16.雷(いかずち)のタダシ
ドライバウターはネット上にサイトを開いている。
そこで仕事を請け負うのだ。
「ドライバウターになりすましているあのファイタスという男、何らかの手段でドライバウターのサイトから今回の依頼内容を知ったのでしょうね」
着替えながら緑色の髪の少女が言った。
ファイタスと名乗った男が操るスーパーロボット『ドライバウター』に助けられた4人の少年少女たちは島の家の部屋の一室をあてがわれていた。
ファイタスによるガイチュラ退治と島の人々を救い出す事の手伝いを、4人は申し出たのである。
「今の時代、ネットのセキュリティももろくなっているしね。でもあのロボットの性能ならば、確かにこの島に巣食っているガイチュラどもを殲滅できるかもしれない」
同じく着替えながら紺色の髪の少年が言った。
「でも、ガイチュラたちの巣が正確にはどこなのか、数はどれくらいなのかは分からないわ。いくらあのロボットだって油断は禁物よ」
桃色の髪の少女もまた着替えながら言った。
「うん、それはそうだ。で、それはそれとして――」
オレンジ色の髪の少年が着替えを終えて、緑色の髪の少女に言った。
「ミドリ姉さん、これ、ほんとに今晩ボクらも着なきゃいけないの?」
オレンジ色の髪の少年が着ていたのは、なんと、島の女の衣装だった。
「あら、タダシ、なかなか似合うわよ」
ミドリと呼ばれた緑色の髪の姉が、笑顔でオレンジ色の髪の弟に言った。
ミドリもまた島の女の衣装に着替え終えていた。
「俺にはちょっとちっちゃいぜ」
紺色の髪の少年もまた、島の女の衣装を身に付けていた。
「ほら、ヒロシ兄さん、ここのところもきちんとしなきゃ」
やはり島の女の衣装を身に着けた桃色の髪の妹が、紺色の髪の兄の衣装の着こなしを整えてやった。
「ミドリ姉さんとモモコはいいよ。もともと女なんだし。男の俺とタダシが、なんでこんな格好を……」
紺色の髪の少年ヒロシも、弟のタダシ同様まいったなといった表情だ。
「まあまあ。ほらほら、鏡見てよ。私たち『若草の4姉妹』って感じーー!」
桃色の髪の少女モモコが、部屋にある大きめの鏡を指差した。
そこに、島の女の衣装を身に着けた4人の姿が映っている。
「でも、なんかちょっと物足りないかなーー?」
「あ、姉さんもやっぱそう思う?」
姉のミドリと妹のモモコはお互いに顔を見合わせた。
そして、ヒロシとタダシを見た。
「な、」
「なにかな……?」
嫌な予感のする兄ヒロシと弟タダシ。
「わっ、こらよせ!」
「いいじゃない、ここはやっぱりこうしないと」
「やめてよ、姉さん」
「ほら、動かないの!」
大騒ぎの後――。
ばっちりミドリとモモコに顔をメイクアップされてしまったヒロシとタダシが居た。
「ちょっと、2人とも結構イケてるかも」
「うん、可愛い可愛い」
ミドリとモモコは、可愛く仕上がったヒロシとタダシに上機嫌だ。
「う・れ・し・く・ない!!」
ヒロシとタダシは声を揃えて言った。
ガイチュラ指定の場所に出向く時刻になった。
島からは10代の娘6人が出された。
後の4人は、ミドリとモモコ、それに女装したヒロシとタダシが務める事になったのだ。
10人を見送りに島の人々が集まってきていた。
「はて、来たのは確か男の子2人と女の子2人ではなかったかの?」
不思議がる島の指導者の老婆にミドリが言った。
「男の子2人もちゃんといますよ」
ミドリが指したヒロシとタダシを見て、老婆は驚いた。
「これはまた随分と化けたものじゃの」
「えへ、姉妹の私たちだって驚いちゃったくらいで」
モモコが老婆に言う。
「俺も驚いたぜ」
大きな声がした。
ファイタスだった。
「ヒロシもタダシもそうだが、モモコ。おまえもずいぶん可愛くなったじゃねーか」
「それはどーも」
ふーんだという感じでモモコが言った。
「いやあミドリ。また一段とチャーミングになったなあ。なあに、心配ない。ガイチュラどもが現れたら、俺がドライバウターで直ぐに駆け付けてやるからな」
ファイタスの大きな顔がミドリに迫った。
「は、はい。待ってますね」
ミドリは体を反らせながら返事した。
老婆が言った。
「すまんが、そろそろ出発してくれ。行き先は村の娘たちが知っておる」
「ガイチュラどもが現れたら、預けた通信機で直ぐに知らせるんだぜ!」
見送りながらファイタスが叫んだ。
森の奥。
島の中心部にある山のふもとの広場が目的地だった。
中央には灯明がたかれ、辺りはしんとしている。
フードをかぶった姿で灯明のそばに座り、ミドリ、ヒロシ、モモコ、タダシ、そして村の6人の娘たちは何かが起きるのを待った。
着いてから1時間が経過した。
しかし、何も起きる気配は無い。
緊張の糸が切れてきたのだろう。
島の娘たちがうとうとし始めた。
ヒロシが何かに気付いた。
「姉さん、これは?」
「気付いた? みんなマスクを」
ミドリが弟妹たちにマスクの着用を呼びかけた。
これはインセクタワーでの戦いで、ハヤトが身に着けたのと同じ物だ。
どうやら、中央の灯明から眠りを誘う煙が出ていたらしい。
島の娘たち6人はみんなうとうとと眠りに入ってしまっていた。
「みんな、私たちも眠ったフリを」
