こりゃあ死ぬかもしれないなあ
ハイエースを運転しながら京也が言った。
「修道院にいたはずの12人の子ども達を探すしかないんですかねえ。」
「探さないでも時々嫌なこと言いに出てくるぜ?」
「相楽さんから子どもたちを呼ぶ事は出来ないんですか。」
「分からねえなぁ。どうせ聞いても分からねえ話しかしねえから、そんな風に考えもしなかったわ。」
「俺が直接、子どもたちに会って、もっと色々聞き出せたらって思うんですよね。でも相楽さんにしか見えないのかもしれないですよね。あー、なんかいい方法ないかなぁ!」
それにしても京也は盛り上がっている。一体何がこいつをそこまで奮い立たせたんだろう。大卒で気が弱くて血生臭い事が苦手で殺しの度に吐いていて、学生時代は根暗でオタクで勉強ばっかりしてて面白くない人生を過ごしていたらしいそんな京也が、今見るからにわくわくしている。
「此間変身した時もだけどさぁ。お前、何でそんなに楽しそうにしてるの?」
「相楽さん、俺、オタクだって言いましたよね。一般的にオタクって言うとアニメとかゲームとかって印象じゃないかと思うんですけど…。」
「何だ?違うのか?」
「俺、オカルトオタクなんですよ。」
「オカルトって言うと、おばけとか幽霊とかのアレか?」
「まあ、そう言うのもですけど、科学で解明できない謎が好きなんですよ。今、まさにそんな謎に直面してると思うと楽しいんです。」
確かに、ヤクザがガンメタグリーンのヒーローショーにさせられて、世界を滅ぼす脅威から人々を守る科学なんてねえな。
「知的好奇心を止められないんです。相楽さんには迷惑かもだけど、もう、エゴですよね、これは。あ、着きましたよ。」
目の前には修道院だったものが転がっている。今はもう修道院じゃない。瓦礫の山だ。
「何だよ、親父、何もしてねえのかよ。」
「まあ不況だし、立地もいいわけじゃないですからね。」
俺にそんなこと言ってもわかんねえよ、馬鹿なんだから。未だにそれがわからねえ京也も馬鹿なのかもしれねえ。俺はハイエースから降りて、なんとなく足元の瓦礫を蹴飛ばした。からんからんと音を出して転がる。京也はゆっくりと歩きながら、時々軍手をした手で瓦礫を拾い上げたり写真を撮ったりしている。退屈な俺はタバコを吸っていたが、何だか違和感があることに気がついた。
「京也…これ何だ?」
「え?」
地面から低い唸り声の振動だけみたいのが響いている。
「地震?ですか?」
京也が俺の方に走り寄って来た。
「多分違う。」
暴力マシーンの勘が働く。この振動には、殺意がある。
「あっ!」
振り返ると京也の足元の地面に突然穴が開いていた。京也が穴に落ちるより少しだけ俺の動きが早かった。俺は京也の腕を掴み、そのままぶん投げた。その瞬間、今度は俺の足元の地面が津波のように盛り上がった。
「うおっ!何だ?!これ!?」
よく見るとそれは地面じゃなくて、真っ黒なミミズのようなもので、昔見たB級映画に出て来た怪物によく似ていた。またアレか、脅威というやつか。また光るんか。俺は待つともなしに白い光を待っていた。
「相楽さん!逃げて!」
京也が女のような悲鳴をあげている。何故だ?京也だって俺が変身したら死んだり怪我したりしないのは知ってるはずなのに。その理由はすぐに分かった。俺は白く光っていない。あっと思った時には相楽寿志のままで、まともにミミズに吹き飛ばされた。しかも痛い。つまりこれはあれだ、脅威じゃない。ごろごろと地面を転がりながら、俺はどういうことか考えていた。もちろん馬鹿なので何もわからないまま瓦礫の山にぶつかり、崩れた瓦礫に俺は埋まった。
「相楽さぁん!相楽さぁん!生きてますかあ?!」
しまった!意識がなかった。京也の声で呼び覚まされたが瓦礫から出られず、俺は瓦礫ごとまたミミズに吹き飛ばされて瓦礫の山に叩きつけられた。くそ。息苦しい。なんか全身痛い。口の中が土でざらざらする。鉄の味がする。何で変身しないんだ?こいつは脅威じゃないのか?でも普通に自然界にこんなのいねーだろ?これ、なんかおかしい生き物だろ?またミミズが突進してくる。すごく早い。俺は体が痛くて思うように動けない。こりゃあ死ぬかもしれないなぁ。
「相楽さん!乗って!乗ってえ!」
京也の裏返った声がして、ハイエースが目の前に止まった。
「早く!来てる!」
京也がめいっぱい伸ばした手を掴んだ。震える手で引き上げようとするが、無駄にでかい俺を京也が持ち上げるのは難しい。痛みに動きたがらない身体を無理やりに動かして、何とかハイエースに乗り込んだ。血が内側から外側から喉を上がって来てゲボゲボと鳴っている。土埃と轟音。風を切る音。後数秒、ハイエースに乗り込むのが遅れたら、俺はミミズに潰されていた。背筋に冷たいものが走り、それきり世界が暗くなった。
気がついたらじめっとして古臭い自分の部屋にいた。
「理由は聞かないけどさあ。久しぶりに下手打ったようだねえ。」
組お抱え闇医者がへらへら笑いながら言う。
「全身打撲。左鎖骨骨折。肋骨も二本折れてて、一本は肺に刺さってたよ。その他擦り傷切り傷。相楽じゃなければ死んでるやつだね。」
何が面白いのかわからないが医者は始終へらへら笑い、俺の家を後にした。俺じゃなきゃ死んでたか。そっちの方がマシだったかも。何せ身体中痛くて動けなくて。今こうして生きているが、ハイエースに乗り込むのが遅れたら、俺でも死んでた。
死んでた。
死ねるじゃん。
じゃあ何で自殺しようとしたら変身に邪魔されたんだ?
「京也。」
考えるのは俺には無理だ。頭のいい奴に代わりにやってもらおう。
「相楽さぁん…ううう…」
京也は、何だか知らないけどまた漫画みたいに顔を鼻水と涙まみれにしている。
「すみません。俺が隅谷の修道院に行こうなんて言ったばっかりに…こんな…こんな…。」
そんな事を気にしてるのか。今までだって刺されたり金属バットで滅多打ちにされたりして来ている。怪我なんて暴力的なヤクザをやってりゃあ日常茶飯事だ。たまたま京也が舎弟になってからの4年間、俺は大した怪我もなく暴力を振るったり人殺しをやったりしていた、それだけの話だった。
「よくある事だから気にすんな。それより考えてくれ。あれ何だったんだ?脅威じゃないのか?あんな生き物地球にいんの?俺は何で変身しなかった?自殺しようとした時は変身してできなかったのに、今日は何で変身できないで死にかけてんだ?俺は馬鹿だから分かんねえんだよ。」
「あっ…あっ…ちょっ…ちょっと待ってください。」
京也は涙と鼻水を拭って、深呼吸をした。
「お話聞く限り、子どもたちは相楽さんを馬鹿にしてるところがありますよね。だから、ただからかって翻弄しているだけの可能性もありま…すけ…ど…相楽さん!?えっ!今?!そんな…大丈夫なんですか!?」
京也が叫んでる。俺の体が勝手に白く光り始めたせいだ。こんな死に損ないで変身したところでどうなるかなんて俺にもわからん。ただこいつは俺の意思ではどうにもできない。気がついたらガンメタググリーンの金属とも布ともつかない皮をまとい、見知らぬ山にいた。




