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 エレーンがバルコニーに出ると、ジルフォードが手摺に肘を付き、こちらに背を向けて立っているのが見えた。


 彼女はその逞しい後ろ姿に思わず見とれてしまう。

 夜会用の正装着に身を包んだ王太子は、まさにこの舞踏会の主役だ。

 そんな彼に声をかけるを、エレーンは戸惑ってしまった。


  ジルフォードが物音に気付いて振り向き、彼女を見ると、エレーンと言って笑いかけてくれる。

 その優しい笑顔にエレーンは胸がどきどきした。


「お待たせして申し訳ありません、殿下。私にお話があると伺いました…」


 そう言ってエレーンが一礼し、顔をあげると、彼の顔から笑みが消えていた。

 何か失礼な事を言ったのかと彼女は不安になる。


「エレーン、君はもう私を敬称でしか呼んでくれないのか……」


(??……どう言う事?そもそも敬称で呼ばないと不敬じゃないのかしら?)


 エレーンがそう不思議に思って考えていると、ジルフォードが話し出した。


「君はもう覚えていないかも知れないが……でも、君と初めて会った時、君は私をジルと呼んでくれた。それが私にはすごく嬉しかったんだ。君の気取らない、無邪気で明るいところに惹かれたんだ……」


 (殿下と初めて会った時?そう言えば、殿下と全く気付かなかったっけ……)


「……あの、あの時は、私は未熟で礼儀をわきまえておらず、申し訳ございませんでした」


 なんだかひどく決まりが悪く、エレーンは下を向いてしまう。


「どうして謝るんだ? 私はその時から君が好きだったんだ。他国の姫と婚約させられても、君が他国に行っても、ずっと忘れられなかった。こうして君と再会しても、全く気持ちは変わらない」


 いつの間にかジルフォードはエレーンの手を握りしめていた。

 思わずエレーンが顔を上げると、真摯な王太子の目が自分を見つめている。


「……殿下、ありがとうございます。そう言って頂けて本当に嬉しく存じます。……ですが、子供の時は私のことが良く見えたかもしれませんが、今は……」


 全然王太子と釣り合わない。まず身分が違い過ぎる。礼儀作法も落第点。誰が見ても不釣合いなのに、何故彼はそう思っていないのだろう?とエレーンは思った。


「今は、違います。私のような身分の低い、無作法な者を殿下は……つまらなく思うでしょう」


 そうエレーンが続けると、さらにジルフォードは力強く彼女の手を握りしめた。


「君をつまらなく思うなんて絶対にない。確かに私達は再会したばかりだから、私の気持ちを疑うのはよく分かる。でも私が真剣だと言う事を君に信じてもらえるチャンスを与えて欲しい」


「……いえ、そんなっ、殿下を疑うなど…!」


「エレーン、今、心に決めている男性は?もしいたら正直に話してくれないか?」


 王太子は焦ったように早口で尋ねた。


「……殿下、そういった方はおりません。しかしどうぞお戯れはーー


「遊びじゃなんかじゃない!真剣に君と一緒になりたいと思っている」


「あの、身分が違い過ぎます……」


「何故?君は伯爵令嬢じゃないか」


「で、ですが、私の家柄では、とても王家には釣り合わないかと……。それに、私は、お隣に立っても恥ずかしくないような教養や礼儀作法を身に付けておりませんし……」


「全く必要ない。私が求めているのは、家柄でも、王族用の立居振舞でもないのだから」


「……」


 そう言われたらエレーンは何と答えていいか分からなかった。

 素直に嬉しいが、彼女は自分のような美人でもない無教養な女を王太子が好きになるなんて信じられないのだ。


「……殿下、お許しください。私どうお答えしていいか……」


「……すまない。でも、私は君に王太子ではなく、ひとりの男として見て欲しいんだ。……それでも君が私を王太子としか見れないと言うのなら、こんな煩わしい身分なんか捨ててもいい」


「……あの、殿下、それはどういう? ……私はそんな事を言って頂けるような娘では……」


 エレーンはジルフォードの手を振り解こうとするが、彼の手は微動だにしない。


「君は、もっと自分の魅力を自覚した方がいい」


 ジルフォードの目はとても嘘を言っているようには見えないが、それでもエレーンはそんな、と口に出して反論しようとした。


「エレーン、私の想いがまだ伝わっていないのなら、何度でも伝えるーー

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