28.ブラストグリーンvsサイボーグビリー
戦闘スタイルに姿を変えたビリーに対し、ミドリはその姿自体を消した。
透明化したのだ。
「なに、消えただと?」
路地裏のあちこちから声が聞こえてきた。
「もう気付いているだろうけれど」
「私は自分の姿を見えなくする事ができるの」
「この状態からキミを攻撃する事もできるわ」
「戦ってもキミに勝ち目は無いわよ」
ビリーは視覚を熱探知モードに切り替えて周囲を見た。
……居た!
姿は見えないが、周囲に比べて明らかに温度が高いモノが居る。
それは、あちこちへ移動しながらしゃべっている。
だから、いろいろな場所から声が聞こえるように感じるのだ。
「そこだあ!」
ビリーは目から破壊光線を発射した。
そのモノは、ビリーの攻撃をすばやくかわすと、姿を現した。
ミドリであった。
「大したものね。姿が見えないのに、私の場所が分かるなんて」
「人間は体温をもっているからな。周囲より温度の高い場所が、おまえのいる場所というわけさ」
「そう。――じゃあ、これならどう?」
ミドリは、ブラストグリーンに姿を変えた。
「おまえも変身するのか?」
問われてミドリはビリーに言った。
「そしてまた姿を消すわ」
「何度やっても同じ事だ」
ビリーは再び熱探知モードで、姿を消したブラストグリーンを探した。
ところが今度は分からない。
ブラストスーツは熱を遮断する。
そのため、今度こそ、ビリーにはグリーンの場所が分からなかった。
しかも、教会の時やさっきと違って、グリーンは声も発しない。
せめて声が聞こえてくれば、どの辺りにいるか見当がつくのだが――。
こつんとビリーの後頭部を何かが押した。
銃口か!?
ビリーは振り向こうとしたが、
「動かないで」
と、ミドリの声がした。
ミドリは姿を現した。
ブラストグリーンの姿は解いていた。
「ここで引き金を引けば、私の勝ちだけど」
「なにぃ……、まさかこんな簡単に」
「キミは私の事を敵だと思っているようだけれど、私はキミの事を敵だと思ってないわ。話……できるかな?」
「……」
「教会でも聞いたけれど、アンナって子、キミの仲間でしょ。どこにいるか知っている?」
「……」
「アンナは私の弟と同級生なの。弟もアンナの事を心配している。助けたいんだよね」
「アンナを……助ける。本当か?」
ミドリの言葉に、ビリーは少し態度を軟化させた。
「本当だよ。でなきゃ、こんな事してないで、さっさとキミの事、射っちゃってるよ。――ばん!」
ばん――と言われて、ビリーは思わず肩をすくめた。
しかし――、体は何ともない。
ビリーは振り向いた。
にこにこしながらミドリがビリーの後頭部につきつけていたのは、彼女の人差し指だった。
「なんちゃって」
ミドリは人差し指をおろした。
「信用してくれた?」
ミドリがビリーの後頭部に突きつけていたのは、銃口ではなくただの指だった。
「もうその姿はやめて、人間の格好に戻りなよ」
ミドリに言われてビリーも変身を解いた。
ミドリは最初から自分と本気で戦うつもりはなかったのだとビリーは悟った。
もっとも、ミドリはその気になれば指先からレーザーを放つ事ができるのだが、それはビリーの知らない事であった。
敵対心むき出しだったビリーは、笑顔のミドリにどう対してよいか分からず戸惑った。
「あ、ああ……。少なくとも、今は俺の敵ではないという事は分かった」
「自己紹介しよう。私ミドリ。フォーグナー学園高等部の2年生ね。キミは?」
ミドリは握手しようと、右手を差し出した。
「俺は……ビリー。高等部の1年生だ」
ビリーはしぶしぶという感じで手を出した。
「1年生? なあんだ、じゃあ、私の方がお姉さんじゃん。キミ、後輩のクセに先輩への態度がなってないよ」
ミドリはビリーと握手しながら言った。
「その……、アンナを助けたいと言っていたな。どういう事だ?」
「うーん」
ミドリはちょっと考え込むようなしぐさをすると言った。
「ここでは、誰かに聞かれるかもしれない。場所をかえましょう」
ヤンとハルノは目を覚ました。
既に戦闘スタイルの変身は解かれ、通常の人間の姿に戻っている。
「ハルノ、大丈夫か?」
ヤンがハルノに声をかけた。
頭がしびれる感じがする。
記憶を探った。
たしか、教会でコウジとチャコの2人と戦っていたのだ。
だが、最後に動きを封じられ、銃を突きつけられた。
そして……、そこからは覚えていない。
気がつくと、ここに倒れていたのだ。
倒れていた“ここ”とは――。
周りが金属の壁に囲まれた立方体の部屋だった。
1面だけが、壁ではなく鉄格子になっている。
どうやら捕えられ、牢に入れられてしまったようだ。
「ヤン……、ここ、どこなの?」
ハルノも頭がぼうーっとしているようだ。
「分からん。どうやら捕まってしまったらしいな」
