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捜査 その3

「さ、いこっか。」


俺の目の前に現れたのは、至って普通の格好をした所長の姿だった。

白の半そでパーカーをはおり、中には白黒のボーダーキャミ。黒のショートパンツに黒のオーバーニソックス。そして足元はスニーカー。


「とと、そうだ。一里、髪やってー。」

「・・・・。」


それにさらに一里さんがぼさぼさの所長の髪を綺麗に纏めてくれた。ポニーテールだ。

俺はてっきり執事の格好をした隼さんがやるのだと思っていたが。(とゆうか、見た目からしてそれっぽいのに)

そういえば前に聞いたことがあった。隼さんはかなり不器用で、一里さんがかなり器用らしい。

そりゃあ、あんなおいしい紅茶淹れてくれるんだもんな・・・。そりゃ器用だよ。

一方俺はというと、簡単なTシャツとデニム。

さっきまでスーツだったのだが、「それじゃ僕と並んでて目立つよ。」という所長の意見から、隼さんに貸してもらったものだ。

サイズはかなりあっていないが(袖も丈も長すぎる・・・・。)、なんとか調整してとりあえずは着れた。


「あの所長。」

「何だい千種?」

「今度はコート着ていかないんですか?」

「何で暑いのにコート着なきゃいけないの。意味分かんないでしょ。」

「・・・・・・。」


え、いやでも貴方この間燕さんのところにはコート着て行きましたよね?

