15.スーパーロボット
曇り空の下、海を行く小舟の中に4人の少年少女たちの姿があった。
「島までもう少しだね」
オレンジ色の髪の少年が言った。
4人の中では彼がいちばん年少のようだ。
「今の内にお弁当食べておきましょうか」
いちばん年長者と思われる緑色の髪の少女が言った。
「いいね」
「賛成、賛成」
紺色の髪の少年と桃色の髪の少女も同意した。
持ってきた用意を広げる4人。
果物や携帯型食料を取り出し、食べ始めた。
「なんだかピクニックみたいね」
「天気が今いちだけどね」
あらかた食べ終わる頃。
波の揺れが激しくなってきた。
「な、何だ?」
オレンジ色の髪の少年が海を覗いた。
海の底から、何かが上昇してきた。
その影はだんだん大きくなり、海面から垂直に飛び出すと、そのまま曇り空へ飛翔した。
「ガイチュラだ!」
少年少女たちは叫んだ。
それは、体長15~6メートルのタガメ型ガイチュラだった。
空を飛び、水中でも活動できる、両棲ガイチュラだ。
「攻撃してくるぞ」
タガメ型ガイチュラは、小舟に急降下で襲いかかってきた。
少年少女たちは伏せた。
4人をかすめてガイチュラは再び上昇した。
彼らの4色の髪が数本飛んだ。
「また、来るぞ!」
ガイチュラは向きを変えると再び急降下してきた。
4人は身構えた。
その時。
突如、横からビーム攻撃がガイチュラに仕掛けられた。
ビームはガイチュラに直撃。
ガイチュラは横に吹っ飛んで、海に突っ込んだ。
「な、なんだ!?」
不思議がる4人。
海中からガイチュラが再び姿を現した。
横腹に先程のビーム攻撃を受けてダメージを受けている。
ガイチュラは今度は高く飛ばず、海面から周囲の様子をうかがった。
4人もまた、小舟のへりからそ~っと顔の上半分を出して辺りの様子をうかがった。
ガガガガガッ!!
突然、上空の雲の彼方からマシンガンがガイチュラに向かって放たれた。
いくつかがガイチュラに当たったが、ガイチュラは飛行態勢に入ると、マシンガンの雨をかわしながら上昇し、雲の中に入った。
上空から、ガシッ、ガシッと、何かと何かが激しくぶつかり合う音がした。
やがて、ガイチュラが海面近くまで下降してきた。
それを追うように姿を現したのは――。
身長20~30メートルの巨大ロボットだった。
「す、すごい」
「ロボットだ!」
驚く4人。
ロボットは頭から急降下してくると、ガイチュラ目掛けてパンチを繰り出してきた。
ガイチュラは鋭利な鎌になっている前足の片方でそのパンチを受け止めた。
そして、もう一方の前足でロボットに切りつけた。
しかし、ロボットのボディには傷1つつかない。
ガイチュラが明らかにうろたえているのが、小舟の4人にも分かった。
ロボットは、ガイチュラを蹴り飛ばした。
パワーの差は圧倒的だ。
蹴られて海に突き落とされたガイチュラは、そのまま逃げ出した。
ロボットがそれを追った。
タガメ型ガイチュラは水中でも高速で行動できる。
ところがロボットはそれにひけをとらない速度で水中を移動し、ガイチュラに追いついた。
ロボットは両手でガイチュラを捕まえると、その手足をもぎ取った。
さらにガイチュラの胴体にこぶしを見舞った。
こぶしは貫通し、ガイチュラの胴体には大きな穴が開いた。
「ど、どうなったんだろう?」
一方、海上の小舟では、4人がロボットとガイチュラの戦いの行方を見守っていた。
ほどなく――。
「あ、見て!」
海上に、ガイチュラの残骸が浮いてきた。
「やられたガイチュラだ」
「と、いう事は?」
ざざざーーっとしぶきをあげ、ロボットがその上半身をゆっくり小舟近くの海上に現した。
このロボットが味方とは限らない。
4人は油断無くロボットを見た。
ロボットの胸が開いた。
そこはコクピットになっていた。
「よぉ」
中から姿を現したのは、30歳ぐらいの体格のいい男だった。
男はコクピットから、4人の居る小舟に跳び降りた。
「ケガはないか? ボーヤたち」
男は4人にたずねた。
「え? ええ、おかげ様で……。あの、助けてくださってありがとうございます」
緑色の髪の少女が、4人を代表して男に礼を述べた。
「いいって事よ。今の時代、人間はお互いに助け合わなくちゃな。おまえたちは何だ? 友達同士でお出かけかい」
男にたずねられ、緑色の髪の少女が答えた。
「いえ、私たちは兄弟なんです」
「そうか……。あんたがいちばん上のお姉ちゃんか」
男は緑の髪の少女に顔を近づけた。
