26.ブラストシアンvsサイボーグヤン
ミドリによれば、4人は研究室がどうのと話をしていたらしい。
コウジはキャンパス内の建物に入ると、いろいろな研究室が並んでいる廊下を何となく歩いていった。
そんなに簡単に見つかるわけないよな……と思いながら歩いていたコウジは、向こうのドアから出てきた1人の青年を見て、心の中で大声を上げた。
『簡単に見つかった!!』
何と、写真の青年の1人と少女の1人が、1つの研究室から出てきたのである。
コウジは知らんぷりして2人とすれ違った。
コウジがすれ違ったのは、大学生のヤンと小学生のハルノだった。
彼ら2人は、大学の研究室のコンピューターからスペースコロニー「エスパシオ」のデータベースにアクセスし、最近エスパシオにやってきた人間を調べていたのである。
ガイチュラに地球本星が蹂躙されて以来、宇宙空間の移動をする者は極端に減っていた。
ヤンとハルノが調べた結果、最近エスパシオにやってきたのは、スペースコロニー「ラウム」からの12人だけであると判明した。
教員3人、大学生3人、高校生2人、中学生2人、小学生2人だ。
この12人、データ上、相互に関連は無い事になっていたが、ヤンは彼らこそが今回の件に関わりのある者たちだろうと検討をつけた。
彼らのデータを体内の電子頭脳にインプットし、研究室を出た矢先、彼らもまたコウジ同様、内心『あっ!』と大声を上げていた。
表情にこそ出さなかったが。
12人の内の1人が、今まさに正面から歩いてきていたからだ。
ヤンとハルノもまた、コウジ同様知らんぷりしてすれ違ったが、すれ違い後、2人は体内の通信機によるやり取りをあわただしく開始した。
『ヤン、今の人!』
『ああ、間違いない。12人の内の1人、コウジって奴だ』
『ついてるわね。こんなに簡単に見つかるなんて――どうする?』
『とりあえず、そ知らぬ振りして後をつけよう。場合によっては、仕掛けてみて反応を見るんだ』
『うん、そうだね』
コウジもまた、同様の事を考えていた。
2人の後をつけるのである。
その時、コウジは背後の気配に気付いた。
なんと、さっきの2人の方から自分の後をついてくるではないか。
向こうも自分と同じ事を考えていた。
こちらが向こうをつけようと考えていたのと同様、向こうもこちらをつけようと考えていたのだ。
ならば、あえてつけさせて様子を見よう。
コウジは気付かぬふりをして、建物を出た。
コウジは学園都市のはずれに向かって歩いた。
例の教会のある場所だ。
2人は、確実につけてきていた。
初めの内こそ、コウジに気付かれないようにつけてきていたが、その内、コウジが気付いているという事に、向こうも気付いたのだろう。
物陰に隠れるような事はせず、距離を空けて、堂々とコウジのあとをついてき始めた。
教会に着いた。
コウジは立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
ヤンとハルノも立ち止まった。
双方、しばらく黙って向かい合っていた。
先にコウジが口を開いた。
「ボクに何か用なんだろう?」
ヤンが答えた。
「おまえは最近『エスパシオ』にやってきた12人の1人、コウジって奴だろう」
コウジは内心少々驚いた。
そこまでつかまれていたとは。
「調べたのか。確かにボクの名はコウジだ。キミたちは?」
「オレはヤン。お前と同じ大学生だ。こっちはハルノ。小学生だ」
ハルノは黙ってコウジを見ている――というよりは、にらみつけているといった方がいい、厳しい表情である。
「ハルノか。ヤン、きみの妹かい?」
「妹ではない。だが、兄妹同然さ」
妹同然と言われて、一瞬ハルノの表情が不満げになったのにコウジは気付いた。
「それで最初の質問に戻るが……、ボクに何の用なんだい?」
コウジの問いには答えず、ヤンは内臓通信機でハルノに呼びかけた。
『ハルノ、お前は手を出すんじゃない』
『え、どういう事?』
ハルノも内蔵通信機で答えたが、思わず顔はヤンを見上げてしまった。
ヤンはハルノの顔を見ず、続けた。
『あのコウジって奴は、ガイチュラがマークするほどの奴だ。どれほどの力を持っているか分からない』
『その通りだよ。だからこそ、2対1で……』
『いや、最悪の場合を考えよう。万が一、かなわない場合、おまえは逃げるんだ。そして、ビリーとオウカに知らせてくれ』
『ヤン、だめだよ、そんなの』
『いや、コウジの仲間はおそらく12人全員だ。こっちは4人。コウジ1人を倒せないのでは、とても12人全部を相手にはできない。その時は、おまえたち3人はエスパシオから逃げろ』
『そんな……、ヤンを置いていけないよ。それにアンナはどうするの』
ハルノの顔に動揺が浮かんだ。
ハルノの顔を見ずにヤンは続けた。
『心の動きを顔に出すな。俺が倒れたら、ガイチュラ“シャドウセブン”の要求に応える事は不可能。俺とアンナの事はあきらめろ』
『でも……』
『以上だ。いいな、絶対に手を出すんじゃないぞ』
それまで2人の様子を黙ってみていたコウジが口を開いた。
「話は終わったのかい?」
ハルノは、はっとした表情でコウジを見た。
2人が言葉を発せずとも会話していた事を、様子からコウジは悟ったのだ。
ヤンは表情を変えずに言った。
「何だと?」
コウジは核心を突いた。
「キミたち、サイボーグなんだろう?」
コウジの言葉に、ヤンも表情に驚きの色を出してしまった。
向こうもこっちの事を知っている――?
