかわしながらガイチュラゴメルの背中に蹴りを見舞い、背後を取った。
「突っ込んで来るしか能がないようね、ゴメル」
ブルーが言った。
人間時の名を呼ばれてゴメルはいぶかった。
「なにィ……。なぜ俺の名を?」
アオイはアカネのようにマスクをオフにはせず、続けた。
「お前とはこれまでも会っている。最初は宇宙でね。他の2匹と一緒にスペースシャトルを襲ったでしょう?」
ガイチュラゴメルも、角を折られたいまいましい記憶を思い出した。
「あの時、シャトルに乗っていたのがお前か……。嬉しいぞ、この角を折られたうらみ、晴らす事ができる!」
ガイチュラゴメルは再びブルーに向かってきた。
ブルーはテレキネシスで左右の大腿部に装着してある10本の短剣を抜くと、一斉にガイチュラゴメルに放った。
通常の武器であれば、ガイチュラゴメルは自慢のボディで弾き飛ばそうとしただろう。
だが、彼はかつて角を折られている。
自分たちガイチュラに戦いを挑んでくるほどの人間だ。
戦闘能力にはそれなりの自信があるのだろうとガイチュラゴメルも踏んだ。
ガイチュラゴメルはすばやく横に移動して、10本の短剣を回避した。
だが、短剣の動きはそれ以上に速い。
10本の短剣はたちまちガイチュラゴメルに追いつき、取り囲んだ。
そして、ガイチュラゴメルのボディにあらゆる方向から切りつけた。
「ぐおおおお……、お、おのれぇぇぇ~~」
ガイチュラゴメルは下に逃げた。
ブルーと10本の短剣が追う。
ガイチュラゴメルは道路上に着地すると、走ってきたバスを4本の腕でがしっととらえ、頭上に担ぎ上げた。
その前方10メートルほどにブルーが着地した。
ガイチュラゴメルが叫んだ。
「ガッハッハッ! その短剣を捨てろ。スーツも脱げ。俺の言うなりになるのだ。さもなくば、このバスを中の人間もろともひねりつぶすぞ!」
ガイチュラゴメルの体長は10メートルを超えている。
本当にバスなどひとひねりしそうだ。
ブルーはテレキネシスを解除した。
宙に浮き、ガイチュラゴメルを狙っていた10本の短剣が、チャリンチャリンと音を立てて路上に落ちた。
アオイは続いてブラストスーツの装着を解き、私服姿になった。
「ガッハッハッ! 人間は皆同じだな。人質をとられると弱い。たちまち俺たちの言いなりだ! ――ん?」
ガイチュラゴメルは、アオイの顔に見覚えがあるのに気付いた。
「おまえは、こないだ着任した教師のアオイ。――なるほど、教師のフリをして俺たちの動きを探っていたわけか」
「ふーー」
アオイは、やれやれという様子でため息をついた。
「ガイチュラは皆同じね。不利となるや人質をとる。それで勝ったつもりでいる」
「黙れ。そのまま動くなよ。今すぐお前を食ってやる」
「私は動かないけど。お前の方は動けるの?」
「なに?」
ガイチュラゴメルは、アオイの体が少しずつ上に移動しているのに気付いた。
アオイだけではない。
ビルも、信号機も、街路樹も、何もかもが上へ上へと動いている。
だが実は、それらが動いているのではなかった。
ガイチュラゴメルが地中に沈んでいたのだ。
「げええ!?」
ガイチュラゴメルがそれを把握した時。
その体は既に胸の辺りまで沈み込んでいた。




