第8話 「味方と敵」(3)
中間考査まで一週間を切った放課後。演習場の隅で参考書を広げていたリーゼに、声がかかった。
「苦戦しているようだな」
低い、抑揚の少ない声。レオンハルト・シュヴァルツだった。
「龍化の維持と飛行高度。考査基準に足りていないだろう」
「……はい」
「やり方が間違っている。龍力を全身に均等に回そうとしているだろう。だが、おまえの龍力は特殊だ。均等に回すと分散して弱まる」
「特殊?」
レオンハルトが一瞬だけ言葉を止めた。あの日見た金色の光。だが今は言うべきではない。
「……翼に集中させろ。おまえの龍体は小さい。大きな龍のように力で飛ぶのではなく、風に乗れ」
リーゼは息を呑んだ。先日、初めて七メートルまで飛べた時と同じだ。
「なぜ、わたしに」
「借りを返しているだけだ。龍化授業の日、おまえは笑われても胸を張っていた。黒龍も異質だと笑われる。それでも胸を張っていいと、思い出した」
レオンハルトは背を向けた。
「明日の放課後も来い。実技の基礎は教えてやる。ただし、誰にも言うな」
四人目だった。四龍の全員が、それぞれの形で手を差し伸べていた。
竪琴の優しさ。匿名の教科書。温かい食事。飛び方の指南。
わからない。でも胸が熱かった。
× × ×
演習場の上のテラスから、ルシアンがそれを見ていた。
白龍が飛んでいる。翼の使い方が変わっている。八メートル、九メートル。誰かに教わったのか。
ルシアンはもう、自分が何をしているのかわかっていた。わかっていて、認めたくなかった。
白龍が力尽きて地面に降りた。肩で息をしている。それでも数秒後には立ち上がった。
「……馬鹿が。休め」
誰にも聞こえない声で呟いた。
演習場に行こうかと思った。「無理をするな」と言おうかと。
足が一歩踏み出して、止まった。
俺が近づけば余計な噂が立つ。エルザがさらにいきり立つ。あの娘をもっと追い詰めることになる。
銀龍公爵家の嫡男で、学園最強と呼ばれる自分が。
たった一人の小さな白龍を助ける方法がわからない。
ルシアンは天を仰いだ。
夕焼けが、やけに赤かった。




