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極悪人間ヒーローになる  作者: 溝野魅苑


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今日は殺さないんですよ

「これこれ!」

今日、取り立てをする相手はギャンブル狂いの新聞配達員で、朝刊の配達が終わって帰る頃を見計らってきたが、生憎とまだ帰っていなかったので、俺たちはハイエースで新聞配達員の帰りを待っていた。その間に京也は何やらスマホをぽちぽちして、嬉しそうにネットニュースの画面を見せてきた。

『Z市で謎の爆発?巨大生物の目撃を多くの住民が証言』

見たくねえよ。何なんだ?お前は。根暗でオタクで喧嘩もした事なく、血生臭い事が苦手で仕事の度に吐いてる奴が、何でこんな暴力的な事で嬉しそうにしてんだよ。

「えーっと、一昨日、K県Z市の路上で謎の爆発があった。幸いけが人はなかった。付近は住宅地で特に爆発物を扱うような工場などもなく、警察はテロ行為も視野に入れ捜査を進めている。住民の証言によると、『突然大きな蜥蜴のようなものが現れて暴れ出したが、緑がかった白い光が破壊した』との事である。証言をした住民からはアルコールや薬物は検出されず。また他にも同様の証言がある事が確認されている。だそうですよ!」

だそうですよ!じゃねえよ。

「ねえ?何で嬉しそうなのよ?」

「え?だってすごいしゃないですか!尊敬している兄貴分が変身して怪物を倒してるなんて!俺、感動してるんす!」

ヒーローショーで握手しに来るガキどもが、ヒーローショーのヒーローを見る目。いや、実際俺の右手を握り、ぶんぶんと振り回している。え?京也って俺を尊敬してるの?怖がっているんじゃないのか。

「お前、俺なんか尊敬してちゃ駄目だろう。馬鹿で暴力しか取り柄がないんだよ。」

「そんな事ないですよ。」

何で?何でそんな風に思える?一番身近で俺の事を見ているのに。俺の問いに、いつも怯えた顔して、びくっと身を縮め、小さな声で答えるほど俺にビビっているのに。頭がいい奴の事は本当に分からん。

「いやいやいや、罪もない女犯しながら腹かっさばいて、そこに手を突っ込んでちんこしごくような男だよ。俺は。俺の方こそ怪物だよ。そんなのが怪物倒してこの世界を守るなんてやっていいわけねえだろうが。」

京也の両手を振りほどいて俺は言った。

「お前大学出てんだろ?勉強ばっかりしてきたんだろ?頭いいんだろ?何か考えてくれよ。何とかしてくれよ。」

俺がダッシュボードにがんっと頭を打ち付けたその時、ギャンブル狂いの新聞配達員が帰ってきた。

「京也、行くぞ。」



俺は見た目が強面で、その上やたらと体がでかい。見た目すら暴力の才能に溢れている。多分、俺が声をかけたらヤクザに引け目がある人間じゃなくても逃げ出すと思う。京也は170あるかないかの小柄な男で、ほっそりとしていて、色が白く、黒いフレームのメガネをかけている。

「社会人の嗜みですから」

とわけのわからねえ事を言って常にスーツで仕事に来る。それも量販紳士服店で一着買うとズボンが二本付いてくるような、若い営業マンが着てるような、迫もヘチマもないようなやつ。言われなきゃヤクザだとは思われない。

だから、取り立ての時にはいつも京也1人で相手に声をかける。

「すみません。ちょっと失礼致します。山口幸彦さんでしょうか?」

京也が馬鹿丁寧に声をかける。これから死ぬ目に合わせる相手に何であそこまで低姿勢になれるのか。俺にはよくわからない。

「そうですけど…何か…?」

今回はただの新聞配達員だったので柔らかく対応されているが、時には、相手もヤクザだったり跳ねっ返りなチンピラやヤンキーだったりした時には「あ?何だ?てめえは?」とか「だったらどうした?文句でもあんのか?」とか凄まれたりする。

「私、こういう者です。」

アルミの名刺入れから名刺を出し、両手で丁寧に差し出す。そこで新聞配達員は、あっ!という顔をして走り出し、運良く、いや、新聞配達員には運悪くだが、俺が乗ってるハイエースの側まで来たので、タイミングを合わせて勢いよくドアを開けた。バンっと大きな音がして新聞配達員がぶつかり、崩れ落ちる。

「どうも。ヤクザです。」

はっと俺を見上げる新聞配達員の鼻っ柱を蹴り上げる。血が噴き出す。折れたかな?知らねえや。

「今月の返済まだなんすけどー。」

新聞配達員は返事もしねえでふがふがゲホゲホして転げ回っている。髪を掴んで引き起こし、もう一度言う。

「今月の返済、まだなんすけどー?」

「はがっ…ふぁっ…ふぁとひっひゅふはんはってふふぁふぁい!」

「え?ちょっと聞き取れないんだけど。ちゃんと言わないともう一回ハイエースのドアとキスすることになるけど?」

「は…あと!ひ…い…一週間!待ってくだふぁ…さい!」

鼻から諾々と血を吹き出して、これじゃあまともに話すなんて、とてもとても無理だろうなと思うのだが、人間、追い詰められると何とかするもんなんだな。

「先月もあんた、そんな感じで返すの遅れたよね。おんなじ事二回も通らないよ?」

髪を掴んだ手を思いっきり後ろに引き、引き戻すと同時に頭突き。髪から手を離し、乱暴に新聞配達員を投げ出す。すると新聞配達員は頭を抑えてごろごろとのたうち回った。鬱陶しいので腹を蹴り上げた。

「げぇっ!げほっ!あっあの!もう!もう二度と遅れません!遅れませんから今回だけは何とか!何とかお願いします!」

ぜいぜいと息を荒くしながらも姿勢を正し、新聞配達員は土下座した。

「相楽さん!相楽さん!」

京也が後ろから呼びかけて来た。

「忘れてるでしょ?ダメですよ?今日は殺さないんですよ!」

実際に、俺が本当に忘れてて、面倒臭いから殺しちゃえばいいかと思ってしまった事があった。今と同じように京也が声をかけてくれたのだが、これが思いの外効果覿面で、相手は俺が人を殺す人間だという事が分かり震え上がり、事がスムーズに運んだ。それ以来、そうでない時も殺さない時はこれをやるようにしている。案の定、新聞配達員は震え上がり、何度も何度も頭を地面にこすりつけた。こうなると何でも言いなりで、新聞配達員はほいほいと受取人が組の者になってる生命保険の契約書にサインをした。

「今後遅れずに全額返せば契約は破棄します。真面目にやってればなんて事ない約束ですから。よろしくお願いします。」

また、馬鹿丁寧に京也が新聞配達員に言う。ビビリ上がってる奴の耳になんか入らないのに。

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