27.ブラストブラウンvsサイボーグハルノ
「兄さん、大丈夫?」
「チャコ、いいところへ来てくれた」
ブラストシアンとチャコのやり取りを聞いていたヤンが言った。
「兄さんだと? おまえたちは兄妹か。だからさっき、ハルノの事を『妹か』と聞いたんだな」
「まあね」
シアンが答えた。
「く……」
ハルノは、腕に巻きついたヨーヨーを外すと、地面に投げ捨てた。
「ヤン、このチャコって奴はあたしがやる! ――大丈夫、今のあたしたちなら勝てるよ」
「2対2となってしまっては仕方がないか……」
ハルノに答えながらヤンは考えた。
どうする?
ビリーとオウカを応援に呼ぶか?
呼べばおそらく2人はフルスピードで駆けつけてくれるだろう。
だが、コウジとチャコも、彼らは彼らで応援を呼んでいるかもしれない。
現在、何とか渡り合えているが、もし12対4の戦いになったら、絶対に勝てないだろう。
ビリーとオウカを応援に呼ばなければ、最悪、敗れるにしても、自分とハルノの2人の犠牲で済む。
もしそうなった場合、ハルノには気の毒だが。
現状の2対2で戦いを続けるしかない――。
ヤンはそう決断した。
「ハルノ……、我々の全性能を上げて、こいつらを倒すぞ」
「分かって……る!」
ヤンへの返事を言い終わらない内に、ハルノは一気にチャコとの間合いをつめた。
そして、チャコの顔面に全力のこぶしを叩き込んだ。
――が。
ハルノのこぶしは何にも触れる事無く、チャコの頭部を突き抜けた。
勢い余って、ハルノはそのままチャコの体を素通りして、地面につんのめって転びそうになった。
ハルノは踏みとどまって転倒を回避し、後ろを見た。
チャコはハルノに背中を向けて立ったままだ。
チャコがハルノに顔を向けた。
ハルノはチャコの動きに対し、反射的に後ろ回し蹴りを放った。
チャコの後頭部に蹴りは確実に入ったのだが、入った蹴りはやはりそのまま素通りし、ハルノはまたもバランスを崩して倒れそうになった。
「……?」
ハルノにはわけが分からない。
そこにチャコがヨーヨー攻撃をしかけてきた。
ヨーヨーがハルノの眉間に真っ直ぐ向かってきた。
ハルノはそれを腕で防いだ。
ヨーヨーがガンッと音を立てて、メタリックなハルノの腕に当たった。
ハルノは後ろに跳びのいてチャコと距離をとった。
チャコのヨーヨーは宇宙金属ネビュラメタル製だ。
ヨーヨーが当たったハルノの腕は、じーんとしびれていた。
今度はチャコが間合いをつめてきた。
サイボーグのハルノから見れば、その動きは遅い。
チャコのヨーヨー攻撃をかわしながら、こぶしや蹴りを放ったが、その全てがチャコの体を素通りしてしまう。
まるで蜃気楼を相手にしているようだ。
チャコとハルノは互いに後ろに跳びのいて、再び距離をとった。
チャコは、この時、ハルノが先ほど投げ捨てたヨーヨーがある場所に着地した。
そしてそれを拾うと、両手でヨーヨーを操りながら、再びハルノに接近戦をしかけてきた。
ヨーヨーが2個になり、さすがにハルノもかわすのが厳しくなってきた。
しかも何回かに1回は、チャコのヨーヨーがボディに当たる。
そのダメージが結構ばかにならない。
また、突きや蹴りといった物理攻撃が一切チャコに通じない事がハルノを焦らせた。
どうして攻撃が通じない……?
ビームならどうだ!?
ハルノは目からビームを放った。
「!」
チャコはのけぞり、バク転、バク宙と動きをつなげてそれをかわした。
こいつ、ビームはかわした。
それはつまり、ビームならこいつに効くという事だ。
ハルノはそう悟ると、ビームを乱射してチャコをねらった。
チャコは飛び跳ねながらそれをかわし、着地――したかと思ったら、そのまま地中に姿を消した。
今度は地面に潜った?
