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捜査 その1

「存在しない?」


所長の言っている意味が俺には理解できなかった。

存在しない、ということは俺達が今まで話してきたあの人は、幽霊のような存在ということになる。

それはありえないだろう。俺はちゃんとあの人と会話したし、俺以外の3人もあの人の事は見えていた。


「そ、存在しないんだよ。数入サナはね。つっくんに調べておいて貰って正解だったよ。なんとなく、嫌な予感がしてたもんだから。」

「調べておいてって・・・・・所長は、初めからわかっていたんですか?あの人が、その・・・。」

「僕の嫌な予感は当たるんだよ。嫌な特技だよね、全く。うん、わかってた。だから依頼を受けてすぐ、僕はつっくんにお願いしたんだよ。数入サナについて、色々ね。」


色々、と何かが含まれているような、そんな言い方だった。

おそらく何かやばいことなのだろう。

それもそうだ、この事件は、何かが絡んでいる、そんな感じがした。


「それで、何が判ったのでしょうか?」

「まず一つ。この地球上に数入サナは存在しない。そんな名前の人は、何処にもいないってよ。つまりは、偽名ってこと。」

「だから、ニュースであの名前が流れたのか・・・・。」

「正解だよ、千種。あの人が教えたのは全部嘘。名前も、経歴も、全てが嘘だ。白亜大学のデータベースにハックしてもそんな生徒は一人もいなかったって。これが本当の彼女の正体だよ。」


そう言って所長は全員に数入サナの写真が入った一枚の紙、つまり、本当の彼女を見せてくれた。



曳船数実 24歳 家族:姉1人 両親は行方不明

職業:大蔵株式会社社員 6年勤務


現在アパートで姉と二人で暮らしており、姉も同じ会社に勤務。

近所の評判は「優しい」「綺麗で素直」など外面は良い。



「大蔵株式会社・・・・成程。そういう事でしたか。納得です。全てが繋がりますね。」

「ふふ、隼はさすが、理解が早いねー。一里ももうわかるでしょ?」

「・・・・・」


隼さんと一里さんはこの一枚ですぐに納得がいったのか、満足そうな顔を浮かべている。

俺はというと、全く付いていけない。当たり前だ、俺はこちらに入ったのはたった数分前だ。

唯一判るのは、多分この一枚は燕さんが作ったんだろう。

外面「は」良い、なんて皮肉、彼しか思い浮かばない。


「千種さん。よろしければ、俺が説明致します。まだまだ所長みたいに上手くはないですが。」

「あ、はい。お願いします。」


所長の説明はあまり上手ではないとは思いますが。という突っ込みを俺は一生懸命抑え、所長の方から隼さんの方へと向き直った。


「この大蔵株式会社、とは俗に言うヤクザの会社です。」

「・・・・・・やくざ。」

「ええ。簡潔に言ってしまえばそういうことになりますね。表向きは金貸し、裏では人や宝石、内臓などを売りさばいている典型的なタイプのヤクザですね。」

「あー・・・なんとなく予想はしてたんですが・・・・ってゆうか典型的なんですか、それ・・・。」

「それ以外ですと例えば・・・・・「説明しなくていいです!」


俺は確かに裏の世界には憧れているが、そんなヤクザの種類を覚える気はない。

典型的とか、そんなものがこちらにまであると思わなかった。

そして少しわかった。曳船数実は、そこの社員であり、れっきとしたこちら側の人間だったんだ。


「お判りいただけましたか?つまり、彼女は姉妹共にその会社に勤めていました。それにこの名字、見たことがあると思ったら姉の方は有名な方ですよ。」

「有名って、こっちの世界で有名って・・・・。」

曳船沃実ひきふねいるみ、武器の密輸入のお仕事を担当されているらしいですね。貿易リストに、よく載っています。他の方からの信頼も厚いみたいですよ。」


ふと思った。隼さんは何故ここまでヤクザの世界に詳しいのだろう。

所長や一里さんも知っている事だったら、まだよかった。だが俺の隣で「へーそうだったんだーすごいね隼!」と目を輝かせている所長を見ると、怖くなってきた。

実はこの人も、結構危ない人なのではないだろうか・・・・・。


「だけど、曳船数実は突然会社から姿を消したそうだよ。」


危ない思考になっていた所に、所長の声で現実に引き戻された。


「そしてその時に、人間3人と交換した推定10億円もするエメラルドを持ってっちゃったんだって。」

「じゅ・・・・!?」


10億円、そんな大金見たことあるわけがない。

0が9個並ぶ、宝くじ一等の3倍・・・・凄すぎる。

その前にでてきた「人間3人と交換した」は俺は聞かなかったことにした。


「ですが、何故彼女はそれを持って逃走したのでしょうね。換金してしまえばすぐにバレテしまうようなものを、どうして・・・・。」

「多分、取引相手がいたんじゃないかなあ?それをもっとすごいことに交換してくれるようなさ。それを売って海外にでも逃げようとしたんじゃない?」

「けれど、努力虚しく彼女は殺害されてしまったんですね。」

「うん。でも、まだ宝石は見つかっていないそうだよ。つっくん情報によると、今社員全員が血眼になって探しているんだって。さて、意識が飛んでるところを悪いけど。千種、質問たーいむ!」

「はえ!?」


どうやら俺はまた意識が飛んでいたらしい。またもや所長の声で現実に引き戻された。

ついさっきまで、俺の頭の中ではお金に羽がついて空を飛んでいる図があったのだが。


「その宝石、誰が持っていると思う?」

「へ?だって、彼女は亡くなって、それで・・・・・・ああ!」


にやり、と所長は笑った。隼さんもにこりと笑っている。


「猫、ですね。」

「そう。どうやら猫ちゃんはまだ見つかっていないみたいだからねー。でもその猫は単なる野良猫なんだよね。曳船数実が逃走中に適当に選んだ猫みたいだし。それに首輪を買って、宝石を上手い事つけたみたい。」

「野良猫って・・・・そんな見つからないんですね。だって、社員の人全員で探していたら、絶対見つかりません?」

「だって社員は猫につけてるだなんて知らないんだもの。猫についてるってことを知っているのは、僕ら4人だけさ。」

「・・・もうひとつ。どうして、曳船数実は、ここに猫探しの依頼をしたんですか?」

「んーこれは勝手な推測だろうけど。」




「僕らの事、殺したいんじゃない?」

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