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出会い その1

もう後がない。

これで一体何社目だ、と俺は静かに溜息をついた。



日比野千種ひびのちくさ22歳。T大の文学部に通う極普通の男。

現在就職活動中である。


いよいよ大学4年生となったこの春、1番にする事は仕事探しだった。

夢がない、と言われればその通りだ。俺自身もそう思っている。

だが実際に4年生なんて単位さえ取っておけば特別にする授業なんてない。まあ、頭がいい学部は別だが俺の通ってるのは文学科という、あまり勉強しなくていいところ。

卒業後の進路を探す以外、やることはないのだ。


そして「さあ将来の勤め先でも探しますか」と意気込んだまでは良かった。

しかし、遅かったのだ。

元々大学に行くのに大した目的もなかったし、てきとーに勉強して、いいところに就職できればそれで人生万々歳だろーとか考えていた。


しかし、現実は甘くない。


俺がぼーっと単位を取るためだけに授業を受けている3年生の時に、ほとんどの人が就職活動をはじめていた。

そうなると、4年生から就職活動している俺はなかなかにあぶれるわけで。

就職氷河期時代と言われている昨今、適当な気持ちで面接を受けている俺が当然受かることもなく。

友人にも実際に就職が決まったやつなど指で数えるほどしかいない。

そこでようやく俺はこの状況はかなりまずいと、理解したのだった。


「えーと・・・・これで17社アウト、か。」


7月、うだるような暑さに耐えきれず、近くのファーストフード店に逃げ込んだ。

アイスコーヒーを注文し、笑顔で渡してくれたおばちゃんにお礼をいって一人掛けソファに座りこんだ。

からからに乾いた喉におもいきりアイスコーヒーを流し込む。うん、うまい。

そして鞄から求人票や、アルバイト雑誌を取り出して目を通す。


17社。俺が落ちた会社の数だ。

これでもまだ少ない方だと友人は言う。

確かにテレビとかで100社受けましたーとか言ってるOLさんとかいるしな。

しかし、17社でもやはり心にずしんと重いものがある。

特に目立った特技や資格もないので、ひとまず事務か営業の仕事を探しているわけだが。

当然そんな奴が採用な訳ない。受かるのは資格かスキルがすごい奴だけだ。

大体俺はどうして文学科なんて選んでしまったんだろう。経済学部とかいっときゃよかった。

そうすれば簿記とかワープロとか社会人として役に立つ資格が手に入ったのに。

今現在俺の持っている資格は漢字検定準2級のみである。うん、役に立たない。

けどここまで不採用不採用言われるのは、正直かなりへこむ。



・・・・・・まるでお前はこの世界に必要ないって、言われているみたいだ。



「・・・・なんて、かっこつけてみたり。」

そりゃあ当たり前だ。履歴書の資格欄に何も書けない俺の方がおかしいのだ。

こんなとき思う、必死に資格とっときゃよかったなあと。


・・・と、いまさら悩んでもしょうがない。次に受ける会社を探そう。

ぱらぱらぱらぱら3冊目の求人誌をめくっていくと、とある求人に目が止まった。


「ん?正社員、給料30万以上、未経験可、資格不可・・・ってマジか!?」


アルバイト情報誌にもたまにだが正社員の情報が載っている。

が、ほとんどは資格(いわばワープロであったり、秘書であったりする)を必要としていたり、俺にできないような仕事ばかりだった。

未経験可、資格不可という言葉が、どれだけ嬉しいか!だってそれはどんな素人でも大丈夫ですって意味だろ!社会未経験者の自分にとって物凄く喜ばしい事だ。

早速その求人の情報を読んだ。



正社員:事務

月給30万円程。未経験者可、資格不可、学歴不可。

時間:9:00~18:00 休憩あり

休日:週休2日制 大型連休あり、有給あり。

応募:気軽にお電話下さい。→040ー****ー****

一言:やる気ある人歓迎、強い人歓迎。


AMC石投事務所えーえむしーしゃくなげじむしょ



「・・・・・・・。」

読んで驚いた。なんだこの好条件のいい会社は。

一言の「強い人」にはなんだかひっかかるが、まあよしとしよう。

とにかく行動、善は急げだ。スーツの胸ポケットから携帯を取り出した。

求人に載っている電話番号を押し、一呼吸してから通話ボタンを押した。


心臓が激しく音を立てている。なんだかいつも以上に緊張する。

唯一つ心配なのは、他の誰かが既に電話をしていることだ。

先に電話して、そっちが採用されていたりでもしたら俺は何の意味もなくなる。

頼む、あんまり願ったことない神様、本当に頼みます。


しばらく呼び出し音がなっていたが、俺の祈りが通じたのか。

がちゃ、っと出る音がした。


「っもしもし!」


「はい、こちらは、AMC石投事務所で、ございます。」




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