依頼 その1
この事務所に入って今日で4日目。
とりあえず今のところ大きな事件も無く、平和な日々を過ごしている。
(昨日までの3日間であった依頼は引越しの手伝い、仕入れの交渉、電球の取り換え、ペットの散歩など、雑用としか言えないような依頼ばかりだった。)
今現在、俺は昨日依頼された工藤さん(79歳)の家の家事手伝いの報告書を打ち込んでいる。
報告書といっても何をやったかとか、日付とか、そんなくらいで、学生時代によく書いていた学級日誌みたいな感じだ。
そして今日を含め4日目、俺はなんとなくだが周りの3人について少しずつ分かりだしてきた。
まず所長こと、石投命さん。女。年は秘密だそうで。(正直15歳くらいにしか見えない。)
一人称は「僕」。この事務所の所長。・・・なのだが普段は椅子に座って紅茶を飲んでるか、本を読んでるか、パソコンいじっているか、いないかだ。よくどこかに出かけている。が、どこに行ってるのかは知らない。常にファーつきのだぼだぼの男物コートを羽織り(ちなみに今は7月なのだが暑くないのだろうか)、髪はいつもぼさぼさ。たまに東条さんが整えてあげている。かなりの甘党。コーヒーに砂糖を6杯いれる。
次に副所長の綿貫隼さん。男。183センチ。25歳。
一人称は「俺」。常に燕尾服を着ている。眼鏡。顔良し、スタイル良し、頭良し、な完璧な人。
なのだが、かなりの不器用らしい。(針に糸が通せないと言っていた。)
入って2日目になぜ執事の格好をしてるんですか、と質問したら。
「嗚呼、これはアニメ『執事でごめんっ★』に出てくる煌譲というキャラクターのコスプレなんです。俺はあのアニメを見てものすごくはまってしまいましてね。しゃべり方や格好、全てを真似したんです。所長にも似合っていると言われたので、ずっとこの格好をしているんです。貴方もご覧になったことはありますか?なにせ監督があの伝説的な神アニメ『まじかる☆わわわワンダーランド☆』を手掛けた堤下監督でしてね。よろしければ私はブルーレイBOXを持っているのでお貸ししますよ?貴方も絶対にはまると思うのですが。」
と返ってきた。かなりのオタク。(ちなみに俺はその申し出を却下しました)
そして、東条一里さん。男。身長193センチ。31歳。独身。
一人称は声を聞いたことがないのでわからない。無口。常にオールバックで、サングラスをしている。
スーツ姿ばかり。超器用。綿貫さんとは正反対だ。
紅茶やコーヒーを淹れるのが得意で、料理も得意。プロ並みに旨かった。
今のところ分かっているのはこれだけだ。これだけでもかなりの個性的な人達だと思う。
なんか俺、かなり平凡なんだなと思う。むしろ平凡で良かったと、心から思った。
そんなことを考えながら、報告書の入力を終わらせた。誤字脱字がないか確認をしてから、コピーをする。
そのコピーした書類を所長の机の上に置いて、席に戻る。これで俺の仕事は一先ず片付いた。
そのタイミングを見計らったかのように、東条さんが机にコーヒーを置いてくれた。
「あ、ありがとうございます。」
「・・・・・・。」
そのまま東条さんは自分の席に戻って、自分の分のコーヒーを飲んでいた。
ちなみに、綿貫さんは自分の席でヘッドホンして音楽を聴いてて、所長は留守である。
この職場は自分の仕事が終わると、基本自由だ。何してても構わない。
(さてどうしようかなーなにするかなー。昨日の読みかけの小説でも読むかな・・・・。)
と、鞄に入っている読みかけの推理小説を取り出そうとした時だった。
「たっだいまあ!依頼人連れてきたよー!」
ばあん、とでかい音を立てて開いた扉の向こうには、元気いっぱいの所長の姿と、もう一人。
俺は取り出そうとした手を引っ込めて、その依頼人の姿を見る。
所長に手をひかれ連れられたその人は、綺麗な女性だった。
「彼女はね、数入サナちゃん。20歳。美人さんだよー。」
「し、石投さん。美人だなんてそんな・・・・!」
「だってほんとのことだもの。」
「あ、ありがとうございます・・・・・。」
所長の机の前にある椅子に座る(俺が面接のときに座っていたところと同じだ)その女性、数入サナは、確かに美人だった。
清楚な格好、清楚な雰囲気、身につけているものを見ると、おそらくお金持ちのお嬢様だろう。
20歳ということは俺よりも年下なのだが、とても落ち着いている。
とゆうか、落ち着いているというよりは、なんだか・・・・・・。
「それでー、なにかな?サナちゃんの依頼って。」
「あ、あの・・・・。」
「猫を、探し出してほしいんです。」