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妹弟兄姉マイティブラスター  作者: 秋保嵐馬
一.ドライバウター登場編
3/50

3.超感覚のアカネ

 密林の中、若い2人の男女が、コオロギ型食肉昆虫のガイチュラに襲われていた。

 その体長は5メートルを超えていた。

 攻撃をかわして逃げる2人。

 女が転んだ。

 覆いかぶさるようにガイチュラが襲ってくる。

 男が女をかばった。

 迫るガイチュラ。

 2人の男女は最期を覚悟した。

 ――と。

 ガキッと音がして、ガイチュラの長い触覚が1本宙に舞った。

 2人の男女の前に、ムチを持った若い女性が立ちはだかっていた。

 腰ぐらいまでの長い赤い髪。

 彼女が振るったムチが、ガイチュラの触覚を切断したのだ。

「大丈夫ですか?」

 顔はガイチュラに向けたまま、赤い髪の女性が2人に聞いた。

「あ……、ああ、ありがとう」

 とまどいながら、男が答えた。

「コ…、コ…、コオ~ロ、コロ! なんだ貴様あ!」

 切断された触角のあった場所を押さえガイチュラが叫んだ。

 バシツ!!

 ムチをしならせながら女性が言った。

「あなたの味方で無い事は確かね」

 ガイチュラの顔が怒りにゆがんだ。

「3人まとめて食ってやるう~~!!」

 ガイチュラが襲いかかってきた。

 だが、次の瞬間、ガイチュラの顔は怒りの表情のまま胴体を離れ宙に飛んでいた。

 長い赤い髪の女性が振るったムチが、ガイチュラの首を切り飛ばしたのだ。

 ドサリと音を立ててガイチュラの首が地面に落ちた。

 首を失ったガイチュラの体は、手足をおかしな感じに動かしながら、ズズズゥ~~ンと大きな音をたてて地面に倒れた。

「ふう」

 長い赤い髪の女性は、一息つくとムチを腰の辺りに収納した。

「すごいな、君」

 男が言った。

「それほどでも。ところで、お2人は恋人同士ですか?」

 長い赤い髪の女性が聞いた。

「え、ああ、まあ」

 男が連れの女を立ち上がらせながら答えた。

「危ないところを助けてくれてありがとう。俺の名はバール。彼女の名はルナだ。ところで君は……」

 長い赤い髪の女性は、あまり話を聞いていない様子でキョロキョロ辺りを見回し始めた。

「あ、あの、君の名は……?」

 バールが再び尋ねた。

 長い赤い髪の女性が答えた。

「あ、ごめんなさい。あたしも“彼”を探してるで。私の名はアカネです」

「アカネ……さん? 髪の色と同じお名前なんですね」

 それまで恐怖にこわばっていたルナがようやく口を開いた。

「よく言われます。おかげで直ぐ名前は覚えてもらえるんですけど」

 再びアカネはキョロキョロしだした。

「あの……、さっきから何を探しているのかな?」

 やたら周囲を見回しているアカネの様子に、バールが尋ねた。

「ええ、ちょっと……、“彼”を探して……、あ、居た!」

 密林の一点を見つめてアカネが叫んだ。

「え……?」

 バールとルナもアカネの視線の先を見た。

 しかし、見えているのは密林の木々だけだ。

「あの、居たって……、その“彼氏”さん……? どこに……」

 ルナが尋ねる。

「私、目がいいんです。遠くまで見えるの」

「え……?」

 アカネの説明にルナが不思議そうな反応を返す。

「あ、いいの、いいの。お気になさらず。私、こっち行きますけど、お2人どうします?」

 先ほど見つめた方を指差し、アカネが2人に聞いた。

「この森を抜けたところにある村に行きたいんだが、迷ってしまって……」

「なあんだ、じゃあ私と行く場所は同じですね。ご一緒しますか?」

 アカネの言葉にバールが答えた。

「ガイチュラをあっという間に倒した君のような人が一緒だと心強い。だが、村はこっちの方なのかい?」

