29.ブラストピンクvsサイボーグオウカ
「ねえ、モモコ。私あなたに手紙たのまれちゃった」
「手紙?」
フォーグナー学園中等部2年生の教室で、クラスメートのサキがモモコに話しかけてきた。
「ほらこれ」
「誰から?」
手紙を受け取り、モモコは封筒の裏表を見た。
何も書いていない。
「同じ学年のオウカって女子からだよ。開けてみたら? もしかしてラブレターかも」
「まさか。女の子同士じゃない」
「だってモモコ、女子からも人気あるし」
「そんなわけないって」
「……」
「……」
どうやら、サキはモモコが手紙を開封するのを待っている。
一緒に中身を見たいらしい。
「開けて見せてよ」
「しょうがないなあ」
モモコは手紙を開封した。
中には便箋が1枚。
「放課後屋上で待っています」
1行こう書いてあるだけだった。
「やっぱ、これラブレターじゃない! どうするモモコ、屋上で告白されちゃったら?」
サキのテンションが上がる。
だが、モモコは別の事を考えていた。
この、オウカという子は、4人のサイボーグの内の1人かもしれない。
まあ、サキの言うような内容の可能性も無いとはいえないが。
どちらにしろ、屋上で顔を見れば分かる事だ。
ミドリが撮った写真で顔は分かっているのだから。
放課後になった。
「サキもついてくるの?」
階段を昇りながら、後ろから上がってくるクラスメートにモモコが言った。
「いいじゃん。お邪魔はしないから。こっそり見るだけ」
モモコは思った。
もし、オウカが4人のサイボーグの内の1人だとしたら――、サキを危ない目にあわせてしまうかもしれない。
一応、手は打っておいたが……。
階段を昇りきり、モモコは屋上へ通じるドアを開けた。
光がまぶしい。
目が慣れると――。
向こう側で、手すりに両腕をのせ、外を見ている1人のセーラー服の少女が視界に入った。
オウカだろう。
「サキはここに居てね」
「分かってる分かってる。邪魔はしないから」
モモコはサキを屋上出入用の建物内に残し、屋上へ歩み出た。
オウカに向かってゆっくり歩いていく。
オウカは振り向かない。
「手紙をくれたの、キミ?」
モモコはオウカの背中に問いかけた。
「1人で来てほしかったな」
背中を向けたまま、オウカは言った。
「何の用かな?」
モモコは聞いた。
オウカは振り向いた。
オウカの顔は写真の4人の内の1人だった。
突然オウカの姿が消えた。
モモコは戦闘体勢をとった。
だが、オウカはモモコに攻撃をしかけてきたのではなかった。
モモコは、サキが居た場所を見た。
オウカが気絶したサキを支えて立っていた。
オウカは高速でサキの所まで移動し、みぞおちを打って気絶させたのだ。
「オウカ、サキをどうする気?」
モモコは問いかけた。
「あたしの名前を知ってるの? そうか、このコに聞いたのね」
オウカが答えた。
「こっちもあんたの事は知ってるよ、モモコ」
ヤンは、コウジやチャコと対決する前に、ビリーとオウカに12兄弟のデータだけは送信しておいたのである。
それを受信したオウカは、モモコが同じ学年に居た事に直ぐに気付き、手紙をたまたまモモコと同じクラスだったサキに託したのであった。
「自己紹介の手間はお互い省けたって事ね。で、何の用? まさかこの状況で告白じゃないよね」
「フン。あたしは百合じゃないよ。あんただって桃だろ」
モモコの言葉に答えながら、一瞬オウカの頭に浮かんだ顔があった。
ビリーであった。
「モモコ。あんたには今からあたしの言う事を聞いてもらうよ」
「いやだと言ったら?」
オウカは笑った。
「この状況で断れると思ってるの? このコがどうなってもいいわけ?」
モモコも笑った。
「“いい”と言ったら?」
オウカの表情に動揺と怒りが浮かんだ。
「何だって、あんたそれでも……」
その時オウカは殺気を感じた。
次の瞬間、オウカの足元に電撃が落とされた。
オウカはサキを放し、跳びのいてそれをかわした。
オウカは着地し、たった今自分が立っていた場所を見た。
電撃で床が焦げている。
サキの姿は無かった。
オウカは、屋上出入用の建物の上に立っている者に気がついた。
金色の戦闘服に身を包んだ者が、サキを抱きかかえて――いわゆる“お姫様抱っこ”で――立っていた。
体格はそんなに大きくない。
中2の自分よりちょっと小さいかも――オウカは思った。
金色の戦士とモモコは目配せした。
金色の戦士は、サキを抱きかかえたまま跳躍すると姿を消した。
これがモモコの“打っておいた手”だ。
金色の戦士は、タダシが姿を変えたブラストゴールドである。
「モモコ、あんた……」
オウカが、悔しそうにモモコをにらんだ。
「今の奴はあんたの仲間だね」
「教えてあげない」
オウカの体が輝き出した。
