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妹弟兄姉マイティブラスター  作者: 秋保嵐馬
一.ドライバウター登場編
14/50

14.花吹雪

 ハヤトは携帯していたマスクとゴーグルですばやく鼻、耳、口、目を覆った。

「今頃マスクをしても遅いぞ。もうかなり吸い込んだはずだ」

 インセクタワーのてっぺんの牢内では、ハヤトとガ型ガイチュラのドライ バウト(Dry Bout 冷徹な戦い)が繰り広げられようとしていた。

 牢といっても人間が100人は収容できる広さだ。

「くらえ!」

 6本の手足の爪を振りかざして、ガ型ガイチュラが襲ってきた。

 跳躍してハヤトがかわす。

 しかし、ガ型ガイチュラの放った鱗粉で、ハヤトの動きは普段よりも鈍くなっていた。

「テレパシー通信で仲間がおまえにやられた時の状況は分かっている。どうした? その時ほど動きに切れが無いようだぞ」

 ガ型ガイチュラが余裕を見せた。

「ちっ」

 ハヤトが斧を放った。

 斧はブーメラン状に回転してガ型ガイチュラに襲いかかる。

 しかし、ガ型ガイチュラは余裕でそれをかわし、ハヤトに襲いかかってきた。

 ハヤトがガ型ガイチュラの攻撃をかろうじてかわす。

 斧が戻ってきた。

 ハヤトはキャッチした斧で、襲い掛かってきたガ型ガイチュラの爪を受け止めた。

「どうした、どうした? もう終わりか?」

 斧と爪のつばぜり合い状態から、ガ型ガイチュラがハヤトをぐいぐい押してきた。

「うっ、な、なんだこれは!?」

 唐突にガ型ガイチュラはハヤトから離れた。

「む~~、何とも言えぬ不快なニオイ」

 ハヤトがたすきにしている嫌虫花からの香りが、ガ型ガイチュラを遠ざけたのだ。

 そのスキをハヤトは見逃さなかった。

 ガ型ガイチュラに急速接近し、斧で攻撃をしかけた。

 ガ型ガイチュラが危うく受け止めた。

「ぬぬ? 貴様まだこんなに動けるのか!」

 両者は離れた。

(今は何とか動けたが……。長時間は無理だ。戦闘が長引くとまずいな)