「ええ」

 答えるとアカネは歩き始めた。

「あ……、ちょっ……、待って」

 あわててバールとルナが後を追った。


 アカネもバールもルナも年齢は20代前半といったところか。

 同じぐらいの年の3人だ。

「さっきのムチ、すごい武器だね。ガイチュラをあっという間に倒してしまって……」

 バールの問いにアカネが答えた。

「ああ、これ? これ、普通のムチじゃないんですよ。ネビュラメタルっていう金属の破片を編み込んであるんです」

「ネビュラメタル?」

 今度はルナが聞いた。

「ええ、宇宙の、とある星雲から採掘された特殊金属です。今のところガイチュラの体を切れるのはネビュラメタルだけなので」

「そうなんだ……」

「!」

 アカネが歩を止めた。

「どうしたんだい?」

「しつ! お静かに」

 バールをアカネが制した。

 しばしの沈黙。

「アカネさん、一体……」

 今度はルナが尋ねた。

 アカネが答えた。

「聞こえます」

「聞こえる? 何が」

「2人とも伏せて!」

 アカネが両腕を伸ばして両脇のバールとルナごと自身の身を伏せた。

 その上空を巨大な影が横切った。

 影は、3人の前方10メートルぐらいの場所に着地した。

 コオロギ型のガイチュラだった。

「コロコロコロコロ、コ~ロ、コロ。人間……、おまえたち、おまえたちだね……、アタシの旦那を倒したのは!」

「旦那?」

 アカネは悟った。

 さきほどアカネが倒したガイチュラは、このガイチュラとつがいだったのだ。

 アカネは、バールとルナを背にして立ち上がった。

 背後のバールとルナは、抱き合って恐怖の目でガイチュラを見上げている。

 それにガイチュラが気付いた。

「ココココ。おや、そこの人間のオスとメスはつがいかい? ちょうどいい。同じ苦しみをあんたらにも味合わせてやるよ!」

 ガイチュラが襲いかかってきた。

 アカネはムチを抜き、振るった。

 ビシッという音と共に、アカネの振るったムチがガイチュラの腕の1本を切り飛ばした。

「ギャアア!!」

 ガイチュラは失った腕の切断面を別の腕でかばいながらアカネから離れた。

「おのれ人間め……。そのムチにはネビュラメタルが使ってあるね」

「ご明察。よく分かっているようね」

 ビシッとムチをならしながら、アカネが答えた。

「さあ、来なさい。仲間の元へ送ってあげるわ」

「ココココ……。フン、いい気になるんじゃないよ。そのムチもここまでは届くまい」

 ガイチュラは、アカネのムチの間合いの外まで距離を取っていた。

 確かにこれではアカネのムチはガイチュラまで届かない。

「あんたも、こっちまで近づけないでしょ」

 ムチを直ぐに振るえる態勢を取りながらアカネが答える。

「コ~ロ、コロ。バカめ、アタシにはこれがあるのさ!」

 ガイチュラは、背中の羽根をすり合わせ始めた。

 そこから、強力で耳障りな音波が発せられた。

「ぐわあ」

「きゃあ」

 バールとルナが両耳を押さえて悲鳴を上げた。

「く……」

 アカネも顔を曇らせてうめいた。

「ココココ。アタシの音波でいかれちまいな! それからゆっくりお前らを食ってやる」

 ガイチュラはバールとルナを見た。

「そこのつがいの人間。初めにオスの方を食ってやるよ……。メスの方は、アタシと同じ苦しみを味わいな」

 ガイチュラは距離を取ったまま、更に音波の強度を増した。

 木々が震え、大地が揺れた。

 アカネはムチを落とした。

「そろそろ、限界のようだね?」

 ガイチュラがゆっくりと近づいてきた。

 ――と、アカネが顔を上げた。

 そして、口笛を吹くような、息をガイチュラに向かって吹きかけるような表情をした。

 その途端、辺りがしんと静まり返った。