一体、どこまで知っているんだ?
「そっちもこっちを調べていたとはな。俺たちがつけているのに気付きながら、わざとつけさせて、この教会にやって来たのだから、何かつかんでいるんだろうなとは思っていたぜ」
ヤンは身構えた。
戦闘体勢だ。
――来る。
コウジもまた構えた。
ヤンが動いた――と思ったら、あっという間にコウジの眼前に迫って来ていた。
そして、コウジに向かってこぶしを突き出してきた。
「速い!」
その速さに驚きながらも、コウジはこぶしを繰り出してきたヤンの腕を取り、後方に投げ飛ばした。
ヤンは、空中で回転し、着地した。
「人間の速さじゃないね……。さすがサイボーグ」
コウジの言葉に、ヤンも返した。
「こっちも驚いたぜ。あの動きに対応できるとはな……」
コウジたち兄弟は、常人以上の運動能力を備えている。
しかし、サイボーグの身体能力に対応し続けるのは難しいだろう。
コウジは、ちらりとハルノを見た。
ハルノはかかってくる様子は無い。
どうやらヤンに止められているのだろう。
「さっそく、これを使う事になるとは。準備しておいて良かったよ」
コウジは左腕の腕時計を胸元に持っていった。
そして、スイッチを入れた。
コウジの体は、一瞬まばゆい光につつまれた。
光が収まると、そこには青緑色の戦闘的コスチュームに身を包んだコウジの姿があった。
ブラストシアン――コウジがブラストレンジャーに姿を変えたのだ。
「む、お前も変身するのか」
ブラストシアンとなったコウジを見て、ヤンが言った。
「だが、格好が変わったぐらいで、俺には勝てんぞ!」
ヤンが再び高速でブラストシアンに襲いかかってきた。
シアンもまた、正面からヤンに向かっていった。
そして、ヤンにパンチを繰り出した。
『まさか! 見えている?』
ヤンは、接近を急遽やめ、方向を変えてシアンから離れた。
「おまえ……、今度は俺の動きが見えているのか……?」
「まあね」
ヤンの問いにシアンは答えた。
「その格好は伊達じゃないって事か……。ならば、こっちも本気でいくしかないな」
今度は、ヤンの体が輝きだした。
かつてアンナがダンと対峙した時、戦闘用スタイルにチェンジした時放ったのと同じ輝きだ。
ヤンもまた、メタリックボディの戦闘用スタイルにチェンジした。
「お互い変身したところで……、本気と本気のぶつかり合いだな!」
ヤンが向かってきた。
コウジも向かっていった。
両者は、すれ違いざま、無数の突きと蹴りを繰り出し合い、受け合った。
互角だ。
双方、振り向いた。
シアンは、ヤンに腕を向けると竜巻を放った。
「うおっ!?」
ヤンは、何とか巻き込まれないよう竜巻をかわすと、シアンに向けて目からビームを射ってきた。
シアンは、それをかわし、今度は真空かまいたちの刃をヤンに放った。
「ぐあっ!」
かまいたちの刃のいくつかが、ヤンの体に傷を付けた。
傷を受けて、一瞬ヤンがひるんだところにシアンは高速接近した。
そして、銃を抜き、ヤンの額に突きつけた。
両者の動きが止まった。
銃の引き金を引けば、シアンの勝ちだ。
「く……」
くやしそうにヤンがうめいた。
その時――。
横から、ビームが放たれ、シアンの持っていた銃を弾き飛ばした。
「!」
シアンはビームが放たれた方を見た。
そこには、小柄な戦闘用サイボーグが立っていた。
体格から見て――ハルノがチェンジした姿だろう。
ヤンがやられそうになったのを黙って見ていられず、ハルノが手を出したのだ。
ヤンは目からビームを放った。
シアンはバク転を繰り返してそれをかわし、ヤンと距離を取った。
2対1となった。
ヤンとハルノは内臓通信機でせわしく会話した。
『ハルノ! なぜ手を出した?』
『だって……、黙って見ているなんてできなかったよ』
『――もういい。助けてくれた事は礼を言う。こうなったら、2人で力を合わせてあいつを倒すぞ』
『うん、分かった!』
ヤンとハルノが同時にシアンに襲いかかってきた。
突きや蹴りを繰り出しながら、目からのビームも織り交ぜて2者で攻撃してくる。
ブラストレンジャーの姿となってコウジの時より身体能力が向上しているとはいえ、少々シアンの旗色が悪くなってきた。
追い詰められたシアンの背中が木の幹に着いた。
「もらった!」
ハルノがこぶしを振り上げた。
そこに、どこからともなく何かが飛んできて、ハルノの腕に巻きついた。
「!?」
ハルノは驚き、腕に巻きついた物を見た。
ヨーヨーだった。
「誰!?」
ハルノの声に応じて、ヨーヨーを投げた者が木の陰から姿を現した。
片手で、もう1つのヨーヨーを操っている。
「2対1なんて、卑怯じゃない?」
それはコウジの妹、チャコだった。




