13.ジャックとケンの戦い
コウジ、ジャック、ケンの3人はインセクタワー1階のホールでクモ型ガイチュラのクモの巣にかかり、動きを奪われていた。
「グ、グ、グ、グモグモ~~。まんまと罠にかかったね、人間ども」
「おのれ、ガイチュラめ!」
クモ型ガイチュラにケンが叫んだ。
「威勢がいいねえ、人間。だがそれもいつまで続くかねえ。あたしに食われる頃には泣き喚く事になるよ……。今頃、インセクタワーの上に行った奴も、あたしの仲間の餌食になっている頃さ」
「全部承知の上で、ボクたちを待ち伏せていたのか」
「グ、グ、グ……。ここと、最上階……、そしてタワーの中腹と、3か所でおまえたちを待ち伏せていたのさ。だけど、これなら2か所で待っていれば十分だったねぇ」
「まんまとボクらは罠にかかってしまったというわけか」
「グ、グ、グ、ガイチュラの頭の良さが分かったかい。愚かな人間め」
コウジに対し、ガイチュラは優越の笑みを浮かべた。
「グモ~~、グモ~~。さあ、どいつから食ってやろうかね~~」
クモ型ガイチュラは、3人の顔を順に見た。
クモ型ガイチュラは、ケンの顔で視線を止めた。
3人の中ではケンがいちばん敵意むき出しの表情だった。
「おまえが、いちばん生意気そうな顔つきだね~~」
クモ型ガイチュラがケンに近づいた。
「おまえから食ってやる事にするよおお~~」
クモ型ガイチュラは大口を開け、ケンに迫った。
「く……っ」
ケンは目を見開き、歯を食いしばった。
「むっ?」
何かを感じ、クモ型ガイチュラが動きを止めた。
「な、なんだい、この嫌なニオイは。おまえ、変なニオイがするね~~」
クモ型ガイチュラは、ケンから離れた。
(なんだって……?)
(そうか、嫌虫花――)
ケンとジャックは心の中で思った。
「じゃあ、おまえから食おうかねぇぇ~~」
クモ型ガイチュラは今度はジャックに迫った。
しかし、やはり、
「う、おまえも何だか気持ち悪いニオイがするよ!」
クモ型ガイチュラは顔をしかめてジャックからも遠ざかった。
(嫌虫花が役に立ったな)
コウジが思った。
「ジャック! ケン!」
コウジは2人を呼んだ。
呼ばれた2人がコウジを見る。
「どうやらタワー内にガイチュラは3匹いるらしい。ここに居るこいつと、タワーのてっぺんと、真ん中辺りにそれぞれ1匹ずつだ」
「そうらしいな」
ジャックが答えた。
「ボクはこれからタワーの上へ向かう。塔の真ん中辺りに居るという奴を倒しにな。君たち2人に、こいつを任せていいかい?」
意外な申し出に驚くジャックとケンだったが。
威勢よくケンが答えた。
「お、おうよ。任せておけってんだ」
しかしジャックが言った。
「もとより君たちの助けになるつもりでここまで来たんだ。任せてほしい――と言いたいところだが、今のこの状況では……」
コウジもジャックもケンも、クモの糸にかかって身動きが取れないのだ。
「グモグモ~~。身動きできない分際で何を言っている。恐怖で状況がよく理解できなくなっているようだね~~」
クモ型ガイチュラが、3人をあざ笑った。
「状況はよく分かっているさ!」
コウジの顔が険しくなった。
ホール内に突如突風が吹き荒れた。
そしてかまいたち現象が生じ、クモ型ガイチュラが張り巡らしておいたクモの巣は、ずたずたに切り裂かれた。
拘束を解かれ、コウジ、ジャック、ケンは着地した。
「ジャック、ケン、任せていいな?」
コウジが念を押した。
「ああ、自由にさえなればこっちのもんだ」
ジャックが答えた。
「それにおまえたちが貸してくれた武器もあるしな」
ケンがキイロから借りたサーベルを示した。
「よし、じゃあ、後は頼む」
コウジは階段に向かって駆け出した。
「逃がすかい!」
クモ型ガイチュラがコウジの背後に糸を吐いた。
それを、ブーメランのように飛んできた斧が切断した。
斧はくるくる回転しながら、ジャックの手に戻った。
「!」
驚愕するクモ型ガイチュラ。
驚いているのはジャックも同様だった。
「すごい武器だ……、これなら」
「おお、いけるぜ」
ケンも叫んだ。
「おのれ、人間め~~」
怒ったクモ型ガイチュラは、ジャックとケンに向かって糸を吐いた。
ジャックとケンは、斧とサーベルを素早く巧みに操り、それらの糸を切り裂いた。
「あいつに巣を張るスキを与えるな」
「おうよ!」
ジャックの言葉にケンも答える。
ケンのサーベルの突きが、クモ型ガイチュラの複眼を狙った。
尖った足でそれをかわすクモ型ガイチュラ。
そして、8本の足で、ジャックとケンに襲いかかってきた。
ジャックとケンは、斧とサーベルで応戦した。
ジャックもケンも武器は1つずつ。
2対8だが、ジャックもケンも善戦している。
だが、少しずつ押されてきた。
「そらそらそらそら~~、食べてやるよ~~」
クモ型ガイチュラの口が迫る。
――が。
「ううっ」
一瞬、クモ型ガイチュラは顔をしかめてひるんだ。
顔を近づけすぎ、ジャックとケンが身に付けている嫌虫花のニオイが鼻についたのだ。
