第二話:これは現実なのか?
目を覚ましたとき、口の中は乾ききっていた。手首がずきずきと痛む。両腕は頭上に引き伸ばされ、荒い縄で固く縛られている。動こうとしたが、びくともしなかった。
空気は煙で重く、薪がはぜるかすかな音が耳に届く。脚は折れてしまいそうなほど震えていた。
外だ。
夜空。
周囲には人だかり。
焚き火の明かりに照らされ、揺れる顔、顔、顔。
彼らは何かを唱えていた。低く、規則的で、――間違っている。
背後の杭が温かい。
その意味に気づいた瞬間、血の気が引いた。
――焼かれる準備をされている。
思考が四散する。必死に。
なぜだ?
助けるために来たはずなのに。
だが今見えるのは、彼らの笑みだけだった。
不自然なほど広く、妙に落ち着いた笑顔。
まるで誇らしげにさえ見えた。
身体が震えだす。歯が鳴り、眼球が今にもこぼれ落ちそうだった。
こんなの、現実なわけがない。
煙が目を刺す。その混乱の中で、ダニエルの落ち着いた声が聞こえた。
「恐れるな、天使よ。神々は信仰の証を求めている」
叫びたかった。
だが喉から出たのは、息とも嗚咽ともつかない壊れた音だけだった。
ただ、助けたかっただけなのに。
それなのに、今から生きたまま焼かれる。
――ここは、どこだ?
胃が激しくねじれ、吐いた。煙と悲鳴の中で、ほとんど息ができない。手は激しく震え、縄が手首の皮膚を削った。
「……死ぬ……」かすれた声で呟いた。
《結論:現在のパラメータに基づき、脱出は可能。
村の完全破壊確率:98%。》
凍りついた。
思考が、形を成さない。
もし魔力が暴走すれば――
殺してしまう。
全員。
救うと誓った人々を。
子供も、父も、母も、老人も、病人も。
これは試練なんだ。
そうに違いない。
松明が足元の木に触れた。
熱が牙のように脚へ噛みつく。
叫んだ。もはや人の声ですらなかった。
「やめて、お願いだ!」
火は這い上がり、服に燃え移り、首を焼いた。
あまりの痛みに肺から空気が奪われる。
「……僕は……そこまで非情じゃない……」
嗚咽混じりにそう言った。
沈黙。
そして――
《結論:感情拘束――ソウル・テザー、起動。》
世界の揺れが止まった。
恐怖が、すくい取られるように消えていく。
呼吸が整い、思考が――異様なほど澄み渡った。
彼らを見た。村人たちを。
炎に照らされた笑顔。
自分を焼く火を映す瞳。
彼らは――幸せそうだった。
その瞬間、理解した。
静かに、囁く。
「発動――《我が命のため、彼らを代価とする》」
次の瞬間――
――轟音。
空そのものが裂けたかのようだった。
雷鳴のような爆発が村を引き裂き、裁きの柱のごとき炎と瓦礫が天へと噴き上がる。
音は遅れてやってきた。
重く、圧し潰すような衝撃波となって、すべてを飲み込んだ。
村は、燃えた。
焼けただれていた皮膚が、勝手に再生し始める。
俺は立っていた。
寒かった。
夜気でも、残り火でもない。
理由もなく奈落に落ちた洞窟の底のような、内側の冷え。
胸は空洞だった。
周囲で火がじゅうじゅうと音を立て、やがて消え、煙が巨大な何かの最後の吐息のように空へ昇っていく。
さっきまで生きていた顔は、もう影と灰しか残っていない。
「……どうして、こうなったんだ?」
自分の声が聞こえた。
あまりにも小さく、滑稽で、雷はなぜ大きい音がするの?と聞く子供みたいだった。
「何が、彼らを狂わせたんだ……?」
笑いそうになった。
喉を削るような音が出ただけだった。
「いや……考えすぎだ」
声が震える。
頭の中を一つの言葉がぐるぐる回る。
――「なぜ」
歩き続けた。止まれなかった。
納得できる答えが欲しかった。夜と一緒に燃やせる理由が。
「……システム?」
《はい》
「なぜだ?」と尋ねた。
答えのような沈黙。
そして――
《結論:該当する回答は存在しません》
その言葉は、どんな攻撃よりも重く胸に落ちた。
説明はない。
神の理屈もない。
ただ、何かが彼らの中で壊れ、
そして俺が火を点けただけ。
そこに留まることはできなかった。
何時間歩いたのか分からない。
やがて、森の端に古い屋敷のようなものを見つけた。
窓は割れ、空気は埃と腐臭で満ちていたが、雨風は防げる。
それで十分だった。
半壊したベッドのある部屋に入り、倒れ込む。
身体は震えているのに、頭は――不気味なほど静かだった。
静かすぎる。
なぜ、こんなに落ち着いている?
《結論:スキル――ソウル・テザーは現在も有効》
「ああ……そうか。忘れてた」
魔力を解除した、その瞬間。
すべてが一気に押し寄せた。
狂った。
千本の刃が同時に胸を貫くような痛み。
息ができない。
手が震え、無意識に壁を殴る。
吐いた。何度も。
胆汁しか出なくなるまで。
「何が起きてるんだ……!」
叫んだが、声はほとんど出なかった。
喉が焼け、口が言うことをきかない。
膝から崩れ落ち、冷たい床に手をつき、空気を求めて喘ぐ。
額を床に押し付け、囁いた。
「……全部、あいつらの計画だ……クソみたいな神ども……」
声は割れ、情けないほど弱かった。
俺は、苦しんだ。
――生きたまま焼こうとされた後でも。




