20.宇宙学園都市フォーグナー
ドライバウターの12兄弟は、宇宙に浮かぶ人工の人間居住施設スペースコロニーに向かうスペースシャトルの中に居た。
シャトルは自動操縦となっており、12兄弟は中で到着までの時間を思い思いに過ごしていた。
「今回の依頼はちょっと時間がかかりそうね」
テーブルでコーヒーを飲みながらアオイとツヨシが話をしていた。
人工重力発生装置の働きで、シャトル内でも上下感覚のある生活ができるようになっている。
「ああ。いわゆる潜入操作だからな」
兄が妹に答える。
「人間に化けてコロニー内に潜伏していると思われるガイチュラどもを見つけ出し、ドライブ アウト(退治)する。それが今回の依頼だ」
「先の大戦でもコロニーには大して手を出さなかったガイチュラたちが、なぜ今になってコロニーに入り込んだのかしら?」
コーヒーを持って来てアカネがツヨシの隣に座り、会話に加わった。
「さあな。コロニーに何か奴らの苦手なものがあったのかもしれない」
「嫌虫花みたいな?」
ツヨシはコーヒーを飲みながらアカネに答えた。
「ああ、分からないけどな」
「!」
ふと、アカネが何かに気付いた。
「どうしたの?」
アオイがアカネに問う。
「ガイチュラよ!」
超感覚の持ち主アカネは、自身の透視能力でシャトルの壁越しにガイチュラの接近に気付いたのだ。
「何だと」
ツヨシが席を立ち、外を映し出すスクリーンを起動させた。
ほどなく、シャトルの自動追跡カメラがとらえたガイチュラの姿がスクリーンに映し出された。
3匹のカブトムシ型ガイチュラだった。
体長は10メートルを超えているだろう。
「まずいぞ。このシャトルは完全自動操縦だから対抗手段が無い」
ツヨシが言う。
弟妹たちがスクリーンに集まってきた。
「なになに?」
「あ、ガイチュラだ!」
「ボクにも見せて」
「ちょっと、しゃがんでよ」
アカネが全員に注意を促すため叫んだ。
「体当たりしてくるわ! みんな気をつけて」
兄弟たちは全員何かにつかまった。
ズズンッという大きな音と共にシャトルが揺れた。
「姉さん、状況はどうなんだい?」
コウジに問われアカネが答えた。
「シャトルの外壁がかなりへこんだわ。もう1~2回体当たりを受けたらまずいわよ」
「シャトル内に何か武器は無いの?」
キイロに言われ、アカネはシャトル内をあちこち透視した。
だがシャトルは何も武器を積んでいなかった。
ズズンッ。
次の体当たりの一撃がきた。
「うわああーー」
シャトル内各部の透視に気を取られていたため、アカネは船外のガイチュラの動きを兄弟たちに注意喚起をできなかった。
兄弟たちは不意をつかれた形となりよろけた。
「そうだ!」
ハヤトがとっさに思いついた。
「チャコの“壁抜け”で俺たちの武器を外へ出そう。それをアオイ姉さんのテレキネシスで操作して奴らに対抗できないか」
「やってみましょう!」
アオイも直ぐに応じた。
ダイゴがチャコにブーメランを手渡した。
「チャコ姉さん、これを」
「ええ」
チャコはダイゴからブーメランを受け取ると、シャトルの壁を“通り抜けさせて”宇宙空間へ出した。
それを壁越しにアカネが透視し、アオイに伝えた。
「姉さん、10時の方向!」
「オッケー」
アオイは目を閉じ、宇宙空間のブーメランの遠隔操作に集中した。
シャトルの自動追跡カメラではガイチュラの動きを追いきれない。
アカネが状況を透視し、アオイに伝えるのだ。
ブーメランが回転を始め、接近してきたガイチュラの1匹に向かった。
ガイチュラは、角を振りかざしてブーメランに真っ向から向かってきた。
弾き飛ばす自信があるのだろう。
しかし、ブーメランはネビュラメタル製だ。
ブーメランは角を切断した。
「!!」
驚愕するガイチュラ。
他の2匹も、シャトルからのブーメラン攻撃を甘く見ていた事に気付き、注意をシャトルからブーメランへと集中させた。
「反転させて、2時から8時の方向へ」
アカネからの言葉通り、アオイがブーメランをコントロールする。
ガイチュラたちは飛んできたブーメランを、二手に分かれてかわした。
ブーメランは、3匹のガイチュラたちとシャトルの間で静止し、ガイチュラたちを牽制した。
しばらくにらみ合いが続いた。
だが、ガイチュラたちはブーメランから再び反撃を受けるような危険を犯してまでシャトルを襲うメリットは無いと判断したのだろう。
ほどなく、飛び去っていた。
「行ったわ」
アカネの声に一同が、ふーっと一息ついた。
アオイがシャトル壁際にブーメランを寄せ、チャコが回収した。
「みんな、シャトル内に異常が無いかチェックだ」
ツヨシの言葉で、弟妹たちはモニターを見たりキーボードを叩いたりして各部の点検を始めた。
外壁がへこんだものの、空気や燃料が漏れているなどのトラブルは見つからなかった。
「大丈夫みたい」
「取り合えず良かったね」
兄弟たちは安心した。
スペースシャトルはそのまま自動操縦で、目的地のスペースコロニー「エスパシオ」に到着した。
12人がシャトルを降りると、迎えが来ていた。
「ドライバウターの皆さんですね。お迎えに上がりました」
