捜査 その6
気を失った男を跨いで、隼さんはこちらへ歩いてきた。
周りの男たちはいきなりのことにしばらく口を開けたままその場に立ち尽くしていた。
隼さんは俺たちの元へ来ると、燕尾服の下に閉まってあったナイフを取り出し、ロープに縛られていた俺たちを解放してくれた。
「遅くなりました。申し訳ございません。」
「いやーそんなことないよ。んふふーありがと!」
「それにしても、隼さんなんでこの場所がわかったんですか?」
「つっくん、いえ、燕さんのおかげですよ。」
「燕さん?」
「ええ。所長の携帯没収されていたでしょう?実は所長の携帯には特殊な機能が付いておりまして、電源が落ちると燕さんの元へ連絡が届くようになっているんです。」
「僕は携帯オフにすることは絶対ないからね。電源が落ちた時は僕に何かがあった時って決まってるんだよ。」
「それで俺たちのところへ知らせてくれたわけです。GPS機能もついてるので、場所もすぐに特定できました。なにはともあれ、無事で何よりです。」
「へー・・・・。」
しかし携帯って電源が落ちると殆ど機能しなくなるんじゃないのか・・・?
と思ったが、その「特殊な機能」とやらがきっとすごい機能なんだろうな、うん。
俺は自由になった手足を伸ばす。ずっと縛られていたから、伸ばすとすごく気持ちよかった。
「・・・っおい!!てめえなんだ、どっからきやがった!!!?」
やっと目が覚めた男たちは、一斉に武器をこちらに向けた。
拳銃男は気を失っているが、まだ4人。各々が武器を持っている。まだ危険なのには変わりない。
「どこからとは?入口は一つしかありませんが。」
「あそこには俺の部下がいた!!あいつらはどうした!!」
「・・・・さあ。ご自分の目で確かめてみてはいかがですか?」
「・・・・・っ!!!」
「さて。所長、千種さん。曳舟沃実は今港にいってるそうです。」
「港?」
「ええ、ここから車で20分程度の所に。探し物はそこにあるみたいですよ。ここは俺が引き受けますので、そちらへ向かってください。」
「え、でも隼さん・・・・!」
「大丈夫ですよ。これくらいは、慣れておりますので。」
慣れている、ってこの状況に慣れとかあるのだろうか。
だけどさっき隼さんは一瞬で拳銃男を倒した。おそらくかなり強いはずだ。
けど、この人数を1人はけっこうきついと思う。
「俺も「千種、行くよ。」
俺も残ります、と言おうとしたら、所長に手をつかまれ、そのまま所長は引っ張って歩き出した。
突然の事に俺は付いていくことしかできなかった。
「でも、」
「大丈夫。隼のこと信じてよ。さっき僕を信じたように、あの子も信じてよ。」
「・・・・・。」
不思議だ。この人の言葉は、いつも心が落ち着く。
この人が言っている言葉に、嘘は無い。
「わかり、ました。」
「うん。じゃあ、いってくるね隼。」
「はい。」
「それと。死んじゃだめだよ。ちゃんと僕のところに帰ってきてね。」
「・・・ええ、勿論。俺の帰るべき場所は、あそこしかありませんから。・・・では、二人を通して下さいますね?」
隼さんがそういうと、男たちはすぐに道をあけた。微かに武器を持っている手が震えている。
恐怖を感じているんだ、隼さんに。
俺にはよくわからないけれど、さっきまで俺たちと話していた隼さんの空気が変わった気がする。
「さ、行くよ千種」
「はい!」
俺と所長は男たちの間を抜けて、上へ目指した。
階段を何度も登ると、倒れた男たちの姿があった。
傍には扉。さっき話していた通り、ここが一つしかない出入り口なんだろう。
開けると、目の前には一台の車。運転席には、一里さんの姿があった。
「一里さん!」
「千種、急ぐよ。車乗って!」
俺たちが車に乗り込むと、一里さんは車を発進させた。
「沃実ちゃんたちはまだ探している最中?」
「・・・・・。」
「そっか、わかった。さて、ではいきますか。最終決戦に。」
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「・・・・もうそろそろ港に到着するころですね。」
命と千種がここを出てから既に15分が経っていた。隼は持っていた懐中時計を懐に閉まう。
「では、俺ももう少ししたら向かうとしますか。ねえ。」
足元には男たちが転がっていた。さらに包丁は折れ、ナイフは曲がり、バットは砕かれ、ナックルは粉々だった。
3人が息をしていない中でただ一人、リーダー格の男だけは苦しそうに息をしていた。
「・・お、まえは・・・いったい・・・!?」
「・・・唯の執事で、唯の副所長ですよ。少しだけ腕っ節の強い、ね。さてと、貴方から聞き出せる事は全て聞き出せましたし、ここらで死んでおきましょうか?」
「!ま、、て・・・・!」
「俺はね、普段はあまりここまでしないんですよ。」
「・・・?」
「けれど、お前らは俺に対して一番やってはいけない事をした。俺はそれが許せない。そんな奴ら生きる価値もない。」
男はいきなりの隼の変貌に驚いた。先ほどまでとは違う、恐怖が増している。
「だから、死ねよ。」
男は死ぬ間際見たのは、
「では、向かいますか。ああ、所長に携帯を渡すのを忘れてた。」
「まあいいか、すぐに会えるし」と呟き隼は外へ出て、タクシーを拾った。行き先を告げると、タクシーは動き出した。
倉庫には、14人の死体だけが残っていた。