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妹弟兄姉マイティブラスター  作者: 秋保嵐馬
一.ドライバウター登場編
19/50

19.透明なミドリ

 足あとが消えた辺りの空間に奇妙な歪みが生じた。

 歪みは透明な人型となり、やがて徐々に色合いが増して通常の人間たちの姿となった。

 ミドリと村の6人の娘たちだった。

 彼女たちは今まで透き通った体――透明人間だったのだ。

 ミドリは、右手人差し指をガイチュラに向けていた。

 レーザー光線はミドリの指先から放たれていたのだ。

 姿を現したミドリたちを、もはや巨大ガイチュラが見る事は無かった。

 両眼を失ったからである。

「う、うぬ……。目が見えなくとも、気配で貴様らの位置は感じ取れるわ!」

 そう言いながら巨大ガイチュラがめちゃくちゃに鎌を振り回して暴れ始めた。

「逃げて!」

 ミドリが村の娘たちを促した。

 彼女たちもまた先ほどまでヒロシが降らせていた雨に打たれて濡れていた。

 だが、それが功を奏したようだ。

 水を浴びせられて頭がはっきりし、灯明の煙の悪影響が薄れていたのである。

 娘たちはしっかりした足取りでその場から駆け出した。

「どこだあ~~! 逃がさああ~~ん!!」

 巨大ガイチュラが木でも地面でも己の鎌に触れたものは手当たり次第に切り裂いて暴れ回った。

「4人で同時攻撃よ! 向こうが3倍なら、こっちは4倍!」

 ミドリが弟妹たちに言った。

「オッケー」

「了解」

「分かった」

 3人が口々に答えた。

 巨大ガイチュラを前に、ミドリ、ヒロシ、モモコ、ダイゴの4人は横一線に並んだ。

 4人は全員、右手人差し指を巨大ガイチュラに向けた。

 ミドリの姿が透き通った。

 自分自身や触れた他人、物などを透明にできるのがミドリの能力だ。

 そしてミドリにはそれを応用したもう1つの武器がある。

 透明になった体で太陽光線を吸収し、それを体内で何万回も乱反射させて増幅させたのち指先に集め、強力なレーザー光線として射出できるのだ。

 だから、レーザー光線を放つ時、ミドリの姿は透明になる。

「額を狙って!」

 レーザー光線、高圧水流、火炎放射、電撃の、4つの同時攻撃が巨大ガイチュラの眉間に集中した。

 すさまじい爆音がした。

 黒い煙や真っ白い水蒸気がもうもうと上がった。

「……」

 それらがやむと、額どころか頭部を丸ごと失った巨大ガイチュラの姿があった。

 頭の無くなった巨大ガイチュラの体はスローモーションのようにゆっくりと背中から倒れ、地響きをたてた。

「やったな」

 背後から聞き覚えのある声がした。

 振り返るミドリ、ヒロシ、モモコ、タダシの4人。

 そこには彼らの兄、ハヤトが立っていた。

「ハヤト兄さん!」

「来てくれたの?」

 兄との再会を喜ぶ弟妹たち。

「俺だけじゃないぜ、みんないっしょだ」

 ハヤトは服の中から何かを取り出し、地上に放った。

 それは、ダイゴの力でミニサイズになっていた兄弟たちだった。

 彼らは、空を飛ぶハヤトに携帯されるためミニサイズとなっていたのだ。

 ハヤトの手から放たれて地上に降り立つまでの一瞬の間に、兄弟たちは元のサイズに戻った。

 長男ツヨシ。

 長女アオイ。

 次女アカネ。

 次男ハヤト。

 三女キイロ。

 三男コウジ。

 四女ミドリ。

 四男ヒロシ。

 五女モモコ。

 五男タダシ。

 六女チャコ。

 六男ダイゴ。

 ここにドライバウターの12兄弟姉妹たちが全員勢ぞろいした。

「前の仕事を片付けてから、このガルドラ島にやってきたんだが……」

「どうやら、手助けは無用だったようね」

 ツヨシとアオイが言った。

「まあね。軽いもんさ」

 タダシが自慢する。

「ヒロシ、足ケガしてるじゃない。見せてごらんなさい」

 アカネがヒロシの足のケガに気付いた。

「かすり傷さ」

 兄弟たちに心配かけまいとヒロシが言った。

「油断しちゃダメだよ、ほら貸して」

 キイロもアカネと一緒にヒロシの両脇に来ると座らせ、さっそく手当てを始めた。

「それはそうと、さっきから気になってたんだけどさ……」

 キイロがヒロシの顔をじっと見て言った。

「なに?」

 いぶかるヒロシ。

 一瞬の間。

「ヒロシとタダシ、一体どーしちゃったのーー!?」

 女装している上に、ばっちりメイクアップされているヒロシとタダシ――しかもヒロシにいたっては雨でかなりメイクも崩れている――に、兄弟たちは大爆笑した。


「こいつが俺たちの名をかたったというロボットか」

 12兄弟は、ファイタスのロボットのそばに来ていた。

 ガイチュラたちとの激闘の末、両腕を失ったファイタスのロボットは地面に倒れたまま動かなくなっていた。

「中のパイロットは生きているわ。モニターで私たちを見ているし、声も聞こえているはず」

 コクピットの中を透視してアカネが言った。

「おい、中のパイロット、聞こえているか? コクピットのハッチを開けて出てくるんだ。ガイチュラどもは倒したから心配ない」

 ツヨシの呼びかけに、中のファイタスからロボットのスピーカーを通して返事があった。

「ガイチュラどもを倒したって? 本当なのかミドリ?」

 ミドリが答える。

「ええ。だから早く出て来て」

