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  エレーンとマティアスが王宮の大広間に入った途端、辺りはしん、と静まり返った。


 貴族達の視線は二人だけに向けられ、一瞬の沈黙の後はざわめきが広がった。


 エレーンの顔を知っている貴族達は少ない。


 この国の社交界デビューの歳は16歳だが、その時エレーンは母親の療養も兼ね、兄だけを自国に残して父親の赴任先の他国にいたからだ。


 しかも帰国して母の喪が開けても、余程の事がなければ社交界に顔を出さなかった為、周りから全く認知されなかった。


 誰も彼女の正体が分からずに次々と推測が飛び出した。

 マティアスの遠い遠い親戚?

 それとも新しい恋人?


 ついには賭けまで出る始末だった。


 訳が分からずにいる貴族達。


 彼女もその一人。


 ヘレーネ・リリア・ベルト。


 銀色の髪に紫色の瞳、すっと通った鼻筋、眉は目と絶妙のバランスで位置している。長身で細身のスタイルに、豪華な白絹のドレスが似合っている。彼女は同性にも異性にも賛美の的だった。


 そして今夜は王太子の一曲目の相手を務めることになっていた。


 そんな時に突然、皆の注目を見知らぬ娘に奪われ、ヘレーネは悔しさに綺麗な顔を歪ませた。


 それも自分以上に綺麗な女性ならいいが、どう見ても謎の女はそうは見えない。


 そんな女がマティアス様にエスコートされて舞踏会に来るなんて、とヘレーネは憤慨した。


 彼女は未だにマティアスからエスコートやダンスの誘いを受けたことがなかった。自分の容姿には充分自信があったから、彼女はいつもそれを不思議に思っていた。


 宮廷でトップクラスの美男子マティアスの隣にいれば、さらに皆の注目の的になれる……と期待しているが、その機会は未だ訪れていない。


 その事を彼女はマティアスの好みのせいにした。


 彼の好みは年上。まだ20歳の彼女は彼の好みの対象じゃないだけだ、と。


 それがどうだろう。見知らぬ女は明らかにマティアスよりも年下。


 彼女はマティアスの親戚説に同調した。


「きっと他国にでもいらっしゃったハトコの方ですわよ。だってマティアス様のご趣味から180度ズレてますもの」


 そう言うと周りからクスクスと笑い声が漏れた。


「ほら、王太子殿下がいらっしゃったわよ。いいわねぇ、殿下と初めに踊れるなんて」

「右大臣のお父様が飛ぶ鳥を落とす勢いですものねぇ」

「でもヘレーネなら殿下と並ぶと本当にお似合いだわ。だってとても美人なんですもの」


 そう、今日の王太子の一曲目の相手は間違いなくヘレーネ。


 慣例で王宮舞踏会の最初の一曲は先ず筆頭王族が踊ることになっている。それが舞踏会の始まりの合図であり、その後貴族達が次々と踊り出すのである。


 王族が未婚の場合の相手は大抵高位の役職に就いている貴族の未婚の娘から選ばれる。


 今回はヘレーネに務めがまわってきたのだった。その務めを任されるのは父親が高位貴族の証。非常に名誉な事だった。


(マティアス様も素敵だけど、王太子様だってとても魅力的。何より今は婚約者はいないのだし!私が王妃になる夢も叶うかもしれない。絶対に今日は魅了してみせる!)


 王太子の婚約が解消になったのはほんの半年前。それまで何年も王太子は1人の姫と婚約中にあった。


 と言うのも婚約中の王女が病弱で何度も輿入れが延期されたからだ。国内には病弱な王女との結婚に反対が多かったが、王はこの豊かな国との関係を優先させようとした。しかし、ついに病弱な王女は息を引き取り、長年の婚約は白紙に戻ってしまった。


 王太子の新たな婚約者候補が次々と貴族達によって出されるが、なかなか適当な相手は見つからなかった。


 同盟国の王女は歳が離れすぎていたり、宗派が違ったり、既に他国と婚約交渉中だったりと花嫁探しは難航した。


 王女に絞らず、王族の姫に候補を広げればさらに意見がまとまらなかった。


 それなら国内から妃を選べばいいという声も出たが、貴族達の力関係に大きく影響する為、すぐには決まる訳がなかった。


 妃選びが一向に進まない中、国王は自国から妃を選ぼうと考えだしていると、ヘレーネは父の言葉を思い出した。


 彼女は熱い視線を王太子に向け、マティアスのことも忘れて踊り始めた。


 しかし彼女の魅力は、ジルフォードの前では全く効果がなかったのだった。

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