「ふん、いいさ。人質なんか居なくたって、あんたなんかに負けないもの」
オウカもまた、ヤンやハルノ、ビリー、アンナらと同様、メタリックボディの戦闘スタイルにチェンジした。
そして、モモコに向かって、高速で襲いかかってきた。
『速い!』
モモコは何とかオウカの攻撃をかわした。
さきほど、一瞬にしてサキを人質にとったスピード。
そしてこのメタリックボディ。
オウカが通常の人間でない事は明らかだ。
やはりモモコたち兄弟の考え通り、オウカはサイボーグなのだ。
モモコは腕時計を胸に構え、スイッチを入れた。
たちまちモモコの全身は、桃色の戦闘服に包まれた。
ブラストピンクだ。
「変身した……。モモコ、あんたもサイボーグなの?」
オウカがブラストピンクにたずねた。
その言い方には、ブラストピンクを敵扱いするよりは、同じ境遇の者同士なのかもしれない――といった淡い期待、仲間意識のようなニュアンスが込められていた。
ブラストピンクもそれは感じた。
だが、嘘はつけない。
ピンクは冷徹に答えた。
「違うわ。私はサイボーグじゃない」
その答えに、オウカはまたやり場の無い怒りを感じた。
「ちくしょーー、おまえなんか!」
オウカが再び高速で襲いかかってきた。
ブラストピンクとなった今、その動きは全て見えていた。
オウカの繰り出す、こぶしを、蹴りをかわし、ピンクもまた、こぶしを、蹴りを、オウカに放った。
両者は互いに後方に跳びのくと距離をとった。
「おまえ……、サイボーグじゃないの? 人間なの? 人間なのに、なんでサイボーグのあたしと互角に戦えるのよ?」
オウカが問うた。
「……」
ピンクは答えない。
「あたしは、なりたくもないサイボーグになって……、この力を手に入れたってのに!」
オウカは目からビームを放った。
ピンクは跳躍してかわし、先ほどブラストゴールドが立っていた屋上出入用建物の上に立った。
「オウカ……。その事についてはこちらも話をしたいの。戦いはやめて、話せない?」
「何よ、エラそーに!」
オウカは再びビームを放った。
ピンクは跳躍し、オウカの頭上で空中回転すると、背後に立った。
そして、人差し指をオウカの背中に突きつけ言った。
「勝負あったよ」
ミドリがビリーにやったのと同じだ。
だが、オウカはビリーより気性が激しかった。
ピンクに射たれたって構わないという勢いで振り向くと、手刀を放ってきた。
ピンクはバク転でそれをかわし、何回かバク転を繰り返してオウカと距離をとった。
「何よ、射たないの? ただの脅し?」
オウカはやけになっていた。
ピンクは思った。
携帯している銃の電撃をうまく使えば、オウカを気絶させられるかもしれない。
ピンクはこの時まだ知らなかったが、コウジとチャコが、ヤンとハルノに対し、同じ事をしていた。
だが、それは至近距離から十分パワーをコントロールして射てばの事だ。
お互い高速で動き回りながらでは、それは難しい。
パワーを絞りすぎては電撃自体効かないし、パワーを上げすぎてはオウカに大きなダメージを与えてしまうだろう。
また、1度射って失敗すれば、オウカはモモコの銃への警戒を強めるだろう。
ますますチャンスは少なくなる。
どうしよう……、どうすれば?
ピンクは決断した。
ピンクは腕時計のスイッチを入れ、ブラストスーツの装着を解除した。
そこには、セーラー服を来た中学2年生のモモコが立っていた。
「なんの真似だよ! そんな事して、あたしがやめるとでも思ってんの」
オウカは叫ぶと、モモコに襲いかかってきた。
モモコは目を閉じた。
オウカからの攻撃は――、モモコに届かなかった。
モモコは目を開けた。
モモコの前に両膝をついたオウカの姿があった。
戦闘スタイルの変身は解かれていた。
「何よ……、何よ、バカ!」
オウカの目からは涙があふれていた。
フォーグナー学園中等部保健室。
ベッドにはサキが寝かされていた。
かたわらに座っているのは、先ほどブラストゴールドとしてサキを助けたタダシだった。
サキの意識が戻った。
「あれ……? 私……」
「気がつきましたか、サキ先輩」
タダシが声をかけた。
「あなた……、誰?」
サキの問いにタダシは答えた。
「保健委員1年生のタダシです。サキ先輩が屋上で貧血起こしたって、2年生のモモコ先輩から頼まれて……、それで連れてきました」
「え……、あたしが貧血……?」
サキは記憶の糸をたどった。
屋上でモモコと一緒にオウカの後ろ姿を遠目に見たまでは覚えていたが、そこから先の記憶が無かった。
タダシの言う通り、貧血を起こして倒れたのか……、今までそんな事なかったけど――。
「あなた、1人で運んでくれたの?」
「ええ、まあ」
自分よりまだちょっと背が低そうな男子に抱きかかえられて運ばれたなんて――。
サキは恥ずかしさで真っ赤になった。