12人は小型のバスに乗せられ、エスパシオの市庁舎へ案内された。
「ドライバウターの皆さん、ようこそ。私はこのコロニー『エスパシオ』の市長スターナーです」
応接ルームに12人は通され、市長スターナー及びその秘書と接見した。
「途中ガイチュラに襲われたそうですね。ご無事で何よりでした」
「ドライバウター(害虫を退治する者)がガイチュラにやられたのでは話にならないからな。詳しいご用件を伺おう」
ツヨシに促され、スターナー市長が話したのは次のような内容だった。
――エスパシオは人口10万のスペースコロニーだ。
先のガイチュラからの侵略戦争の際は、開戦当初こそ攻撃を受けたものの、その後はコロニーをガイチュラが襲う事は無かった。
人類はガイチュラに敗れ、現在地球上にはガイチュラがはびこって人間を襲っているが、コロニーはまるでそれとは無関係のように平和だった。
ところが、最近、コロニー内にガイチュラが出現するという噂が立った。
実際、謎の失踪事件も起きている。
どうやら何匹かのガイチュラが人間に化けてコロニー社会に潜入し、時々人間を襲っているらしい。
そのガイチュラを見つけ出し、駆逐してほしい――。
フォーグナー学園都市。
スペースコロニー「エスパシオ」内にそう呼ばれる一角がある。
初等部から大学までの一貫校を中心に様々な研究施設が集まったブロックだ。
エスパシオの住民の子どもたちの他、地球や他コロニーからやって来て寮に入っている子どもたちもいた。
しかし、ガイチュラの侵略戦争以来、宇宙空間の移動はかなり危険になったので、入寮している多くの子どもたちは家に帰れず、やむなくそのままエスパシオに留まっていた。
ドライバウターの12兄弟は、他コロニーからの編入者としてフォーグナー学園に入った。
「今日からこのクラスに入る事になったダイゴ君だ。みんな、仲良くするように」
担任のダン先生がダイゴを紹介した。
30代半ばの男の先生である。
ダイゴはフォーグナー学園初等部4年生への転入生となった。
「席はアンナの隣が空いていたな」
アンナという名の長い黒髪の少女とダイゴは隣同士となった。
「私アンナ。よろしくね、ダイゴ」
「こちらこそ」
ダイゴも笑顔で挨拶を返した。
休み時間。
2人の男子、太った体格のサムとひょろっと背の高いレンが、ダイゴに話しかけてきた。
「よぉ、ダイゴ、この学園都市のウワサ知ってるか?」
サムの言葉にダイゴが問い返す。
「ウワサ?」
今度はレンが話した。
「学園都市の外れに教会があるんだ。実は夕方になると、そこに出るっていうウワサがあるんだよ」
「出る? 何が?」
ダイゴの問いに、サムとレンの2人は両手の甲をダイゴに向けてだらりと下げて見せた。
「これだよ、これ」
「ユーレイ?」
興味を示した感じの様子のダイゴに、サムとレンが話を続ける。
「実は今日の夕方、俺とレンとで張り込んでみようって話してたんだ」
「どうだダイゴ、おまえも来ないか?」
ユーレイのウワサ話か……、ひょっとしたらガイチュラの手がかりがつかめるかもしれない――ダイゴはそう思った。
「へえ、おもしろそうだね。じゃあ、ボクも仲間に入れてよ」
「決まりだな! 話が分かるなオマエ」
サムがダイゴの肩をポンポンたたいた。
「ちょっと、サム! レン!」
女の声がした。
アンナだった。
「今、教会に行こうってダイゴの事誘ってたでしょ」
「してねーよ」
サムが直ぐに否定した。
「じゃ、後でな」
サムは小声でダイゴに念押しすると、レンと共に行ってしまった。
「ダイゴだめだよ。あいつら問題児なんだから」
去っていくサムとレンの背中を見ながらアンナが言った。
「そうなんだ」
「よそのコロニーから来たばかりのダイゴは知らないと思うけど、最近、コロニー内でヘンな行方不明事件が起きてるんだ。あの教会の辺りは人気が少ないから行っちゃいけないって学園の先生からも言われているの。ダイゴ、行っちゃだめだよ」
「心配してくれてありがとう」
ダイゴはにっこり笑ってアンナに言った。
窓からの光を受けて銀髪が輝いている。
アンナはそれに見とれてしまった。
「でも、ほんとなのかな?」
「え、何が?」
アンナはちょっと紅くなった。
「さっき、サムとレンが言ってたじゃない。ユーレイの話」
「分かんないけど……。実際ヘンなうわさのある場所だし、わざわざ行く必要無いと思うの」
アンナからは、ダイゴをそこへ行かせたくないという気持ちが強く感じられた。
フォーグナー学園初等部職員室。
「アカネ先生、ちょっといいですか」
ダン先生が、赤いロングヘアーの若い女性教師を呼んだ。
ドライバウターのアカネだ。
アカネは臨時教員として、フォーグナー学園初等部に着任したのである。
「はい、なんでしょう?」
「実は、この学園都市には妙なうわさがあるのです。都市のはずれにある教会にユーレイが出るという。興味本位で近づこうとする子どもたちが時々いるのですが、人気の少ない物騒な場所ですので、近づかないように子どもたちへ注意を促してください」
「ユーレイ――、ですか……」
アカネは何かを思う表情になった。




