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妹弟兄姉マイティブラスター  作者: 秋保嵐馬
二.フォーグナー学園都市編
31/50

31.ブラストネイビーvsガイチュラエレン

「お前たちもガイチュラか」

 タダシが、サキを取り押さえている2人に聞いた。

「その通りよ。私の名はリズム。こちらはビート」

 女が自己紹介、ついで隣の男を紹介し、

「そして、その子が……」

と、顔にヒビの入ったトムを紹介しかけたが、

「紹介はいいよ。サキ先輩を離してもらおう」

 タダシはリズムと名乗った女の言葉をさえぎり言った。

 タダシの顔は、サキ、リズム、ビートに向けられていたが、指先はトムを差し示したままだ。

 今のトムならば、タダシは一撃で倒してしまえるだろう。

「このメスの人間を離さないと、トムをやるというわけね」

 タダシはトムに向けた指はそのままに、もう一方の腕を上げ、Vサインを作った。

 そして、人差し指をリズムに、中指をビートにそれぞれ向け、言った。

「トムだけじゃないさ。おまえたち2人もろとも、3人を一撃だ」

「大した自信だこと」

 リズムはビートに目配せした。

 リズムとビートはサキを離した。

「タダシ」

「サキ先輩、こっちへ来るんだ」

 サキはタダシの近くへ駆け寄った。

「さあ、そのメスは解放したわよ。その物騒な指先を下ろしてもらえるかしら?」

 リズムが言った。

 タダシは、大きく広げていた両腕を胸元に持っていった。

 狙いが解除されるとみるや、リズムとビートは、タダシとサキに襲いかかってきた。

 タダシは腕時計のスイッチを入れ、ブラストゴールドに再び姿を変えた。

 そしてサキを抱え、跳躍してリズムとビートの攻撃をかわした。

 そのまま家々の屋根を繰り返し跳躍し、家並みの向こうに姿を消した。

「ち……、逃げやがった」

 吐き捨てるようにビートが言った。

「まあ、いいわよ。今はトムを助けるのが最優先。もし、あのまま戦っていたら……、あいつが言うように一撃ではやられなかったにせよ、こっちもダメージは負ったでしょうよ。それは回避できたわけだから。――ところでトム」

 リズムがトムをにらみつけていった。

「あいかわらず食い意地が張っているわね。勝手なつまみ食いはするんじゃないよ」

「く……、ゴメンよ、リズム」

 トムは素直にリズムに詫びた。

「今は敵の正体が分からないんだから私たちも用心しないとね。あのサイボーグどもが、早く正体をつかんできてくれるといいんだけど」

 リズムが言う“あのサイボーグども”とは――もちろん、ヤン、ビリー、オウカ、ハルノの事であった。


 その日の夕方。

 タダシとサキは、サキの自宅前に居た。

「サキ先輩、ゴメンね。いろいろこわい目にあわせちゃって……」

 だいぶおびえていたサキであったが、少し落ち着きを取り戻していた。

「タダシ……。ガイチュラって、本当にエスパシオに侵入していたんだね。人間に化けて……。うわさは本当だったんだ」

「うん……」

「それに……、それに、タダシ。あなた何者なの? どうしてあんな事ができるの?」

「悪いけれど、今は何も言えないんだ……」

「……」

「約束守ってくれますか?」

 約束……?

 サキはタダシの言葉を思い出した。

『これから見る事は2人だけの秘密にしてくれる?』

 タダシにはタダシの事情があるのだろう。

 それに、タダシが自分を助けてくれた恩人である事に変わりは無い。

「分かった。今日の事は誰にも言わない」

 サキはタダシに約束した。

「ありがとう。それじゃ」

 タダシは微笑むと、サキの自宅を後にした。


 コウジ、ミドリ、チャコ、ダイゴら兄弟がとっているホテルの一室。

 彼らは、ヤン、ビリー、ハルノらから話を聞いていた。

 かつて――まだ、ガイチュラからの侵略戦争がしかけられる前。

 スペースコロニー「エスパシオ」では大規模な空気流出事故が起きた。

 エスパシオの人口の半分に当たる5万人に犠牲者や怪我人が出たが、事故の概要は地球本星には伏せられ、エスパシオ内で秘密裏に処理された。

 隠蔽の首謀者はエスパシオ市長スターナーだった。

 エスパシオでは、犠牲者達の命を救うため、彼らを本人たちの承諾なしにサイボーグとした。

 エスパシオの人口の半数はサイボーグなのだ。

 しかし、その多くは、自分がサイボーグにされてしまった事すら知らない。

 通常の治療で回復したと思っている。

 サイボーグにされてしまった者の何割かは、武器を内蔵した軍事用サイボーグに改造されてしまっていた。

 その中には、ヤン、ビリー、オウカ、ハルノ、そしてアンナの5人も居た。

 事故後、ガイチュラからの侵略戦争が始まった。

 ガイチュラたちは、エスパシオにもやって来たが、人間たちを襲ってみて、その多くが機械との混ざり物である事を知る。

 そのため食用には不適当と判断し、エスパシオからは立ち去っていったのだった。

 今“シャドウセブン”と称している7匹のガイチュラたち以外は。


「キミたちは、どうして自分たちがサイボーグだって分かったんだい」

 コウジが問うた。

 ヤンが答えた。

「偶然さ。ガイチュラたちが襲ってきた時、やけくそでガイチュラたちに向かっていったんだ。その時、体内の武器が発動してね。それで自分の体が普通の人間じゃなくなっている事を知った」

