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銀色の恋人  作者: H2O
1/1

始まり

書き方が雑だったり展開がはやかったりしますがご了承くださいませ

人とそれ以外が住まうこの現代。

俗に言う妖怪が存在する。

大気に渦巻く妖力によって存在を固定する彼らは、人との生活にも馴染んでいる。


「平和だがや」


そうぼやいて空を見上げる清掃員。

4つの手は忙しなく階段の掃除をこなしている。


「昔も今も、この空は変わらんの」


手すりや踊り場まで、すべての掃除を終わらせると、手は戻っていく。


「昔は何人も死んだりしたというのに、今ではみーんななかよう暮らしとる」


カーゴを押しながら、のんびりと歩く後ろを一人の学生が階段を駆け上がる。

が、急いでいたのが災いし、1段を踏み外し、身体のバランスを後ろに崩した。


「おわっ!?」

と、その身体を支える2本の腕。


「学生さんよ、急がば回れと言うじゃろ、もう少し落ち着きなさいな」

「あ、ありがとうございます」


振り向いて礼を言う学生に、清掃員は笑いながら帽子を脱ぎ、軽く会釈して去っていく。


「あ、やべぇ!講義に遅れる!」


駆け上ろうとする前に、さっきの清掃員のことを思い出す。


「ちょっと落ち着こう。うん。でも遅れるのはまずい」


結局急ぐことにかわりはない。



講義に間に合った。教授の説明をノートにまとめる。たまに色ペンを使う。消しゴムをかける。


「あ」


落とした消しゴムを拾う。シャーペンを走らせる。

いつもの講義風景を堪能して終わる。

時間は16時過ぎ。バイトは18時からだ。あと2時間はどこかで暇を潰さなくてはならない。


「どうするかな」


いつもなら近くの喫茶店で軽く何か食べていくのだが、給料日前では持ち合わせが少ない。

かといって本屋に行ってもめぼしいものはない。


「どーしよう」


いくつか案を出してみるが、財布に相談する時点ですべてが崩れてしまう。

金がかからず、かつ時間が潰せるところといえば、


「んで、結局ここにくるのね、いつもどおりに」

「ええ、いつもどおりです。ここだと大体揃ってますし」


大学内の一室、サークル活動用の部屋だ。他にも数名の学生が何やら調べ物をしている。

カップにコーヒーを注いで、テーブルの上に置く。ついでに茶菓子として置かれていたクッキーに手を伸ばす。

ため息をつく教授を横目にクッキーを消化していく。


「あ、こら、全部食べるなよ?」

「わかってますって。んぐ、これうまい」

「あんたはここに食べ物たかりに来てるのかサークル活動しにきてるのか」

「どっちもですよ、資料まとめてきたんで」

「それを先に言え。まったく」


尻尾が不機嫌そうに揺れる。この教授も人間ではない。猫叉だ。

ネコミミが印象的すぎるので、ネコ教授と呼ばれている。


「ふむ、結局考察は考察でしかなかったか」


まとめられた資料に軽く目を通して、机の上に放る。


「あ、せっかくまとめたのにそんな乱暴にしないでくださいよー」

「結果が見えている物をそんな詳しく見る必要はないだろう?」

「そういう問題じゃないでしょうに」

「あーもうわかったよ。人間はホントうるさいなぁ」


文句を言いながら、再び資料を見直す。


同時刻、海岸付近の絶壁にて。


「どっごら、しょっと」


海からそれなりの高さがあるこの絶壁を登り切る二人。


「やっどづいたがや。ずーっと海さ泳いで渡るのはだうかったなぁ」

「んだんだ、けんどこっちさぎだらうまいもん食えるらしいかんね」

「んだっぎゃ。でんもその前に寝床さざがざんどね」

「そうすんべや」


明らかに訛りの強い口調で会話している。北部地方の妖怪のようだ。


「むごうさ人間食えねがっだぎに、たんまりぐわしてもらうべ」

「んだ、楽しみだがや」


二人は木々を飛び移りながら街の方へ向かった。


結局大学で2時間を潰すことに成功した。


「おはよーございます」

「おーう、おはよう」


バイト先であるファミレスに出る。今日はホールだ。


「これ2番テーブルに」

「ういっす」

「3番テーブル空いたよー」

「こちらへどうぞー」

「ご注文はお決まりですかー」

「お会計3280円になりまーす」


できた料理を運ぶ、注文をとる、レジを打つ。

ちょうど夕食時でピークだ、これから2時間は忙しくなるだろう。


「おーい、3番、4番テーブル上がったぞー」

「今行きますー」


人も妖怪も楽しそうに食事をしている。いつもの見慣れた光景だ

「あーあ、あとは俺にも彼女がいればなー」

「おら、ぼさっとしてる暇あったらオーダーとってきてくれよー」

「あ、はーい」


ふたたびホールの仕事をこなす。忙しいうちは何も考えなくていい。


「おまたせしましたー、こちらAセットになりまーす」


頭を切り替えて、とにかく仕事に集中する。


時刻は22時過ぎ


「このへんひと通り多ぐね?」

「んだな、ごれじゃちょっどまずいべ」


ビルの壁に張り付いている二人。妖力で手足に膜をはってくっついている。


「やんだら人っ子さいないどこじゃねっど」

「だべな、世知辛いべ」

「昔さならいづでもぐえたんだがな」

「いまじゃなんだ神罰代行人どがいうのいはっておごられるらじいしの」

「んだな、んじゃ山のほうさいってみんべか。村ならあまり騒がじくならんべさ」

「だの」


そのまま屋上に上がり、ビル伝いに移動を開始した。

そのビルの出入り口付近で彼は携帯を使っていた。


「ああ、うん。大丈夫だよ。してねぇよ留年なんて。うん、もうしばらくこっちいるから」


どうやら親からの電話らしい。


「いや、普通だよ?うん、爺ちゃんの家広いから不自由してないし。ちゃんと線香もあげてる」


夜も更けて、人通りもまばらだ。秋になって風も徐々に冷たくなっている。

寒さに身震いして、ジャンパーを羽織る。


「うん、うん。たまには帰ってきて墓参りくらいしろよ。爺ちゃんにも母さんにも顔見せてやれよ。寂しがってるぞ」


ゆっくりと歩き出し、駅ビルに入り改札を抜ける。階段を降りて、ホームで待つ


「うん、うん。わかった。じゃあ切るよ。ああうん、わかってるって。うん、んじゃ」


ちょうど電車がきた。帰宅ラッシュは過ぎているので人もまばらだ、目的の駅まで座れるだろう。

窓から見える夜景を眺めながらぼんやりとする。

何度か夢の世界に旅立ちそうになったが、気力でなんとか持ちこたえ、降りる。


「フー」


駅の近くのコンビニで煙草を調達すると、そのまま灰皿の近くで吸う。

短くなった煙草を灰皿に捨て、首に下げていたイヤホンをつけると、プレーヤーの電源をいれる

流れる音楽を聞きながら家へ向けて歩き出す。

駅から20分。少し不便だが、近場に借りるだけの金もない。仕送りもない今の現状で、家賃を差し引く必要がないのは好条件だ。

その後ろ、ちょうど駅の裏側の雑木林にいた二人。


「ごのへんいいべや、それなりに人間さいるじ、あそこにいい山あんべさ」

「だがや、なんがあぞこ妖力さ濃度だかいみだいだ」

「山ねどごにじて、この近辺で食うべよ」

「んだんだ、いくど」


身軽に木々を飛び移りながら、山のほうへ向かっていった。

その進行方向は、先程彼が家路に向かった方角だった。

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