「それが……。ガイチュラどもに散々がんがんやられてな。歪んじまったのかハッチが開かないんだ」

 ファイタスの言葉にツヨシが言った。

「俺がハッチをこじ開けよう」

 兄をチャコが制した。

「兄さん壊してでも開けちゃう気でしょ? 私が連れ出す」

 チャコがコクピットのハッチに手を“入れた”。

 チャコの腕はコクピットのハッチを貫通し中に入った。

「うわっ! なんだ?」

 突然コクピット内に手が“生え”、ファイタスは驚いた。

「ファイタス、私の手を取って」

 チャコが言った。

「手を? こうか?」

 握手するようにファイタスがチャコの手をつかんだ。

 チャコはファイタスをぐいと引っ張った。

 コクピットのハッチを“壁抜け”して、ファイタスが姿を現した。

「うわったったっ」

 壁抜けの初めての奇妙な感覚に戸惑うファイタス。

「ミドリ……。お、お前たちは一体……?」

 ミドリが答えた。

「ファイタス。私たちはドライバウターよ」

「な、なんだって――!?」

 ファイタスは絶句した。

 こんな10代の少年少女たちがガイチュラ退治を請け負うドライバウターだったとは夢にも思っていなかったからだ。

「そうだったのかよ……。本物を前にしちゃ、どう言い訳してもしょうがねーーな。おまえたちをかたって悪かった。煮るなり焼くなり好きにしてくれ!」

 ファイタスは、地面に大の字になった。

「あ、そう? じゃ――」

 言われてモモコは、両腕を上げ、両手のひらに炎を燃やした。

「望み通り、焼いてあげる」

 ファイタスに近づく。

 炎の熱気に、ファイタスはひるんだ。

「うわ、おいおい、ほんとにやる気かよ!」

 モモコは炎を引っ込め、問うた。

「どうしてドライバウターをかたったの?」

「わりィ――」

 ファイタスは地面に座るとしゅんとした。

「このロボットは対ガイチュラ用に俺の亡くなった親父が設計したものだ。だが完成目前に親父は亡くなり、後を引き継いで俺が作り上げた。このロボットの性能を手っ取り早く世間に知らしめるためにドライバウターの名を使わしてもらったのよ。すまなかったな……」

 その言葉を聞いてタダシが言った。

「ファイタス。このロボットなら十分ガイチュラと戦えるよ。ドライバウターをかたらなくたって、ガイチュラを倒し続けていれば、直ぐに評判は広まるさ」

「ええ。直してまた頑張るといいわ」

 ミドリも続けた。

「ありがとよ。名をかたったというのに、優しいなおまえら」

 ファイタスにヒロシが聞いた。

「このロボット、本当は何ていうんだ?」

「『虫どもを討ち倒す』という意味で――『バグストライカー』だ」

 聞いて兄弟たちは口々に言った。

「いい名前じゃないか」

「本当の名前を使った方がいいよ」

「ロボットだってお父さんだって、その方が喜ぶわ」

 ツヨシが言った。

「ファイタス。今回の件は不問にしよう。これからは、お互い、ガイチュラ殲滅のために、それぞれの場所で力を尽くそうじゃないか」

「すまねえ。ありがとよ、本物のドライバウター」

 ファイタスは立ち上がり、ツヨシと握手した。

 2人とも負けず劣らずのがっしりとした太い腕だった。


 村の人々にドライバウターをかたった事をファイタスは正直に詫びた。

 村の人々は、ガイチュラたちと戦ってくれた事を感謝しこそすれ、ファイタスを責める事はしなかった。

 それどころか、ミドリたち兄弟に12日分、そしてファイタスにも12日分の食料をそれぞれ報酬として支払おうと申し出てくれたのである。

 だが、ファイタスはそれを固辞した。


「ファイタス、島からどうやって帰るの?」

 ミドリが聞いた。

「この島に残ってこつこつバグストライカーを直す。そして今度こそ、ガイチュラどもに負けないロボットにするつもりだ」

「だが、この島では設備が足りないんじゃないか?」

 ヒロシが言う。

「まあ正直そうだが……、他にやりようもないしな」

 ファイタスにタダシが提案した。

「ボクら、帰りはキイロ姉さんのテレポーテーションで一気に海の向こうへ帰る。ファイタスとバグストライカーも一緒に来るといいさ。――ツヨシ兄さん?」

 タダシが長男ツヨシに聞いた。

「いいだろう。ダイゴの力で小さくすれば、キイロの負担にもならないしな」

 ツヨシも同意した。


 ドライバウター兄弟姉妹にファイタスを加えた13人を見送りに、村人たちが海岸に来ていた。

 ファイタスは、ダイゴによっておもちゃのようなサイズに小さくされたバグストライカーを手に持っていた。

「ありがとう皆さん。お気をつけて」

 村の指導者の老婆が言った。

「ありがとう。おばあさんも元気でね」

 ミドリが老婆の肩に手を置いた。

「じゃ、みんな行くよ。手をつないで」

 キイロを中心に13人は手をつないだ。

「さようなら、みなさん」

 テレポーテーションにより、13人の姿は村人たちの前から消えた。

 ガルドラの島には、今後、久しぶりの平穏な日々が戻る事だろう。

 ミドリ16歳。

 12兄弟姉妹の7番目、四女。

 身長160cm。

 髪の色、緑。

 自身や物を透明とする事ができる。

 透明となった時、体内に吸収した光を収束させ、レーザーのように放ち、武器とする。

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