「君みたいにか弱そうでチャーミングな子が、3人もの弟の面倒を見ているなんて……、苦労が多いんだろうなぁ、えらいねーー」
緑の髪の少女は苦笑する。
男の言葉に桃色の髪の少女が言った。
「あたしは女!」
桃色の髪の少女はボーイッシュな感じなのだ。
「なんだそうなのかよ。わりぃ、わりぃ」
そう言うと男は、がっはっはと大声で笑った。
「ところでこのロボット、すごいですね」
緑色の髪の少女に言われて男が答えた。
「ああ、そうだろう。俺の大事な相棒よ。先のガイチュラとの大戦の時はまだ未完成で動けなくてな。こいつさえ動いてくれていりゃあ、みすみすガイチュラどもの侵略を許さなかったものを」
「姉さん、これ……」
小舟から手を伸ばして、オレンジ色の髪の少年がロボットに触れ、気付いた。
「ネビュラメタルだよ!」
「なんだって!」
紺色の髪の少年が驚きの声を上げる。
「ほう、ボーズ、ネビュラメタルの事よく知ってるな。ロボット好きか?」
男に聞かれてオレンジ色の髪の少年は答えた。
「うん、ネビュラメタルなら、さっきガイチュラの攻撃を跳ね返していたのも納得だよ。ホントにすごいね、このロボット」
「そうだろ、そうだろ!?」
ほめられて男は嬉しそうだ。
「どころで、おまえら、どこへ行く途中だったんだ?」
4人に男が尋ねた。
「私たち、ガルドラの島へ向かう途中だったんです」
「ガルドラの島?」
意外そうに男は言った。
「それなら、俺の目的地と一緒だぜ。今までよくそんな小舟でここまで来られたもんだな」
男の言葉に4人はお互いに目配せしたが、何も言わなかった。
「だが、あそこは危険な場所だ。あんな島に一体何の用なんだ?」
男が問うたが、
「ええ、まあ……」
と、緑色の髪の少女は言葉を濁した。
「ま、いいさ。人にはそれぞれいろんな事情があるからな。どころでどうだ? 良かったら、俺の相棒で小舟ごと島へ届けてやるぞ」
男はこぶしに立てた親指でロボットを指した。
男が操縦するロボットは、4人を乗せた小舟を両手で持つと、飛行態勢に入った。
「姉さん、これなら、予定より早く着きそうだね」
オレンジ色の髪の少年が、緑色の髪の少女に言った。
「そうね、それは良かったんだけど……」
緑色の髪の少女が言った。
桃色の髪の少女も、自分たちを運んでくれているロボットを見て、姉に言葉を続けた。
「あいつの方こそ、島に一体何の用なのかな?」
「だよな、わざわざあの島に……」
紺色の髪の少年もいぶかった。
ロボットはガルドラの島に着いた。
ロボットは小舟を海岸の砂浜に下ろした。
4人の少年少女は船から降りた。
ロボットは膝を着き、胸に手をやった。
コクピットのハッチが開き、男がロボットの手のひらに乗った。
ロボットの手は、男を胸元から地上に下ろした。
ロボットの到着に気付いたのだろう。
何人かの島民たちが、海岸にやって来た。
島の指導者と思われる老婆が前に歩み出て言った。
「ついに来てくださったか」
老婆に答え、男が言った。
「ああ、依頼を受けてやって来たぜ」
「依頼……?」
何の依頼だろうという顔で、4人の兄弟姉妹は男を見た。
「先の戦争以来、このガルドラの島はすっかり孤立してしまった。今ではガイチュラに巣食われ、我々は逃げ出す事もできず、ただ食べられる事に怯えながら暮らす日々」
老婆が語る。
「なるほどな……。確かに今の時代、船も飛行機も満足に残っちゃいねえ。人間たちがこの島から出られないのをいい事にガイチュラどもがのさばっているというわけか」
男は言った。
「ガイチュラどもは島の中央の山のふもとに巣食っておる。やつらは月に一度、村の若い娘を10人差し出すように言ってきている。今月は今宵がその時なのじゃ」
「全く、おぞましいこったな。だが、俺が来たからには、もうみんな安心していいぜ」
「では、ガイチュラ退治を?」
老婆の顔に喜びがあふれた。
「ああ、引き受けよう。だが、報酬はきっちり頂くぜ」
男の言葉に老婆が答えた。
「もちろんじゃ。食料12日分じゃったな」
どこかで聞いたようなやり取りだ。
4人はそのままやり取りを見守った。
「して、そなた、名は何と?」
老婆の問いに、男は胸を張って答えた。
「俺の名はファイタス!」
「ファイタス殿か。お願い致すぞ、ファイタス殿」
「ああ、任せておけ。今回の依頼、この俺ファイタスと、俺の相棒、スーパーロボット『ドライバウター』が引き受けた!」
4人の兄弟姉妹は驚いた。
「ええ、ドライバウターだって!?」