「おそらく、エスパシオには俺たち以外にも軍事用サイボーグに改造された者はいるだろう。でも彼らは自分が軍事用どころかサイボーグである事すら知らないかもしれない」

 今度はビリーが言った。

「お互いの事を軍事用サイボーグと知っている私たち5人だけ、連絡を取り合いながら、今まで支え合って暮らしてきたの」

 ハルノが続けた。

「ところが、エスパシオにはシャドウセブンが残っていた。シャドウセブンの奴らは、俺たちが軍事用サイボーグだと知ると、戦いを挑んでくる代わりに交換条件を持ちかけてきた」

 ヤンの言葉にミドリが質問する。

「交換? 何と何を?」

 ビリーが答えた。

「俺たち5人にはそれぞれ家族がいる。みんなサイボーグなんだが、家族たちは誰もそれを知らない。」

「ガイチュラは、サイボーグである事をバラさない代わりに、純粋な人間たちを提供するよう言ってきたの」

 ハルノが苦しそうに言った。

「ガイチュラはサイボーグを食べる事を好まないわ。混じりっけ無しの純粋な人間を食べたいのよ」

 ビリーが後を継いだ。

「でも、誰がサイボーグで誰が生身の人間かなんて、俺たちにだって分からない。そういう事に関してのデータは全て抹消されておりエスパシオのメインコンピューターにアクセスしても分からないんだ。俺たちはそう言って探すフリだけはしながら何とかガイチュラたちをごまかしていた。まあ、ガイチュラたちはガイチュラたちで、時々人間たちを襲っていたようだがな」

「それがユーレイ騒ぎの真相……」

 兄弟たちは納得した。

「ガイチュラたちは生身の人間たちを探し出して差し出すよう激しく要求してきた。言う事を聞かなければ、俺たちの家族に手を出すとまで脅してな。そんな時、このエスパシオにやって来たのがおまえたちだ」

 ヤンはそう言ってコウジ、ミドリ、チャコ、ダイゴを見た。

「よそのコロニーからやって来た人間なら、確実に純粋混じりっけ無しの生身の人間だ。まず、アンナの担任になりすましているガイチュラのダンが、ダイゴをおびき出すようにアンナに命じた」

「でも、アンナは断っていたよ」

 ダイゴが言った。

「アンナはいやだったのよ。自分たちのために誰かを犠牲にするなんて。でもそのせいで、逆にガイチュラのダンと戦わなければならなくなり、今は行方不明」

 そう言うハルノにチャコが聞いた。

「アンナの家族は無事なの?」

「今のところは大丈夫だ。まだガイチュラどもに手は出されていない」

 ヤンが言った。

「じゃあ、早く、ガイチュラどもを倒した方がいいんじゃない?」

 部屋の出入口の方から声がした。

 一同は、声のした方を見た。

 モモコだった。

 オウカと手をつないで部屋に入ってきていた。

「キー持っていたから部屋に入ったら、勝手に話聞こえちゃったよ」

 コウジもミドリも、チャコ、ダイゴも、写真でオウカの顔は知っていた。

「モモコ、そのコは――」

 ミドリが聞きかけたのを、モモコが引き取って答えた。

「もう知っているだろうけど、このコはオウカ。さっき友達になったんだ」

 そう言ってモモコはオウカを座らせ、自分も隣に座った。

 オウカの目が真っ赤だった事から、泣いた後であろう事が見て取れた。

「ヤン、ビリー、ハルノ、そしてオウカ」

 ミドリが先刻ビリーに向けたのと同じ笑顔で言った。

「モモコだけじゃないよ。私たちはみんなキミたちと友達になったわ」

 ミドリの言葉に、コウジも、モモコも、チャコも、ダイゴも皆うなずいた。

「その言葉には感謝する。だが、俺たちは家族をガイチュラに人質にとられているも同然だ。お前たちを倒さなければ家族に害が及ぶ……」

 ヤンが暗い表情で言った。

「それなら、こういうのはどうかな?」

 ダイゴがある事を提案した。


 時刻は夕方から夜になっていた。

 剣道部の活動を終え、ヒロシは学園から寮に向かっていた。

「ヒロシ」

 そのヒロシを呼び止めた者が居た。

 ヒロシは振り返った。

 闇の中に何者かが居た。

「誰だ?」

 ヒロシは問うた。

 それには答えず、闇の中に居た者はヒロシに襲いかかってきた。

 その者は、長い剣のような物でヒロシに攻撃をしかけてきた。

 ヒロシはかわした。

 その殺気、太刀筋には覚えがあった。

「1度ならず、2度までもかわすとは……。お前、不愉快な奴だね」

 声の主にヒロシは言った。

「エレン先輩か」

 しばしの沈黙の後、声の主は言った。

「今の一撃だけでもう分かったのかい……」

 目が慣れてきた。

 声の主の姿がヒロシにも見えるようになってきた。

 だが、その姿は人間のエレンではなかった。

 カブトムシ型ガイチュラだ。

 今、ヒロシに攻撃をしかけてきた剣のようなものは、ガイチュラエレンの角だったのだ。

 地球のカブトムシと違い、カブトムシ型ガイチュラは、メスでも角を持っている。

「お前、頭にきたから、食べてやる事にしたんだよ」

 ガイチュラエレンはそう言うと、角をヒロシに向けた。

「ちょうどいいぜ」

 ヒロシは持っていたカバンや剣道の道具を置いた。

「ガイチュラ相手なら、遠慮なくこのブラストスーツの力を発揮できるってもんだ」

 ヒロシは腕時計を胸に構え、もう一方の手でスイッチを入れた。

 ヒロシの姿は一瞬輝くと、紺色の戦士ブラストネイビーに変貌した。

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