さっきから、おかしな真似ばかりして見せる――。
ハルノは油断無く、辺りを見回した。
ハルノの背後の地中から、何者かが飛び出した。
気配を察し、ハルノはすばやく跳躍して、その何者かから距離をとった。
ハルノは着地し、振り返ってその何者かを確認した。
茶色い戦闘的コスチュームに身を包んだ者がそこに居た。
ハルノはとっさに、さきほどコウジが姿を変えたように、チャコもまた姿を変えたのだと判断した。
ハルノの判断の通り、それはブラストブラウンの姿となったチャコであった。
ブラストスーツは、チャコたち兄弟の身体能力を向上させる。
ブラストブラウンは、サイボーグのハルノと互角のスピードで攻撃をしかけてきた。
接近戦ではヨーヨーにやられる。
ハルノはブラウンと距離をとって走りながらビームを射った。
ブラウンもまた腰の銃を抜き、ハルノにレーザーを射ち込んだ。
地上を、木々の間を、教会の屋根を、目まぐるしく走り回りながら、ブラウンとハルノの戦いが繰り広げられた。
一方、ブラストシアンとヤンの戦いも、ブラウンとハルノの戦い同様、高速で走り回りながらの攻撃の応酬となっていた。
シアンが銃を射つ。
それをヤンがかわし、目からのビームを射ち返す。
シアンもそれをかわし、真空かまいたちの刃を返す。
コウジやチャコは並の人間よりは高い身体能力を備えている。
ブラストスーツの着用により、それが更に向上している。
とはいえ、サイボーグ相手の長期戦は不利だ。
相手はメカニズムを内蔵している分、持久力が高い。
短期決戦で決めなければならない。
走り回りながら、2対2の戦いを繰り広げる4者。
戦いながら、シアンとブラウンは接近し、互いの背をくっつけて立った。
その2人に、両方向からヤンとハルノが迫ってきた。
挟み撃ちだ。
突如、シアンとブラウンを軸とした竜巻が発生した。
土煙が巻き上げあれ、シアンとブラウンの姿が確認できない。
「目くらましなど」
「無駄よ!」
ヤンとハルノが、竜巻の中心に居るであろうシアンとブラウン目がけてこぶしを繰り出した。
だが、2人のこぶしは空を切った。
シアンとブラウンの姿が消えていたのだ。
「?」
立ち尽くすヤンとハルノ。
「いけない、下よ!」
さきほどのチャコの動きを思い出してハルノが叫んだが遅かった。
ヤンとハルノを巻き込む竜巻が発生し、2人はそのまま上空高く巻き上げられた。
「く……、まずい!」
ヤンとハルノは宙空で態勢を立て直そうとした。
「!」
だが、彼らよりさらに上空にシアンとブラウンがいた。
シアンとブラウンは、竜巻に巻き上げられたヤンとハルノより高く上昇していたのだ。
ブラウンが左右の手でそれぞれヤンとハルノの腹部に触れた。
ブラウンはそのままヤンとハルノを下向きに押し、地面に叩きつけるように下降した。
ヤンとハルノは、背中から地面に叩きつけられた。
シアンとブラウンは、ヤンとハルノから離れ、地表に横たわるヤンとハルノを見下ろした。
空中から地面に叩き落されたが、サイボーグであるヤンとハルノには大したダメージは無い。
2人は体を起こそうとした。
「?」
だが、体を起こせない。
まるで自分の体が大地と一体となってしまったかのように。
実際、一体となっていた。
ヤンとハルノのボディは仰向けの状態で、まるで水面に中途半端に浮かんでいる人のように地中に沈んでいた。
ブラストブラウン=チャコの“壁抜け”の力で、ヤンとハルノは仰向けの状態で大地と一体化させられてしまったのだ。
ブラストシアンとブラウンは、ブラストスーツの装着を解いた。
「今度こそ勝負あったね」
コウジがヤンとハルノに言った。
「く……、さっさと、とどめを刺せ!」
ヤンが吐き捨てるように言った。
言いながら、ヤンは内臓通信機でビリーとオウカに呼びかけた。
しかし、雑音がひどく通信できない。
「ひょっとして、仲間と通信しようとしているのかい? 悪いけど、妨害電波を出させてもらったよ」
コウジが自分の腕時計を指差し言った。
この腕時計から妨害電波を発しているのだ。
コウジはヤンの顔の近くにしゃがむと言った。
「キミたちには、いろいろ聞きたい事がある」
「無駄だな。俺たちは何もしゃべらない」
ヤンには取り付く島が無かった。
コウジとチャコは互いにうなずき合うと、それぞれ銃を抜き、ヤンとハルノに向けた。
ヤンとハルノは覚悟した。
ビリーは焦っていた。
先ほどから、ヤン、ハルノとの連絡が取れなくなっているからだ。
何かあったのではないか?
だが、焦ったところでしようがない。
何か飲んで落ち着くとしよう。
ビリーはハンバーガーショップに入った。
先日もヤン、ハルノ、オウカらと一緒に入った店だ。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
緑の髪のアルバイトの女の子の声を聞き、ビリーは悟った。
『この声……、教会で聞いたあの声だ。声紋が一致した』
ビリーは緑の髪の女の子の前に立ち、コーヒーを注文すると言った。
「今日、何時に終わるの? ちょっと時間ないかな」
言われた緑の髪の女の子も――つまりコウジの妹でありチャコの姉であるミドリだが――もちろんビリーには店に入ってきた瞬間から気付いていた。
「あと、20分で上がりです。コーヒー飲んで待っててくれますか?」
「ああ」
ミドリの答えにビリーはうなずくと、コーヒーを受け取ってカウンター席に着いた。
それを見ていたミドリの同級生でアルバイト仲間のジュンが横に来て小声で言った。
「なになにミドリ。もしかしてナンパ?」
「さあ、分かんないけど、時間あるかっていうから……。ごめん、ジュン。今日はバイト終わったら先に帰ってね」
「はいはい、いいですよ。おじゃま虫は退散しまーす」
ジュンは大げさにすねた様子で言うと、再び仕事に戻った。
30分後。
ミドリとビリーは、人気の無い路地裏で向かい合って立っていた。
「このあいだ、教会で俺に声をかけてきたのはおまえだろう? ごまかしても無駄だぞ。声紋が一致している」
「声紋? 一瞬にして分析するとは、さすがサイボーグね」
「なに?」
ビリーは驚いた。
こいつ、自分がサイボーグである事を知っている。
「おまえ、どうしてそれを……?」
「どうしても何も……、普通の人間は目から光線なんか出さないもの。だけど、ハンバーガーを食べたりコーヒーを飲んだり、普通の人間のように食事もしている。という事は、機械と人間のハイブリッド――つまり、サイボーグなのかなって考えたのよ」
「普通の人間か……。おまえも普通の人間ではあるまい」
「まあ、そんなところね。――ところで、男子が女子を呼び出しておいて、話って何なのかしら?」
ビリーが当初から攻撃的な態度なのに対し、ミドリは穏やかな表情で応じていた。
「俺は……、おまえを倒さなければならない」
「倒す? 会ったばかりなのにどうして」
「話す必要は無い事だ!」
ビリーは全身を輝かせ、戦闘スタイルにチェンジした。