 ガイチュラの羽根は相変わらず激しく動き続けている。

 しかし、何も聞こえない。

「コ?、コ、コ、これはどういう事だ?」

 アカネは相変わらず口笛を吹くような表情をガイチュラに向けている。

「まさか、お前も音波を出しているのか? それで、アタシの音波を中和して……」

 アカネの表情が険しさを増した。

 今度は、キーンというさっきとは別の音が辺りに響いてきた。

 アカネの口から発せられているのだ。

 ビシッと音を立てて、ガイチュラの体にひびが入り始めた。

「コ、コ、これは一体……!?」

 ガイチュラの羽根が砕け散った。

 ガイチュラの外甲が崩れ落ちた。

 体の筋肉がむき出しとなり、ガイチュラは無防備な姿となった。

 アカネの口から発せられた超音波が、ガイチュラの羽根や外甲を破壊したのだ。

 アカネは音波の発振を止めた。

 アカネはムチを拾い上げてビシッと鳴らすと、険しい表情のままガイチュラに歩み寄ってきた。

「ま、ま……、待て、待っておくれ。あたしゃ何も好きで人間を襲ったわけじゃないんだよ。旦那のカタキを取りたかっただけなんだ。もう人間は絶対に襲わない。許しておくれ、助けておくれ、あたしはもう戦えない。お願いだよ……」

 ガイチュラは涙を流して命乞いをした。

「ま、待って、アカネさん」

 背後からルナが声をかけた。

「?」

 アカネは歩みを止めた。

「そのガイチュラ……、パートナーも失って可哀相。もう戦えないという事だし、命だけは助けてあげられませんか?」

 この意外な申し出に、まずバールが驚いた。

「ルナ……、何を」

「だって、気の毒じゃない。私だってバール、あなたを失ったら辛いわ……」

「しかし……」

 ルナの声に、ガイチュラの表情が喜びに変わった。

「ありがとう、ありがとうよ、人間。この恩は一生忘れないよ」

「……」

 アカネはムチを構えたまま黙ってやり取りを聞いていたが、構えていたムチを下ろすと、ガイチュラに背を向けた。

「ああ、許してくれるのかい……」

 そのアカネの姿にガイチュラが言った。

 アカネはゆっくり、バールとルナに向かって歩き始めた。

「ありがとう、ありがとう、この恩は一生……」

 涙を流しながら命乞いをしていたガイチュラの表情が、凶悪なものに豹変した。

 そして、

「あたしゃ、忘れっぽいんだよォォォォォォ!!」

 そう叫ぶと、まだ残っている腕の爪を振りかざして背後からアカネに襲いかかってきた。

「そんな!」

「ひきょうだぞ!」

 ルナとバールが同時に叫んだ。

 その時、

 バシッ!!

 ムチを振るう、ひときわ大きな音が響いた。

 ガイチュラの動きは襲い掛かる態勢のまま止まっていた。

 ガイチュラの体に、下から上にかけて、垂直に亀裂が走った。

 そのまま、右半身と左半身にガイチュラの体は分かれ分かれに裂け、それぞれ左右に倒れた、

 ドドオォんと鈍い音がした。

 アカネがガイチュラに背を向けたまま、背面垂直にムチを振るったのだった。

「アカネさん……、ごめんなさい、私……」

 ルナが自身の非を詫びた。

「ガイチュラと人類は絶対に相容れないの。ガイチュラは人間をエサにする。ガイチュラに情けは禁物。ドライバウト『dry bout(冷徹な戦い)』に徹するのよ」

 アカネの言葉にバールが悟った。

「ドライバウトだって? じゃあ、君は……」

「私はドライバウター。ドライバウターのアカネ」

 アカネ22歳。

 12兄弟姉妹の3番目、次女。

 身長170cm。

 髪の色、赤。

 透視、遠聴、口から放つ超音波など、超感覚器官の持ち主。

 また、ムチを武器とする。

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