捜査 その5
そう、俺たちは今現在捕まっている。
首を叩かれて気を失って(本当にこんなことできるんだな、ドラマとか以外で。)、気がついたときには所長と背中合わせに椅子に座っており体はロープで縛られていた。
所長は俺よりも早く目覚めていたらしく、起きて目があった瞬間「おそよう」と言われてしまった。
最初は俺もあせっていたが、あまりにも落ち着きまくっている所長を見て、なんとか冷静さを取り戻した。
「・・・・だーいせーかーい!ぴーんぽーん!」
「すごく嬉しくない大正解ですね・・・・・。」
「ふううむ。しっかしどこだろうねえここ。僕も寝てたからどこに運ばれたかよくわかんないよ。」
「そうですか・・・・。」
俺は辺りを見回してみた。狭くうす暗い部屋で、ドアは頑丈そうなのが一つだけ。窓は無い。物が乱雑に置かれている。
おまけにけっこう埃臭い。よく見ると、倉庫のような部屋だった。
「うーん・・・・地下のようだね。けどそんな深くは無い。B2Fくらいって感じ?」
「え、わかるんですか?」
「声の反響具合でね。だからあれだけお話してたんじゃん。」
あれだけよくわからない話をしていたのは、場所を確認するためだったのか。
ぼーっとしているようで、所長は色々考えていたらしい。すごいな。
「けど、しょちょ「し、静かにー。誰か来る。」
俺は黙って耳を澄ました。上の方からかつんかつん、と靴が鳴る音が聞こえた。
色々な音がどんどんこっちに近づいてくる。上から聞こえたということは、やっぱり所長が言った通り。ここは地下だ。
足音が扉の前で止まった。鍵を開ける音が、部屋に響き渡った。
重たい扉が開けられる。そこにいたのは、5人の屈強そうな男たちだった。
「・・・・あれ?沃実ちゃんは?」
「曳舟さんはもう猫を捕まえに行ったぜ。」
「!見つけたのか!?」
「ああ、あんた等が呑気に寝ている時になぁ。」
午後5時半頃だった。俺たちが捕まったのは。あれからどれだけ経った?
俺は男が付けている腕時計を盗み見る。午後7時13分。既に約2時間が経っていた。
「【猫】はどうしたんだい?姿が見えないけれど。」
「ああ?奴ならとっくに報酬もって帰ったよ。全く便利な奴だよな、殺し屋ってのは。金さえ払えば何でも引き受ける。」
「それ君たちにも言える事でしょ。」
「俺等は殺し屋じゃなくてここの組員だからな。金があってもなくても何でもやるんだよ。」
「大して変わらないと思うけどね。それで?僕らはどうなっちゃうわけ?」
「決まってるだろ?」
5人の男たちがそれぞれ懐から何かを取りだした。
・・・まあ、それは、当たり前のものなわけで。包丁、ナイフ、拳銃、バット、ナックル。
ってバットを懐からどう出した。
「殺すぜ。ああ、お前の方は高く売れそうだからちょっと傷つけるだけにするぜ。男は殺す。」
「だ、男女差別反対!」
「ああ!?黙ってろ男!」
「え、男って売れないもんなんすか所長。」
「物好きはいるけど難しいよー。内臓売りさばいた方が売れるよね。」
「おお、女の方はよくわかってんじゃねえか。」
そんな情報は知りたくもなかった。
しかし段々冷静さが無くなってきた。このままいくと俺は確実に殺される。そして俺の内臓は売りつくされる。
ちらりと所長を見ると、目が合った。そのままにこっと笑って、俺の手を握る。
「落ち着きたまえよ千種。そんで安心してよ。」
「いや、この状況でどうやって・・・・・?」
「僕を信じなよ。君の上司であるAMC石投事務所所長の僕、石投命を信じなよ。」
何故だろう、その言葉にばくばくしていた心臓が落ち着きを取り戻した。
自分よりも年下で、小さくて、尚且つ女の子に諭されるとは我ながら情けないと思う。
けれど、不思議と恐怖は消えた。
この人なら、所長なら、何とかしてくれると、そう思った。
「ねえ、おじさん達。クイズです。」
「ああ?」
「人はね、今みたいな状況になったりすると急におしゃべりしだすんだ。なんでだと思う?」
「はあ?んなもん知るかよ。」
「答えは三つ。一つは恐怖のあまり。二つは声を反響させて場所を特定する事。それともう一つ。」
「う」と小さな唸り声をあげて拳銃をもっていた男が突然倒れた。後ろには、一つの影。
周りの男たちは咄嗟の事に反応できない。俺も、状況を理解するのに少し時間がかかった。
その人は、拳銃をもっていた男の手から拳銃を奪い取り、それを燕尾服の下にしまった。
ああ、そういうことか。
成程、安心した。所長が今までやっていた事は単なる・・・。
「助けが来るまで君らをひきつける時間稼ぎなのさ。待ってたよ、隼。」
そう、時間稼ぎ。
見知った燕尾服。整った顔立ち。いつもと同じ隼さんの顔だった。
「御待たせ致しました、我が主。さて、俺の大事な人達を殺そうなんていい度胸ですね。力の加減は、致しませんよ?」