 ハヤトは思った。

 ガ型ガイチュラが襲いかかってきた。

 爪を次々振りかざして攻撃してくる。

 ハヤトは斧で受け止めた。

 ガン、ガン、ガンと大きな音が牢内に響いた。

 時折、ハヤトが反撃を入れる。

 ハヤトに接近し過ぎると嫌虫花のニオイがする。

 ガ型ガイチュラもあと一歩、間合いに踏み込めないでいた。

 ガ型ガイチュラの爪が、嫌虫花のハヤトのたすきをかすめた。

 花びらや葉が散り、その1枚がガ型ガイチュラの口元に舞った。

「うっ」

 それを嫌って跳びのくガ型ガイチュラ。

「どうやら、その草花だな。嫌なニオイを放っているのは」

 ガ型ガイチュラは嫌虫花が自分の嫌うニオイを発している事に気付いた。

 切られたたすきは、ハヤトの首から、結ぶ前のネクタイのようにだらりとぶら下がった。

「……」

 その端を手に取り見つめるハヤトに、ガ型ガイチュラが言った。

「どうやら、大事なお守りが壊れてしまったな? それでは、それを身に付けたまま戦う事はできまい」

 ハヤトはたすきを首から外すと、花びらや葉を粉々に千切った。

「どうした、ヤケクソになったか?」

 突然ハヤトは高速移動を始めた。

 ガ型ガイチュラを中心として、牢内を円を描いて走る。

 走りながら、ハヤトは花びらや葉を撒いた。

 ガ型ガイチュラの周囲の宙空に、まるで花吹雪のようにそれらが舞った。

「う、うわ、貴様!」

 周囲に苦手なニオイの元を撒き散らされ、ガ型ガイチュラは苛立った。

 突如、周囲を走っているハヤトが、ガ型ガイチュラに攻撃を仕掛けた。

「ぬぬ!」

 斧を爪で弾くガ型ガイチュラ。

 ハヤトは再び周囲を走る。

 ハヤトの姿が、2人、3人と残像分身を始めた。

「おのれ!」

 ガ型ガイチュラが叫ぶ。

 3人のハヤトが交互にガ型ガイチュラに攻撃を仕掛けては、周囲を走る円の中に戻った。

 何とか、ガ型ガイチュラはかわしていたが、

「くそう、ニオイが気になって集中できん!」

 ハヤトの姿が、4人、5人、6人と、どんどん増えていく。

 周囲を走る円の中から、次々と攻撃を仕掛けてきては円の中に戻っていく複数のハヤトたち。

「おまえが俺の周りに鱗粉を撒き散らしたのと、同じ事をしてやったまでさ」

 ハヤトの分身攻撃は激しさを増す。

 7人、8人――。

 ハヤトは更に分身した。

「く、く、くそおおおお!!」

 ガイチュラは咆哮したが、そこまでだった。

 中央のガ型ガイチュラに八方から同時攻撃を仕掛ける8人のハヤト。

「があああああああっ」

 叫び声を上げ、ガ型ガイチュラはハヤトに切り刻まれた。

 ハヤトは1人に戻り、膝をついた。

「くっ、もう少し戦いが長引いていたら危なかったぜ……」

 物陰から別のガイチュラの声がした。

「ほお? それはいい事を聞いたぞ」

 メスのトンボ型ガイチュラだった。

「おのれ……、テレパシーを聞きつけてやってきたが遅かったか」

 トンボ型ガイチュラは、切り刻まれたガ型ガイチュラの残骸を見て言った。

「おまえも直ぐにそうしてやるぜ」

 ハヤトは立ち上がって斧を構えたが、明らかに疲労の色が濃い。

「ふん、そんな状態で、この私に勝てるかなあ!?」

 トンボ型ガイチュラはいきなり8体に分身すると、ハヤトに襲い掛かった。

「く……」

 ハヤトは分身したが、4人が限度だった。

 走り回りながら何とか攻撃をかわすハヤト。

「そらそらあ! 動きが鈍いね。自慢の12分身はどうした!!」

 攻撃を受けながら、ハヤトは徐々に壁際に追い詰められていった。

 強い一撃を受け、ハヤトは壁に突き飛ばされた。

 ハヤトの姿は1人に戻った。

 トンボ型ガイチュラもまた、1体に戻った。

「フン、あっけない。こんなやつらに仲間が何人もやられたとは……」

 トンボ型ガイチュラはハヤトにとどめを刺そうと身構えた。

 その時。

 トンボ型ガイチュラは斜め後方から攻撃の気配を感じ、跳びのいた。

 ムチがビシッと牢の床を打った。

「ぬ、誰だ!?」

 月明かりに照らされて立っていたのは、ドライバウターの次女アカネだった。

「弟にそれ以上手出しはさせないわ」

 アカネは再びムチをしならせ、猛獣使いのように床を打った。

「弟だと? ふん、ちょうどいい。こちらも弟の仇を討とうとしていたところだ。おまえを動けなくなるまで痛めつけてから目の前で弟を食ってやる。私と同じ、弟を失う思いを味わうがいい」

