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出会い その2

「はい、こちらは、AMC石投事務所で、ございます。」


機械的な女性の声だった。しかも途切れ途切れになっていて音が悪い。

機械、ということは留守番電話か。ちら、と腕時計をみると午後4時。

だが今日は平日だし、まだ会社は終わる時間じゃない。

どこかに出かけているのだろうか、と考えていた時だった。



「面接を希望、される方は、1を、そうで、ない方は2を、押してください。」



・・・・・・。

思考回路が若干止まった。

この音声アナウンスは、よく宅配便が留守でメモがポストに入ってて、連絡するとこんな感じな音声だったよなあ。

ん、あれ、なんだこれは。

混乱している俺を引き戻すかの様に、もう一度同じ声が聞こえる。



「面接を希望、される方は、1を、そうで、ない方は2を、押してください。」


は、と意識を現実へと戻し、俺は恐る恐る携帯の1ボタンをゆっくり押した。

とりあえず、やってみるしかない。



「承りま、した。それでは、次に、男の方は1、を、女の方、は2を、押してください。」


1。


「承りまし、した。次に20歳以、上は1を、20、歳以下は2を押して、ください。」


1。


「承り、まし、た。次に格闘技、をやって、いた方は1を、やっていない方は2を、押してくだ、さい。」


1。ちなみに、合気道を高校・大学と部活でやっていた。(そんなに強くはないけど)


「承りまし、た。それでは、最後に。」



「やる気があるなら1を押して、ないならこのまま切りやがれ。」


突如声が変わった。

それまで機械的だったのが、急に人間味のある声に。

少女のような、少年のような、中性的な、綺麗な声。

しかし言葉遣いは酷いな、やがれて。

勿論、押すボタンは決まっている。


1。



「・・・・求人に載っている住所に明日朝10時。スーツで来てよ。んじゃ。」



ぶつ、と切れた。

・・・・・・正直色々と言いたいことがあるが、まあやめておこう。

そんなことよりも俺は、かなり浮かれていた。

好条件なこの求人、逃してなるものか!

明日の面接はいつも以上に気合を入れて臨もう。

そうと決まれば、やることは決まっている。

俺は残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干し、ゴミ箱にいれてその場を後にした。

家に帰ってやることは、新しい履歴書を書いて、面接の練習をして、スーツと靴を磨いておくこどだ。




次の日、俺は携帯のアラームで目が覚めた。

時間は朝の8時。俺の家から会社までは30分もあればいける。

顔を洗い、髪形を整え、朝ごはんをしっかり食べて、昨日準備しておいたスーツに袖を通す。

ネクタイをしっかり結び、もう一度鏡で確認。よし、身だしなみ完璧。

玄関でぴかぴかに磨いた靴を履き、後ろから「しっかりしてきなさいよ!」と母親の声を背中で受け止め、一歩踏み出した。





求人に載っていた住所は、うちの母親もよく利用する商店街の端っこの方にあるビルだった。

見かけは、まあ、すこし古い。2階建てで、1階は「テナント募集」になっていた。

横にある階段を上り、事務所のドアの前に立つ。

腕時計を見ると、9時45分。ちょうどいい時間だ。

深呼吸を繰り返し、さあ行くぞ!とドアにノックしようとした。

その時だった。



「君がうちの求人見て来てくれた子だ。」

後ろからあの電話と同じ声がした。

ノックしようとした手をひっこめ、すぐに後ろを振り向く。

そこには、


「はろーい、初めましてー。」


ひらひらと軽く手を振りながら、その少女は言った。


少女だった。


男物の黒いロングコートをはおってはいるが、その顔だちは明らかに女性だ。(しかも結構な童顔)

その外見はまだ16、7くらいの高校生に見える。

長く黒いぼさぼさの髪が風になびいているのを、その少女はうっとうしそうにしていた。

しかし、今は7月だ。この子の着ているロングコートは冬物だし、おまけにファーまでついてる。

しかも袖はぶかぶかで全体的にコートに着られている感じだ。

・・・・と、そこで視線は足元の方へと動いた。

素足だ。生足だった。コートから見えるは白く細長い生足。しかも裸足。

まさかとは思うが、そのコートの下は・・・・。


「ああ、中はキャミと短パンはいてるよ。がっかりした?」


俺の考えが読めたのか、心の声が漏れたのか、少女は俺の疑問にすぐに答えてくれた。

そうか、よかった着ていたか・・・・。がっかりというよりは、安心した。

さらに、俺にはもう一つ疑問が残る。


この少女は何だ?

会社の人にしては若すぎるし、娘さんってところなのか?



「それよりも、初めましてって言ったんだから、はじめましてしてよね。」


ぶう、とほっぺたを膨らませながら少女はそう言った。

おっといかんいかん。どちらにしろ少女はこの会社に関係があるんだ。

こんなところで失態なんて見せられない!

・・・しかしこの拗ねた表情は明らかに子供にしか見えない。



「失礼しました!初めまして、本日御社に面接を受けに参りました、日比野千種と申します。よろしくお願い致します!」


60度、頭を下げた。多分今まで受けた面接で一番いい挨拶ができたと思う。

しばらくして顔をあげると、視界に入ったのはぽかんとしている少女の顔だった。



「ふあー真面目だねえ。うん、すごいよ君。真面目ボーイだ。」

「・・・あ、ありがとうございます?」

「ま、とりあえず事務所入ろうよ。他の皆にも紹介するし。」

「はい!って、他の皆・・・・?」



それはやはり社長とか会社の人なのだろうか。

やっぱりこの少女は社長の娘さんか。


すると少女はドアを開けようと俺の前に立っていたのだが。

振り返り、にこりと天使のような笑顔で笑いながらこう言った。



「AMC石投事務所所長、石投命しゃくなげめい、だよー。いっちばん偉い人ー。」




多分その時俺の時間は少し止まっていたような気がした。



あれ、これ、夢か?




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