「今だ!」
ケンはそのスキを見逃さなかった。
サーベルでクモ型ガイチュラの複眼の1つを貫いた。
「ぎゃあああああっ!!」
苦痛に悲鳴を上げるクモ型ガイチュラ。
ジャックとケンは左右に分かれた。
ジャックは横からクモ型ガイチュラに斧を投げた。
「ちっ」
クモ型ガイチュラは足の1本でその斧を弾き飛ばす。
「ググ、グモ……、よくもあたしの目を……。許さなぁ~~い!!」
怒りのクモ型ガイチュラは、武器を失ったジャックに向かって襲いかかってきた。
「忘れたか! こっちにもいるぜ!」
ケンがクモ型ガイチュラの背後から尻にサーベルを突き刺した。
「ぎゃっ!!」
クモ型ガイチュラが悲鳴を上げた。
後ろの足でケンを突き刺さんと、クモ型ガイチュラが蹴りを入れるが、ケンはすばやく跳びのいた。
クモ型ガイチュラの注意がケンに向いたスキに、ジャックは斧を拾い切りつけた。
「ギエエエエーー!!」
またもクモ型ガイチュラが悲鳴を上げる。
戦いのペースは、ジャックとケンにあった。
ジャックとケンが交互に切りつけ、クモ型ガイチュラの体は傷だらけになった。
「はーっ、はーっ、人間め~~」
クモ型ガイチュラが息切れしてきた。
ジャックとケンにも攻め疲れが出てきた。
なかなか、クモ型ガイチュラは倒れない。
「はあはあ、なかなか、しぶといなジャック」
「ふーー。だが、トドメを刺すまで油断はするな、ケン」
クモ型ガイチュラを挟むように立ちながら、ジャックとケンは会話した。
「あたしにトドメだってぇーー? まったく、人間の分際でいい気になるんじゃ……」
クモ型ガイチュラが何かをする気配を感じ、ジャックとケンは身構えた。
「ないよ!!」
叫ぶと、クモ型ガイチュラの無数の傷口から四方八方に無数の糸が飛び出した。
「なに?」
「まさか!?」
逃げる事もかなわず、たちまちジャックとケンはクモ型ガイチュラを中心に一瞬にしてホール内に張られたクモの巣に捕らわれてしまった。
「傷口から直接糸を出すとは……」
「おのれ、バケモノめ!!」
ジャックとケンは再び自由を奪われた。
「ぜえ、ぜえ……。全くあたしに奥の手を使わせるとは、いまいましい人間たちだよ。これをやるとあたし自身も体へのダメージが大きい。さいわい今は、風を操るアイツはいない。ゆっくりおまえらを食べてやる……」
クモ型ガイチュラは、ジャックとケンを注視した。
嫌虫花で作ったジャックの冠とケンの首飾りに気付いた。
「ふん、どうやら、その花がイヤなニオイの源らしいね……」
クモ型ガイチュラは、床に転がっている斧とサーベルに目をつけた。
「その花には、触りたくもない。おまえたちの武器を使ってその花を外してから、ゆっくりおまえらを食べるとするよ」
クモ型ガイチュラは、斧を拾おうとした。
すると――。
斧はゆっくり浮き上がった。
そして突然、クモ型ガイチュラに襲いかかってきた。
「何? なんだ!」
驚いて応戦するクモ型ガイチュラ。
何回か切っ先を交えた末、クモ型ガイチュラは斧を弾き飛ばした。
「?」
「?」
自由を奪われたまま、ジャックもケンも何が起きたか分からない。
今度はサーベルが浮き上がった。
そしてやはり、さっきの斧同様、クモ型ガイチュラに襲い掛かった。
「くっそー、一体どうなっている!?」
再び、カンカンと何度も切っ先を交え、クモ型ガイチュラはどうにかサーベルを弾き飛ばした。
「おまえたちの仕業かい……?」
クモ型ガイチュラはギロリとジャックとケンを見た。
しかし、不思議に思っているのはジャックとケンも同様だ。
今度は、斧とサーベルが同時にクモ型ガイチュラを襲ってきた。
「ち、ちくしょう~~」
ものすごい勢いで何度も切っ先を振り下ろしてくる斧とサーベルに、クモ型ガイチュラはどんどん押された。
「く、く……、でああああ」
クモ型ガイチュラは、斧とサーベルを再びどうにか弾き飛ばした。
「ぜえぜえ、おのれぇ……」
弾き飛ばされた斧は回転してブーメランのようにクモ型ガイチュラに戻ってきた。
ものすごいスピードだ。
クモ型ガイチュラは、全ての手足でどうにか斧を受け止めた。
斧は、ガイチュラの手足に受け止められながらも猛スピードで回転を続けている。
「ググ、グモオオ……」
手足がふさがったクモ型ガイチュラに向けて、サーベルが飛んできた。
「う、うわ! ま、待て……」
クモ型ガイチュアはそう言ったが、そんな言葉は無視してサーベルはクモ型ガイチュラの腹に突き刺さった。
「ぐえっ」
クモ型ガイチュラがうめく。
サーベルはそのままドリルのように高速回転を始めた。
「グ、グ、グアアアアアアーーーー!!」
そのまま、クモ型ガイチュラの体は貫かれた。
力を失ったクモ型ガイチュラの手足は回転し続けていた斧に切断され、クモ型ガイチュラの体はそのまま左右に両断された。
斧とサーベルは、宙を飛ぶと、ホール入口に立っていた人影の両手に収まった。
人影は言った。
「君たち、どこでこの武器を?」
人影の正体は――ドライバウターの長女アオイだった。