ヤンは、鉄格子を両手でつかむと、全力で曲げようと試みた。
だが、びくともしなかった。
「だめか……」
その時、鉄格子の向こうから声がした。
「あ、気がついたみたいだよ」
声のした方を、ヤンとハルノは見た。
そして驚愕の声を上げた。
「うわあああああああっ!!」
なんと、鉄格子の向こうからは巨大な顔が、自分たちを覗きこんでいたのだ。
その顔には見覚えがあった。
最近エスパシオにやってきた12人の内のいちばんの年少者――ダイゴだ。
ヤンとハルノの内臓メモリーにはそう記憶されていた。
「どれどれ、あ、本当」
ダイゴの隣から顔を出したのは、巨大な女の子の顔――チャコだった。
さらにコウジも顔を見せた。
彼ら3人の背後には、窓やテレビ、テーブルなどが見えた。
みな巨大だ。
この時、ヤンとハルノは悟った。
コウジやチャコやダイゴが巨人になったわけではない。
自分たちが小さくなっているのだ。
そして、この、虫かごのような金属の箱に閉じ込められているのだ。
なぜ、自分たちが小さくさせられているのか……、ヤンとハルノには知る由もなかった。
「俺たちを……、俺たちを一体、どうする気だ?」
ヤンが、コウジたちに問いかけた。
「どうもしやしない。ただ、話をしたいだけだ。この部屋に連れてくるに当たって、目立たないように小さくなってもらっただけだよ」
コウジがヤンに答えた。
ブラストシアンとブラウンが、ヤンとハルノを大地に固定し、銃を突きつけた。
この時、シアンとブラウンが放ったのは電気ショックだった。
電気ショックで、一時的にヤンとハルノを気絶させ、そこにダイゴを呼び、小さくしてここへ運んだのである。
ここ――は、スペースコロニー「エスパシオ」内のホテルの一室だ。
コウジたち兄弟は、ホテルを取り、活動拠点の1つとしていたのである。
「ボクたちは、多分キミたちの敵じゃない。キミたちはボクらを敵だと思っているようだけれど……。話がしたいんだ。だから、ゆっくり話ができるようにここへ連れてきたのさ」
コウジはヤンとハルノに説明した。
「もうすぐ、あなたたちの仲間がここへ来るわよ」
コウジの言葉にチャコも続けた。
ドアがノックされた。
「どうぞ」
コウジがドアを開けた。
入ってきたのは――ミドリとビリーだった。
ヤンとハルノは驚いた。
なぜ、ビリーが戦いもせず、こいつらの仲間といっしょに歩いてここへやって来たのか理解できなかったからだ。
「2人は?」
ミドリに聞かれて、ダイゴが答えた。
「ここ」
「出してあげて」
ミドリが言った。
一瞬ダイゴはためらったが、ミドリの表情が「大丈夫だから」と告げていた。
ダイゴは“変形変倍”の能力で、変形させていた箱を自分のネビュラメタル製ブーメランに戻し、また、ヤンとハルノも元の大きさに戻した。
ビリーが驚いた。
「ヤン、ハルノ、今いったいどこから――?」
ヤンとハルノは、ミドリやコウジたちに対し身構えると叫んだ。
「ビリー、おまえの方こそ一体どうした! なぜ、こいつらの仲間と一緒に居る?」
ビリーがあわててヤンとハルノを制した。
「待て、ヤン、ハルノ。彼らは俺たちの……敵じゃない」
「そんなのは初めからどっちでもいい事だ。俺たちはこいつらを倒さなければならない。倒さなければ、俺たちの家族が……分かっているだろう!」
戦闘体勢のままヤンが叫び続ける。
「やっぱり、何か事情があったのね」
ミドリが言った。
「落ち着いて。少なくともこの部屋でのやり取りは外に漏れないわ。盗聴器の類が無い事は確認済みだから」
アカネが透視能力で部屋の隅々までよく見ておいたのだ。
もし何か不審な物が壁に埋め込まれていたとしても、チャコの“壁抜け”の力で直ぐに取り除いた事だろう。
「まあ、座れよ」
そう言うと、コウジが先にソファにかけた。
ダイゴ、チャコ、ミドリも座った。
ビリー、ヤン、ハルノは、まだ立ったままだった。
特に、ヤンとハルノは、まだ戦闘体勢を解いていない。
「ヤン、話だけでもしようじゃないか」
ビリーも座った。
「……」
「……」
立っているのはヤンとハルノだけになった。
「――分かった。話はしよう。ハルノ」
ヤンは、戦いの構えを解き、ハルノにもまた解くよう促した。
ヤンとハルノも席に着いた。
ミドリが口火を切った。
「じゃあ、まず自己紹介しましょうか。私は――」
「知っている。ミドリだろ」
ヤンがぶっきらぼうに言った。
「ミドリ、彼はボクらの事を知っているんだ」
コウジが説明した。
「なんだ、そうなの。でも私は知らないわ。名前を教えてくれる?」
「……俺はヤン。こっちはヤルノ。今ミドリと入ってきたのがビリー」
ミドリにたずねられ、ヤンはゆっくり話し始めた。
「もう分かっていると思うが、俺たちはサイボーグだ。このエスパシオで軍事用に違法改造された」