ミドリが弟妹たちに小声で言った。
不気味な声が聞こえてきた。
「ダ……、ダ……、ダガダガ、ダ~ガダガ……」
闇の中から、ミドリたちが昼間遭遇したのと同じタガメ型のガイチュラたちが現れた。
ガイチュラの数は9。
おそらく1匹ずつにそれぞれ人間1人という事だったのだろう。
だが、ファイタスのロボットが昼間に1匹倒したので、人間の数より1少ない9匹なのだ。
ガイチュラの1匹が、1人の村の娘の背後に回った。
首元に口をもっていく。
血を吸う気だ。
その時、タダシがフードをかばっと脱ぎ、立ち上がって右手の人差し指をそのガイチュラに向けた。
指先から閃光が放たれた。
電撃だ。
全く予期しない攻撃を受け、ガイチュラは弾き飛ばされた。
他の8匹のガイチュラたちも、何が起きたのか分からず、ひるんだ。
バリバリバリといった電撃の大きな音で、村の6人の娘たちも驚いて目を覚ました。
「さ、みんな! やつらがひるんだスキに逃げるのよ」
ミドリが娘たちを促したが――。
「そ、それが……。体がうまく動かないの」
娘の1人が言った。
「灯明からの煙のせいだ」
ヒロシが言った。
「でも、みんなを戦いには巻き込めない。早く安全な場所に連れて行かないと」
モモコは、自分のマスクを外すと、娘の1人に着けてやった。
ミドリ、ヒロシも同様にした。
「ボクのも使って!」
タダシがミドリにマスクを投げ、ミドリは受け取ったマスクを娘の1人に着けた。
「ここは、ボクが引き受ける! 姉さんたちは、みんなを早く安全な場所に」
「分かった。タダシ、お願いね」
ミドリ、ヒロシ、モモコは、おのおのが2人ずつの娘を何とか歩かせながらその場を離れ始めた。
マスクが2つ足りない。
あとの2人の娘にはハンカチで口元を押さえさせた。
「ダ~~ガダガ……。オマエ、格好はメスだがオスの人間だな」
「我々が要求したのは若いメスの人間だ」
「女装趣味のオスの人間に用は無い」
9匹のガイチュラたちは言いながらタダシを取り囲み始めた。
「こっちだって好きでこんな格好してるんじゃないや!」
タダシは身構えた。
島の娘姿で、しかもばっちりメイクアップされてしまっているが。
「オスの血はあんまりうまくないが、まあ、おまえで我慢しておいてやる!」
背後から1匹のガイチュラが、タダシに飛び掛ってきた。
タダシは振り向きざま、左人差し指をガイチュラに向けた。
超高電圧の放電がなされた。
その一撃はガイチュラの胸元を貫いた。
一撃必殺。
胸を撃ち抜かれたガイチュラは動かなくなった。
「ぬっ」
「な、なんとっ!?」
「電撃だと……」
「貴様、戦闘用のロボットか?」
驚愕するガイチュラたち。
「ボクは人間さ、ロボットじゃ……」
タダシはロボットと言いかけて、そういえばとファイタスの事を思い出した。
村からも、島の中央部の山のふもとからの光と物音が観測できた。
「あれは?」
「何かあったんだ!」
村人達が騒ぎ始めた。
「ぬう、ミドリたちからの連絡はまだだが……。どうやら何か起きたようだな」
ファイタスはそう言うと、自分のロボットに乗り込み、始動させた。
ミドリ、ヒロシ、モモコの3人は娘たちをともなって、森の中へ入っていた。
1人につき2人の娘たちを手助けして歩かせているが、眠りを誘う灯明の煙を吸い込んでしまった娘たちの動きは鈍かった。
「う~ん、こんな事なら力持ちのツヨシ兄さんに来てもらうんだった」
ヒロシが言った。
「でなきゃ、テレポートのできるキイロ姉さんかとか、サイズを小さくできるダイゴとかね」
モモコも応じる。
「とりあえず、あたしたちしかいないんだから、頑張ってみんなを連れて行かないと」
弟妹に姉ミドリが言った。
ガイチュラたちが、鎌のようになっている前足を武器に、代わる代わるタダシに襲いかかってきていた。
タダシは身軽に跳躍してかわし、電撃で反攻する。
「8人全員でこいつの相手をする事はない。2人もいればこいつは十分だ。あとの6人は逃げた娘どもを終え!」
ガイチュラの1匹が指示を出し、
「はっ!」
と6匹のガイチュラが森へ向かおうとした。
「そうはさせないぞ!」
阻止しようとしたタダシだったが、
「おっと、おまえの相手は俺たちだ」
残った2匹のガイチュラがタダシをさえぎり、タダシは6匹のガイチュラたちに姉たち9人の追跡を許してしまった。
「あ、ガイチュラよ」
森の中を行くモモコが、上空の6匹のガイチュラに気付いた。
「タダシ1人では、やはり足止めしきれなかったようだな」
妹の言葉にヒロシが続けた。
「しっ。まだ奴らはこちらの場所を正確に把握してはいないわ」
ミドリが一同に静かにするよう促した。
「だが、このままでは見つかるのは時間の問題だ……」
ヒロシの言葉にモモコが言った。
「今度は私が奴らを引き付ける。姉さんたちはみんなを連れて早く森を抜けて」
一瞬の間があったが――。
「分かった。お願いね、モモコ」
「頼む」
「任せておいて!」
モモコはその場から駆け出した。
モモコは、一行から距離を取ると、全身から炎を放った!
タダシ12歳。
12兄弟姉妹の10番目、五男。
身長150cm。
髪の色、オレンジ。
その能力は電撃。