依頼 その4
「千種、紹介するね。こちらつっくんこと燕君だよ。何でも知ってる情報屋さんだよー。」
「だからつっくん言うんじゃねえよこのタコ助。大体こんな得体の知れねえ奴俺のとこ連れてきてんじゃねえよ殺すぞ。」
「得体の知れないとは失礼な。こっちは日比野千種だよぅ。素敵で無敵な真面目ボーイさ!」
「その肩書きすら得体が知れねえっての。俺をなめてんのかてめえはいい加減にしとけよ阿保。」
「いい加減名前で呼んでくれたっていいのにー。僕が名前呼びを許すなんて、この世につっくん入れて3人しかいないんだから。光栄に思いたまえー。」
「殺すぞ、殺すだけじゃねえ殺して殺して殺すぞおい。」
すごく物騒な会話だが、お互い座って仲良く談笑って感じだからまあいいんだろう。
ちなみに俺は玄関前で正座させられている。入ろうとしたら包丁投げてきそうだったので、玄関でいいですかと質問したら投げてこなかったのでおそらくここが今俺が近寄れるベストポジションなんだろう。
多分対等的な立場になると所長のように隣で座れるんだろうな。
俺は脚の痺れを感じつつも、目の前にいる人物に視線を向ける。
無造作にはねている短い黒髪。茶色の甚平を身にまとっている。
年齢は所長と同じ位、15,6だろう。とゆうか、こちらも童顔な気がする。
顔立ちはかっこいい。むしろ、かなりの美形だ。綿貫さんといい勝負。
綿貫さんが綺麗系の人なら、こちらは可愛い系の人だ。
ただし。
ぱっと燕さんと眼が合って、ぎろりと睨まれる。
「じろじろ見てんじゃねえよ。潰すぞ。」
「・・・・・すいませ「しゃべんな。消すぞ。」
・・・・・かなり口が悪い。
あんな顔立ちからは想像できないほどの罵詈雑言だ。
正直、かなり怖いです。
「・・・で、今度はなんの用だ?」
「は、そうそうお仕事の依頼に来たんだった。いやーつっくんとしゃべってると色々忘れちゃうねー」
「はん、ついにてめえの脳みそもイカレテきやがったな。よかったなあ、おめでとう。」
「ありがとー。」
いや、そこは素直にお礼をいうところではないと思います。
と突っ込みたいところだが、如何せん俺はこの場所は発言権は無い。
所長は自分のコートのポケットに手を突っ込むと、何やら白いメモのようなものを取り出した。
「はい、これに詳しく書いてあるよー。」
「ああ。・・・・・・・。」
「よろしくねー。お礼は今度渡すからー。」
「ああ・・・・、てめえは、相変わらず訳わかんねえことに突っ込むな。」
「それはお互いさまーなのだよ。」
「ふん。これで用は済んだろ、とっとと出てけ。消えろ。」
しっしっ、と犬を追い払うようなジェスチャーで所長は立ちあがった。
俺もそれに習い立ちあがる。じーんとかなりの足の痺れが全身を伝った。
「帰ろっか、千種。これで今日の仕事は終了だから。事務所に着いたら帰っていーよ。」
「え、でも・・・・。」
「つっくんにまかせておけばだいじょーぶ。明日にはわかっちゃうよ。」
「はあ・・・。」
情報屋、から察すると猫がどこにいるかを沢山のネットワークを使って調べるのだろうか。
何がわかるのかはいまいちわからないが、とりあえず外に出た所長を追いかけようとした。
「おいそこのひのきの棒。」
ら、後ろから不名誉な名前で呼ばれ動きを止めた。
振り返ると、パソコンに向かいながらキーを打っている燕さんの姿。
そのままの姿勢で、燕さんは会話を続けた。
「せめて、木偶の棒とかの方がまだ・・・。」
「五月蠅えよ。てめえが俺に意見すんな。焼くぞ。」
「・・・・すいません・・・・。」
「ったく、あいつも変なもん連れてきやがって・・・。てめえ、あいつの事務所入って何日目だ?」
「へ?あ、4日です。」
ぴたり、と忙しなくキーボードを叩いていた燕さんの手が止まった。
え。俺なんか変なこといった?
「4日、だと。」
「はい、今日を入れて4日目です。」
「・・・・・はあーん。成程な・・・あいつがなあ、珍しい。まあなんか感じたんだろうが・・・にしたってこんなひのきの棒にね・・・。ふーん・・・。は、面白ぇ。」
「あ、のー・・・・」
「覚悟はあるか?」
まっすぐな目と視線が合う。
いつの間にこちらに向いたのだろうか、燕さんの体はパソコンではなく俺に向けられていた。
なんだろう、この質問は。
でも、俺に対して視線を合わせることもしなかった燕さんが、まっすぐに俺を見ている。
「っ覚悟は・・・・。」
「・・・・まあいい、もういい。出ていけ。」
なかなか答えが出せずにいると、諦めたのか燕さんは再びパソコンへと戻った。
何か言おうと思ったが、出ていけと言われた以上出ていくしかないのだろう。
俺も燕さんへと向けていた体をドアへと向けて、そのまま出て行った。
「お話終わった?」
外に出ると、座り込んで野良猫と戯れている所長の姿があった。(これまた似合うな)
「ええ、まあ。話といってもよくわからなかったですけど・・・。」
「そりゃそうだよ。つっくんとわかりあう人なんてこの世界に存在しないよ。」
「所長は違うんですか?」
「僕らは仲良しだよ。【分かりあう】と【仲良し】は全然違うんだから。さ、帰ろ。」
「・・・・そうですね。」
なんだか、いきなり疲れてしまった。早く帰って休みたい。
帰りも八百屋さんに送ってもらい、俺は鞄を持って事務所を後にした。
帰って風呂に入り、夕飯を食べ、すぐにベッドにダイブした。
ベッドで転がりながら、俺は今日燕さんに言われた言葉を思い出す。
『覚悟はあるか?』
「覚悟ねえ・・・・」
正直、意味がわからなかった。
思い返すと、まるで漫画やアニメのワンシーンにありそうな台詞だな。
「・・・~~~あーもう!考えるのめんどくせえ!」
こんな時は、さっさと寝るに限る!
そして俺は、複雑な気持ちのままで眠りに就いた。
翌朝。
母親が作ってくれた朝ごはんを食べながら、なんとなくテレビを見ていた。
面白いニュースやってないかなーと思いながらチャンネルを変えていた、その時だった。
『昨夜未明、◎◎町の浜辺にて女性の遺体が発見されました。遺体は曳船数実さん、24歳と見られ死因は焼死。現在警察が事件として調べています。』
それまではありきたりのニュースだった。だが、女性の写真が出た途端、思わず持っていた箸を落としてしまった。
何故ならそれは。
『猫を探してほしいんです。』
と現れた、「数入サナ」さんの写真だったからだ。