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妹弟兄姉マイティブラスター  作者: 秋保嵐馬
一.ドライバウター登場編
2/50

2.念力のアオイ

 ケガをした何人かの男たちが、やっとの様子で村に戻ってきた。

「くそう。やはり、俺たちではガイチュラどもに勝てない」

 悔しそうな様子の男たち。

「おーい、頼んでいたドライバウターがやってきたぞ」

 村の中から別の男が走り出て来た。

「なに、とうとう来てくれたのか?」

「今まで多くのガイチュラどもをやっつけた実績があるとの事だが……」

「一体どんな男なんだ?」

 傷ついた男たちは、口々に尋ねた。

「それが……」

 問われた男は口ごもった。


 部屋の中に座っていたのは若い女性だった。

 肩ぐらいまでの長さの青い髪。

 年齢は20代半ばといったところか。 

「女? 女だと!」

「ドライバウターとは女なのか?」

「女なんかにガイチュラどもを倒せるのか!」

「男の俺たちが束になってかかってもかなわない奴らだぞ!」

 男たちは不満そうだ。

 女性が口を開いた。

「そういう反応には慣れているわ。で、依頼のほうはどうするの?」

 男たちは顔を見合わせた。

「報酬は食料12日分だったな?」

「そうよ」

「知っての通り、今の世の中食料はたいへん貴重だ。それに女を1人でガイチュラどもの元に送ったとあっては俺たちも寝覚めが悪い。あんたがどれほどの腕か試させてもらいたいんだが?」

