出会い その3
「ん?なんで俺が即採用なのかって?あっははー教えてあげるよ。」
「求人雑誌とかってさ、かなりの部数があるよね。正確に数えてはいないけど数十万部はあるのかな?まあそんなことはどうでもいいけど。」
「その数十万部の中に一冊だけ、君が見た求人誌にだけ、僕の事務所の求人を載っけたわけ。おそらく何万分、いや何十億分?の確率で、君はそれを引き当てた。」
「運がいい、てことになるのかそれとも、偶然ではないのか。」
「元々ねーうちは3人でやってるんだけど、書類まとめるの皆嫌がるんだよねー。まあ面倒くさいし、パソコンさんでかちゃかちゃ打つの。そこで、書類まとめとか、そうゆうことをやってくれる人を募集してみる?ってことになったの。」
「でもただ募集するだけなんておもしろくないでしょ?だからそうやって一冊だけにしてみたの。ああ、これは僕の数少ない友人にやってもらったんだ。なかなかすごい子でしょ。」
「とまあそんな感じで、君が来た。あの電話考えたのも僕だよー。最後まで電話を切らないでちゃんとしてくれてありがとう。あれ途中で切ってたら二度と繋がらない設定になってたんだよ。さすが真面目ぼーい!」
「以上。ご質問ありあり?なしなし?」
所長はそこまで話すと、話過ぎて喉が渇いたのか残っていた紅茶を一気に飲み干した。
俺は冷めた紅茶が入っているティーカップを見ながら、思考回路をフル回転で働かせる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・うんまとめると俺は運が良かったことになる、ってことだ。
・・・・そうとしか言えない、というか、もうよくわからない。
「・・・・では、質問いいですか。」
「どぞどぞ。」
あれ、これは普段の面接とは逆の立場な気がするのだが。
「とりあえず、ここは何の会社なんですか?」
「あ、そこなんだ。うんとねー。簡単に言ってしまえば、『何でも屋』って感じ?」
「何でも屋・・・?」
「うん、AMCっていうのはね。」
ALL MISSION COMPLETE
「・・・っていう意味なわけだよ。」
そのままだったのかよ。
「すべての、任務を、成功させよ。つまり何でも屋。つまりはAMC。つまりは便利屋。」
「いっこ増えましたけど。」
「つまりは雑用?」
「パシリってことじゃないですか!!」
「そーともいうー。でも、毎日毎日大忙しなんだよこれでも。ここは商店街の中にあるからね、常に依頼は絶えないわけですよ。」
俺は心の中で思いっきり溜息をついた。
なんでだ、大学出て就職できた先がパシリって。パシリって!
商店街の中の依頼なんて、所詮電球変えてくれ、だの野菜を運ぶのを手伝え、だのそんなくらいだろう。
そうだ、今からでも遅くない。「やっぱり辞めます」って言えばいいんだ。
もっと頑張れば、ちゃんとした会社に就職できるかもしれない。
ここまで条件のいい会社は多分ないだろうが、ハローワークなりなんなり行けば、なにかあるだろう。
そうだ、そうしよう。うんやっぱパシリは嫌だ。
「基本は土日祝休み。たまに出てって時もあるけど。お給料は依頼が月に一件も無くてもちゃあんと払うよ。30万くらいでいいよね?保険とか差し引くから20何万になるけれど。」
「ええと、あの。」
「・・・・とりあえず、言いたいことは依頼が一件終わってからでもいい?」
「はい?」
「ここは、ただの変わった事務所じゃないよ。パシリって訳じゃない。なかなかこんな体験できないから、1週間くらい仮就職してみない?勿論、その1週間分のお給料はあげるし。ね、やろうよ。」
1週間。7日。お給料、もらえる。
・・・・・前言撤回だ。
「じゃあ、お願い、します。1週間、よろしくお願いします。」
「決まりだね。」
にい、とすごく嬉しそうな顔で所長は言った。
我ながら金に目がくらんだのは情けないとは思う。
でも確かに、この事務所の面子を見るとなかなかに体験できないようなことが起こりそうだ。
まあ、いい人ばっかりっぽいし、それになにより、ちょっと面白そうだ。
「では改めて。僕は所長の石投命。尊敬の気持ちをたっぷりとこめて所長と呼び給え。」
「副所長の綿貫隼です。よろしくお願い致します。」
「こっちは東条一里ね。ちなみに副所長補佐。31歳独身よろしくね!」
「・・・・・。」
「で、君は副所長補佐の補佐。これからよろしくね、千種。」
こうして俺はこの変わった3人と一緒に働くことになった。
うん、楽しくなりそうな予感がした。
そしてその予感は当たらずとも遠からずで。
やっぱ仮就職すらもやめときゃよかったと思う日が37回くるとは思わなかった。