まあ前はその質問はスルーされたけどな・・・。


「よっし完了。さ、行くよ千種。準備は良い?」

「あ、はい!」

「お気をつけて、いってらっしゃいませ。良い報告をお待ちしております。」

「・・・・。」



そして、俺と所長は事務所を出発した。



****************************



「さっき貰ったメールによると、このあたりによく野良猫さんが集まるらしいんだよね。」

「へえー・・・。」


最初に向かった先は事務所から15分ほど離れた森林公園だった。

時間は、まだ3時。学校が終わったのだろう、子供たちが遊具で遊んだりしていた。

話によると、餌をくれるおばあさんがいて、大体この時間にここにくるらしい。

そのおばあさんが餌をくれるポイントまで向かうと、情報通りだ。ベンチに腰掛けて、群がっている猫たちに餌をあげているおばあさんの姿があった。

早速近づいて、お目当ての黒猫を探す。だが、黒猫はいなかった。


「あの、すいません。ちょっといいですか?」

「んん?ああ、どうしました?」

「おばあさんて、いつも猫たちに餌をあげているんですよね?その中に、黒い猫っています?」

「黒い猫・・・んー、どうだったかねえ・・・。私は目が遠いから、あまりよくは見れていないけど・・・。でも、いなかったと思うよ、黒い猫なんて。」

「そうですか・・・。」

「・・・ああ、そうだ。ここからすぐに魚屋があるんだけど、そこによく黒い猫がくるって聞いたことがあるよ。」

「!本当ですか!所長!」

「こっちのメールにも入ったよ。善は急げ、行こうか。」

「はい!」


情報を提供してくれたおばあさんにお礼を言って、俺達はその魚屋を目指した。

歩いてる途中、所長の携帯には続々と情報が入ってくるようで、何度も何度も着信音が流れた。


「今回も、燕さんの情報なんですか?」

「ん?んーん、今回は違うよ。つっくんも一応はくれるけど、猫情報じゃないし。」

「じゃあ、誰が・・・・?」

「動物と会話できる人。」

「・・・・・・・・・。」


うん、まあこれまで様々な人がいたから別に不思議ではないんだろうけど・・・。

動物と会話は、さすがに無理だろう。



「あー信じてないでしょ?嘘じゃないんだよー。ほんとに話せるんだから。」

「はあ・・・。」

「まあ、近いうちに会うことになるから、その時に紹介してあげる。良い子だよ。」


所長のいう「良い子」に若干の不安を覚えながら、俺達は魚屋へと着いた。


丁度買い物の時間らしく、辺りには主婦たちがごった返していた。

所長は猫を探すため、辺りをうろうろし始めた。俺は、魚屋の主人に話を聞くことにした。


「あの、すんません。このあたりで、黒猫みませんでした?」

「いらっしゃ・・・・黒猫ぉ?ああ、クロのことか?母ちゃーん!今日クロの奴きたかー!!?」

「きてないよー!」

「・・だそうだ。ありゃ?もう来てもいい時間なんだがな・・・・。」

「そのクロって、首に緑色の石か何かつけてませんか?」

「石?いや、昨日も来たけど、そんなもんつけちゃいなかったぜ。なんだ、あんたクロの飼い主か?」

「あ、いや、違うんですけど・・・・ちょっと探してて・・・。ありがとうございました!」

「あいよ!」


その場を後にすると、丁度所長も探すのをやめて戻ってきていた。


「違うみたいです。」

「この辺にもいないよ。ふむー困ったねえ。大体猫って自分のいる場所からそこまで離れないものだけど・・・・・。」

「もう大蔵組に捕まってるとか?」

「それはないね。ほら、見てご覧よ。」


所長の指さす先を見ると、そこにいたのは小さな商店街には不釣り合いのスーツに身を包んだガラの悪い男たちの姿だった。

俺と所長は物陰に隠れて観察した。男たちはゴミ箱をあさったり、狭い隙間に体を突っ込んだりと、俺達と似たようなことをしている。

つまりだ。


「まだあいつらも探してるんですね。」

「そゆこと。ここにいたら面倒だね。ちょっと離れようか。」




*******************



結局俺達は何の手がかりもないまま、再び森林公園へと戻ってきた。

時間は午後5時半。遊んでいた子供たちの姿も無く、まばらに人がいるくらいだった。

俺と所長はベンチに座り込み、一旦休憩することにした。



「むむー・・・メール来ない。てことは手間取ってるんだなあ・・・・。」

「これからどうしましょう?またこの辺り探してみます?」

「いや、今からはちょっと危ないかも。人気が少なくなってくると大蔵組はもっと人数増やして探すだろうからね。見つかると面倒だし、今日はここまでにしようか。」

「そうですか・・・・。」


出来れば、あいつらよりも先に探しだしたい。

あの氷のような、曳船沃実と出会って、思った。

あの人に渡してはいけない、とすぐに、俺は思ったのだ。

直感なのかよくわからないけれど、けど何か俺の中で「そいつに渡すな」という考えが、浮かんだのだ。

危険なのは重々わかってる。けど俺は、まだ探したい気持ちでいっぱいだった。


そんな俺の気持ちを察したのか、所長は俺の頭に手を置いて、撫でた。


「千種の気持ちはありがたいけど、無理はダメ。大体まだこっちにきてそんな経ってないでしょ。まだこんな危険な目には合わせらんないよ。」

「所長・・・。」

「だーいじょーぶ。僕らには最高の情報屋がついてるし、隼も一里もいる。味方だって色々いるんだから。ね?」


年下の少女に頭撫でられている年上の青年。周りから見たら、不思議な光景だろう。

でも俺には、笑って、優しく頭を撫でてくれるこの人がすごく安心できて、頼りになって、心が落ち着いた。



「そう、ですね。」

「じゃあ、帰ろうか。・・・・・・・・っ!」


ベンチから立ち上がった途端、所長の顔は笑顔ではなく、険しい顔つきになった。

俺は辺りを見回す。気づけば、誰もいなかった。だが、その静けさが、何やら嫌な予感がした。


「所長・・・・。」

「あらら。囲まれちゃってるや。いやー、僕の勘もだいぶにぶくなっちゃったねえ。いやだいやだ。さて・・・出ておいでよ。こっちは丸腰で、特に君たちに逆らうつもりもないからさ。」


そう所長が言った途端、辺りの木の陰から、スーツに身を包んだ男たちが何人も現れた。

見覚えがある奴らがいる。さっきまで魚屋の傍にいた奴らだ。

8人もいた。俺達は囲まれるように、男たちに追い詰められた。


「大蔵組・・・・。」

「そ。あれれー猫探しはいいの?猫捕まえるんじゃなくて僕ら捕まえてどうすんの?」

「沃実サンの命令だかんな。」


男たちの間から、全く違う雰囲気を纏った人が出てきた。


「よう、石投サン。おひさー。」

「・・・・・君なのかよ。うっわー、君なんだ、【ねこ】」


【猫】、とその人のことを所長はそう呼んだ。

黒のタンクトップに黒のダメージジーンズ。黒のブーツに、腰には真っ赤なスカーフが巻かれていた。

パーマがかってふわふわとしている黒髪には、所々赤のメッシュが入っており、首には赤の首輪。

顔は美形の部類に入る。目の色は、血のように赤かった。



「なに、お前勘にぶったん?俺っちが近づいてもあんまり気づいてなかったみたいだし。あっはっは、がっかりだにゃん。」

「取ってつけたようににゃんとか言わなくていいよ。気持ち悪いから。全世界の猫に謝ってよ馬鹿ー。」

「相も変わらずだねえー。さっきまでその少年には笑顔だった癖に、俺っちにたいしては冷たいよね。俺っちは結構お前の事気に入ってんのに。」

「はあー・・・まさか沃実ちゃんがこんなの雇ってたなんて。いっこ計算が狂ったよ。全くもう。」

「え、シカト?シカトですか?まさかのまさかのシカト?それ結構俺っち傷つくよ?」


普通の様に会話を繰り広げている二人だが、空気はかなり重たい。

【猫】と呼ばれている人物は、話によるとどうやら曳船沃実に雇われた「殺し屋」だった。

俺の中での殺し屋のイメージって某13の人くらいなんだが。実際は結構違った。

だが、感じる。【猫】からは、曳船沃実と同じ空気だ出ていた。

じっと観察していると、所長を見ていた【猫】と思わず目が合ってしまった。


「少年は初めましてだよね?俺っち【猫】。唯の流離いの殺し屋さっ。今後ともよろしくね。」

「はあ・・・・。」

「ふーん、いいねその反応。石投サンが気に入るだけあるよ。にゃはははははん。では早速。」



「とりあえず気絶しといてにゃん。」




何が起こったかわからなかった。

唯気がついたときには離れていた【猫】の姿がいつの間にか俺の近くにいて。

首を叩かれたと思った時には、既に地面に崩れていた。

俺の視界に地面と沢山の足が移った。




そして俺は、意識を手放した。



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