 女性は言った。

「いいけど、無料のお試しはしてないの。私の腕試しをしたいなら、報酬は倍にしてもらうわ」

 男たちはまた顔を見合わせた。

 リーダー格の男が言った。

「いいだろう。腕試しの結果によっては食料を2ダース渡そう。だが、あんたの実力が口先だけだった場合には、このまま帰ってもらう」

「分かったわ」


 村の中央の広場に女性は立っていた。

 周囲を6人の男たちが取り囲んでいる。

「いつでもいいわよ」

 女性が言った。

 取り囲んだものの、男たちは手を出さない。

「女1人を男数人がかりとは正直気が引けるぜ」

 女性の背後の男が言った。

 突如、女性が振り向きざまに回し蹴りを、その男の側頭部に放った。

「!」

 蹴られた男は横に吹っ飛ばされた。

 男は地面にたたきつけられ、白目をむき、ひくひくと泡を吹いた。

「このアマ!」

「いきなり、やりやがったな!」

 今まで攻撃をためらっていた男たちは急遽殺気立ち、臨戦態勢に入った。

「これで、本気出す気になった?」

 男どもをキッとにらみ、女性は言った。

「仲間をやられちゃ、たとえ女でも黙っちゃいられねえぜ!!」

 1人の男が、横から女性に襲いかかってきた。

 女性は体をかがめ、男の足元を自分の足でなぎ払った。

「う、うわ!?」

 バランスを崩した男の腹に、女性の手刀突きが入った。

「ぐふっ」

 突かれた男は両手で腹を押さえて痙攣しながらうずくまった。

「てめえ!!」

 今度は両側から2人の男たちが同時に襲いかかってきた。

 ゴンッと鈍い音がした。

 2人の男は、互いに顔を殴り合っていた。

 女性の姿は消えていた。

「どこだ?」

「上だ!」

 女性は頭上まで跳躍していた。

 女性は、殴り合った態勢のまま動かなくなっていた2人の男を踏み台に再び跳躍すると、残った2人の男たちに飛び掛かった。

 1人をそのまま顔面への飛び蹴りで倒し、着地と同時に残りの男ののど元へ手刀突きを打ち込まんとした。

 だが、手刀付きはのど元寸前で止められた。

 のど元を貫かれる寸前だった男は、膝ががくがく震え、地面に尻餅をついた。

「これで合格でしょ」

 のどを突く態勢から通常の立ち姿勢に戻り、女性が言った。

「あんた……、あんた、名前はなんて言うんだ?」

 まだ膝が震えたまま、男が聞いた。

「髪の色と同じよ。アオイ。ドライバウターのアオイ」


 密林の中を、アオイと男が歩いていた。

 男は、村の若きリーダーで名前はゾク。

 さきほどアオイの腕試しで倒された6人の中にはいなかった。

「あなたも来るの?」

 アオイが聞いた。

「あんたの実力は分かった。だが、1人より2人の方がいいだろう」

「はっきり言うけど、足手まといだわ」

 ゾクの方を見もせずアオイが言った。

「そう言うな。それにあんたの強さは分かったが、素手でガイチュラに立ち向かう気か? 見たところ武器は持っていないようだが」

 ゾクは背中に大きな剣を背負っていた。

「お構いなく」

「愛想の無いやつだな。――着いたようだぜ」

 密林の中に広い空間があった。

 その中に巨大なまゆが浮いている。

 まゆの周囲からは何本もの太い糸のようなものが放射状に伸び、周囲の木々につながっていた。

「あれを焼き払えばいいのね」

「ああ、幸い今は親は居ないようだ。チャンスだぜ」

 ゾクは剣を抜いた。

「いえ、親は居るようよ」

 アオイが一点を見て言った。

「カカカカ、気付いたのかい」

 声がすると、木々の景色の中に巨大なカマキリ型食肉昆虫のガイチュラが姿を現した。

 体長は7~8メートルはあろうか。

 保護色で姿を見えなくしていたのだ。

「カカカカカカカカ、カ~~マ、カマ。さっき逃げ帰った奴らの仲間がまた来たようだね」

「今度は前のようにはいかないぜ!」

 剣を構えてゾクが言った。

 カマキリ型ガイチュラが言った。

「ちょうどいい。もう直ぐアタシの子どもたちが産まれる。おまえたちはアタシの子どもたちの最初のエサになってもらうよ」

「なに!?」

 ゾクがまゆを見上げた。

 まゆが不規則に震えると、中から10匹の子どものカマキリ型ガイチュラが顔を出してきた。

 その大きさは中型犬くらいか。

「ちっ」

 敵の数が一気に増えた事に、ゾクが舌打ちした。

 子ガイチュラの1匹がゾクに襲いかかってきた。

 ゾクはそれを剣でなぎ払った。

 ガンと音がした。

 剣で打たれた子ガイチュラは、横に飛び、木の1つに止まった。

 子ガイチュラの体に傷は無い。

 反対に、ゾクの剣の刃がこぼれていた。

「く、くそう」

「その剣では、やつらに通じないようね」

 表情を変えずにアオイが言った。

「あんた、どうする気だ!?」

 焦った表情でゾクがアオイに尋ねる。

 アオイの服の下、左右の大腿部に5本ずつ、計10本の短剣が仕込まれているのが見えた。

「子どもたち、一気にやっておしまい!!」

 親ガイチュラが叫んだ。

「カカカカーー!!」

 10匹の子ガイチュラたちが、一斉にアオイとゾクに襲いかかってきた。

「うわああ」

 ゾクが悲鳴を上げた。

 次の瞬間。

 四方八方から襲い掛かってきていた10匹の子ガイチュラたちの動きが止まっていた。

 全ての子ガイチュラの眉間に、短剣が突き刺さっていた。

 たった今まで、アオイの大腿部にあった10本の短剣だ。

 宙にあった子ガイチュラの体は皆、地上に落下した。

 子ガイチュラは全て動かなくなっていた。

「ああ! 子どもたち?」

 親ガイチュラが悲痛な叫びを上げた。

「あんた、その短剣は?」

 ゾクがアオイに尋ねた。

「これは、ネビュラメタルという金属でできた短剣よ。ガイチュラの体はネビュラメタルでなければ切れないわ」

「そんなものを持っていたのか……。まだ、あるのか?」

「いえ、10本全部投げてしまったわ」

「お、おい、どうするんだ? まだ、あのでっかい奴が残っているんだぞ?」

 言い合う2人に親ガイチュラが迫ってきた。

「人間ども! アタシが今度産む子どもたちの栄養にしてやるわあ!!」

 親ガイチュラが、2人の頭上にカマを振り下ろした。

 アオイは飛びすさった。

 ゾクは持っていた剣でカマをガッキと受け止めた。

 ビシビシと、剣に亀裂が走っていく。

「く……」

 剣を支えているゾクの両腕が震え始めた。

「そんな軟弱な剣でアタシのカマを受け止めきれるもんかい!!」

 親ガイチュラがカマに更に力を込めた。

 バキッという音と共に、ゾクの剣が砕けた。

「やられた!」

 ゾクはそう思い目を閉じた。

 しかし、親ガイチュラのカマは、ゾクに突き刺さってこなかった。

「?」

 不思議に思ったゾクがゆっくり目を開けると――。

 親ガイチュラの動きは止まっていた。

 時々体をひくひくと痙攣させている。

 その額には――、先ほどアオイが10匹の子ガイチュラたちに投げたはずの短剣が全て突き刺さっていた。

 目をむき、親ガイチュラは地を響かせて横たわった。

 ゾクはアオイを見た。

 アオイは両手を親ガイチュラの方に向ける姿勢をとっていた。

「一体……、一体、どうなったんだ?」

 ゾクの疑問にアオイが答えた。

「こういう事よ」

 アオイは両手で音楽の指揮者のような動きをした。

 すると、親ガイチュラの額に突き刺さっていた10本の短剣が全て抜け、宙に整列した。

 そのまま10本の短剣は、アオイの手に操られるように1列に並んでゆっくり宙を飛ぶと、アオイの左右大腿部の10の鞘に全て収まった。

「テレキネシス(念力)……」

 驚くゾク。

「これが、あんたの本当の力だったのか」

「そういう事。ケガは無い?」

 アオイはゾクに微笑んだ。

 初めて見せた笑顔だった。

 その笑顔に、ゾクは少々どきまぎした。


「じゃあ、食料24日分だ」

 村の出口。

 村の男たちの手により、アオイの前に、2つの大きな箱が置かれた。

「なあ、あんた、良かったら、これからもこの村にいてくれないか。食べ物に不自由はさせないぞ」

 アオイにゾクが言った。

「ありがとう。気持ちはうれしいけど、迎えが来たから――」

 アオイが見た方を、村人たちも見た。

 1人の体格のいい若い男が立っていた。

 それは――、ツヨシだった。

「迎えに来たぞ、アオイ」

 ツヨシが言った。

「あ……、アオイ、あんたの恋人なのか?」

 明らかに失望した様子でゾクがアオイに聞いた。

 ツヨシは地面に置かれていた2つの箱を軽々と両肩にかついだ。

「じゃあね。食料をありがと。さよなら」

 アオイは言うと、ツヨシと並んで歩き始めた。

「俺の倍かせいでくるとは、やるな、アオイ」

 ツヨシに答えて、アオイが言った。

「すごいでしょ、兄さん」

 離れた場所から聞いていたゾクが言った。

「兄さん……。あの2人は兄妹なのか」

 去っていくツヨシとアオイ。

 2人のドライバウターの兄妹を見送る村人たちだった。

 アオイ24歳。

 12兄弟姉妹の2番目、長女。

 身長170cm。

 髪の色、青。

 その超能力は手を使わずに物を操る観念動力。

 左右の太ももに5本ずつ計10本の短剣を備え、武器としている。

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