 メスのトンボ型ガイチュラが言った。

 このメスのトンボ型ガイチュラは、昨日ハヤトが倒したオスのトンボ型ガイチュラの姉のようだ。

「おまえたちガイチュラは人間の天敵。それをドライブ アウト(駆逐)するのが、私たちドライバウターの仕事よ」

 アカネが言い返す。

「ほざけ!」

 トンボ型ガイチュラの姿が消えた。

 宙空にアカネがムチを振るった。

 空間の何箇所かを、ビシッ、バシッとムチが打った。

 トンボ型ガイチュラが姿を現し、着地した。

 腕を押さえている。

「おまえ……、まさか高速移動中の私が見えているのか?」

「私は性格同様目がいいの」

 アカネが再びムチを鳴らした。

「ふん、たとえ見えていたところで、私の攻撃を防ぎきれるかな!?」

 トンボ型ガイチュラは、16体に分身した。

「16分身?」

 驚くアカネ。

 16体のトンボ型ガイチュラからの攻撃を跳躍してかわしながら、時折ムチを振るって反撃するアカネ。

「どうだ、どうだ?」

「たとえ見えていたところで」

「16分身からの攻撃」

「とうてい防ぎきれまい!」

 トンボ型ガイチュラからの攻撃は激しさを増した。

 攻撃をかわしながら、アカネはちらりとハヤトの方を見た。

 ハヤトは物陰に隠れていた。

 姉と弟はお互いに目配せした。

「これで、終わりだ」

 16体のトンボ型ガイチュラが一斉にアカネに襲い掛かった。

 その時、アカネが叫んだ。

 赤いロングヘアーが全て逆立つほどの勢いだ。

 アカネが全方向に破壊超音波を放ったのだ。

「な、何い!?」

「ぎゃあああ!」

 トンボ型ガイチュラは、羽根や外甲をぼろぼろに砕かれ、1体の姿に戻って床に落下した。

 トンボ型ガイチュラの体は痙攣し、もう戦う力は残っていなかった。

 アカネがトンボ型ガイチュラに近づいた。

「ま、待て、待ってくれ。もう人間は襲わない。命は助けて……!」

 トンボ型ガイチュラが命乞いをした。

 アカネはそれを冷徹な表情で見下ろすと、問答無用でムチを振るい、とどめを刺した。


「ハヤト、大丈夫?」

 かたわらにしゃがみこみ、ハヤトの上体を起こしてやりながらアカネが聞いた。

「ああ。姉さんありがとう。俺たちからのメール届いていたんだな」

「ごめんね。もう少し早く来られれば良かったんだけど」

 わびる姉に弟が答えた。

「十分さ。あとのみんなは?」

「ボクなら、ここにいる」

 声のした方を見ると、コウジが来ていた。

「アカネねえさん、来てくれたんだね」

「コウジの出番、無くなっちゃったかな?」

「いいさ、レディーファーストで、姉さんにゆずっとく」

 コウジとアカネは、両脇から肩を貸し、ハヤトを立たせた。


 ロンの村の一室では、ベッドにキイロが寝かされていた。

 ベッドの横には、キイロの様子を心配そうに覗き込む妹チャコと弟ダイゴ、それに兄ツヨシが居た。。

 同じ部屋でキイロを見守る村の老人がツヨシ、チャコ、ダイゴに言った。

「キイロさんは、とらわれていた100人の村人全員を一気にテレポーテーションで救い出してくださったのです。ですが、村に着くと同時に気を失われてしまいました」

「100人もいっぺんに……」

「姉さんたら、無理して……」

 チャコとダイゴが言った。


 3体のガイチュラどもを撃破したアオイ、アカネ、ハヤト、コウジ、ジャック、ケンは、インセクタワーに火を放った。

 いつも人間たちをインセクタワー建設のために働かせていたガイチュラたちは、朝になっても来なかった。

 インセクタワーの3体のボス格ガイチュラたちがやられた事をテレパシーで知り、警戒したのだろう。


 村人たちがドライバウターの8兄弟を見送りに広場に集まっていた。

見送りの村人たちの中に、ジャック、ケン、セシル、ミチルの顔もあった。

「ありがとう、これからは安心して暮らせるよ」

 ツヨシ、アオイ、アカネ、ハヤト、キイロ、コウジ、チャコ、ダイゴの8人を見送りながら、ジャックが言った。

 見送りの村人たちの中に居たセシルが隣のケンに言った。

「コウジに聞いたよ。兄さんとケンも頑張ってくれていたって」

「まあ、でも、最後は結局あいつらに助けられちまったがな」

 ケンはばつが悪そうだ。

「そんな事はないぜ、ケン」

 ハヤトがケンに言った。

「人はお互いに助け合うものさ。俺だっていつも兄弟に助けられている。今回も君がコウジを送り出してくれたから、コウジはピンチの俺の元へ駆けつける事ができたんだ」

「そうだよケン」

 コウジも同意した。

「ありがとよ、ハヤト」

 ケンが右手をハヤトに差し出した。

 今度はわだかまりのない握手だ。

「こちらこそ」

 ハヤトが握手を返した。

「ケン……」

 そのケンを見るセシルの目もまた、以前とは違っていた。

「またいつか」

「どこかでね」

 2人の握手に、コウジとキイロも手を載せた。

「君たちの報酬が食料12日分のわけが分かったよ。それだけ兄弟がいるんだからな。でも8人兄弟じゃ、それでも1日半の分にしかならないな」

「いや、1日分なのさ」

「え?」

 不思議がるジャックにツヨシが言った。

「俺たちは12兄弟だ」


 曇り空の下。

 海を行く1艘の小舟があった。

 乗っているのは10代の若者4人。

 緑色の髪の10代後半の少女。

 紺色の髪の10代半ばの少年。

 桃色の髪の10代半ばの少女。

 そして、オレンジ色の髪の10代前半の少年の4人だった。

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