夢
こっぱずかしいガンメタグリーンのヒーローショーで、辺りの人々のヒーローショーで握手しに来るガキどもがヒーローショーのヒーローを見る目で見ている中、途方に暮れて走馬灯の如きに夏のことなど思い出しているともう一度光に包まれた。今度は何だよ?と思って目を開けてみると、ビルとビルの隙間でいつものヤクザの暴力マシーンに戻っていた。
なんかやたらと疲れたのでプリンは諦めて俺はタクシーを拾い、家に帰った。
「お釣り、いいや。」
細かい事を考えるのが嫌で、タクシーの運ちゃんに適当に万札を握らせた。何枚あったのかは知らないけど多分足りているだろう。
築40年。和室6畳、キッチン4畳。押入れ一間。バス・トイレ別。家賃58000円。管理費無。それが俺の家。
暴力だけとは言えエリートな俺は、当然相応に羽振りもよく、本来それなりに小洒落た家に住む事も出来るのだが、なんとなく古臭くてじめっとしたその部屋が気に入っていた。じめっとしたその部屋の、敷きっぱなしでこれまたじめっとしている布団に倒れこんだ。体が鉛のように重い。眠い。プリン食べたかったなあと思いながらも俺の意識はなくなった。
気がつくと、俺は全裸で血に塗れていた。
一仕事終えてだらしなく垂れ下がっている逸物も乾いた血に覆われている。足元には女だったものが転がっている。
今はもう女じゃない。女の死体だ。俺が殺したからだ。
これはあの夏だ。
今は夏じゃないし、あの夏になるわけないので、ははーん…これは夢だなと俺は思う。
「それが分かるくらいには無能じゃないんだね。」
あ…この声は。
何だっけ?
「ああ、やっぱり結構な無能なんだ。」
何だか一々失礼な事を言う。それにしても聞き覚えがあるような気がしている。
「わかんないの?僕らだよ。」
目の前に転がっていたはずの女の死体はなくなり、そこには12人のガキどもが立っていた。いるはずだったのにいなかったガキどもが。
「何だ?お前ら、あの時いなかったじゃねえか。」
「今はあの時じゃないだろ?自分でもそう思ってるじゃないか。」
なるほど。それは確かにそうだ。
「まあ実際はあの時もいたんだけどさ。声位は聞こえていたんじゃないの?」
無能だと言いながら、何だ、その俺に依存した態度は。おっしゃる通りの無能なんだから、そんな事言われてもその時の声がおめーらかどうかなんて忘れてんぞ。
12人のガキどもが一斉に笑う。そう言えば、こいつらの誰がさっきから失礼な事を抜かしているのかわからない。声がしている時も誰も口を動かしていない。口を動かしていないと言うか、表情も全く同じだった。小馬鹿にしてる時は全員が小馬鹿にしてる顔をする。そして今も、全員が全く同じように笑った顔になっている。
「僕らは全員で1つなんだよ。」
俺が夢だと思った時と同じく、俺の考えを見透かすようにガキどもが言った。
「僕らは会話というコミュニケーション方法を取らなくても意思を伝える事が出来るんだよ。」
すげえ。超能力者か。漫画や映画に出て来るやつ。いや、でもこれ夢だもんな。そんなもんも出て来る事もあるだろうよ。
「どう思ってくれても構わないよ。僕らが何者だとかそう言うことはこの際どうでもいい事だから。わかっていて欲しいのは…」
「君が試験に合格したって事だけだ。」
何言ってやがんだ?このガキどもは?まともに学校すら行ってなかった俺が一体いつ何の試験を受けたと言うんだ。ろくに字も読めないから、運転免許すら取れないと言うのに。
「君は選ばれたんだよ。この世界を救う鍵として。」
12人のガキどもの24の目が曇り空みたいな色になった。俺は俺の夢の中だと言うのに体が自由に動かせなくなり、その曇り空みたいな色の24の目以外、何も見ることができなくなってしまった。
「この世界は滅ぼされる。僕らはそれを止める為に、その脅威を消す者を選ぶ存在だ。」
「それが君なんだ。」
世界は曇り空みたいな色一色になり、俺はじめっとした部屋のじめっとした布団で目を覚ました。
マッチを擦ってタバコに火をつけた。
今の夢は何なんだ?夢じゃなかったのか。
あの大蜥蜴がこの世界を?滅ぼす脅威と言うやつってことか?冗談じゃねえ。受けた覚えもない試験で勝手に俺を選ばんでくれ。俺はそんな立場じゃない。
俺自身が、脅威だから、だ。
規模は違えどやってる事は同じだ。この町で普通に暮らす善良な人々を滅ぼす脅威だ。それがヤクザってもんなんだ。そんな俺が脅威を消す力を持ってしまった。たくさんの人を殺し、女は犯し、町を壊し、その手でこの世界を滅ぼす脅威を消すなんてやって許されるわけがない。まずてめえの首を絞めちまえって話じゃねえか。そうか。そうしちゃおうか。てめえの首に両手をかけた。グッと力を込めた瞬間には俺はまた光に包まれ眩しさに目を閉じた。次に目を開いた時には俺の手はガンメタグリーンだった。
ちょうどいい。あの大蜥蜴をぶっ飛ばした力でてめえの首をへし折ったらぁ。そう思って手に力を込めたが手はびくとも動かない。甲高く勘に触るガキどもの笑い声が聞こえる。
「残念だけどその体の時は君は脅威以外傷つけられないよ。」
夢で聞いたガキどもの声。じゃあ今も夢か?もう何が何だかわからねえ。
「普通こう言うのは正義感が強くて真面目な奴がなるもんじゃないのか?」
姿が見えない相手に俺は問いかけた。
「正義感が強くて真面目な人にこんな危険な事やらせたら可愛そうじゃん。」
ひでえ言い草だ。俺なら危険でもいいのかよ。可哀想じゃないのかよ。
「君みたいな人間が危険な目に遭ったって喜ぶ人はたくさんいても可哀想だなんて思う人はいないだろう?所詮ヤクザだもん、君は。」
そうか。そうだよな。俺は所詮ヤクザだ。普通に暮らす善良な人々を滅ぼす脅威だ。たくさんの人を殺し、女は犯し、街を壊し、暴君、冷血漢、人非人、外道、鬼畜、鬼、悪魔、人でなし、ありとあらゆる人が、ありとあらゆる人にあらずとの形容詞を俺に用いるような人間だ。
「くそっ。そうだよ。俺はヤクザだよ。でもヤクザだからこの力を利用して俺が脅威になるかもしれないぜ?」
「本当に馬鹿なんだなあ。言ったろ?その体の時は君は脅威以外は傷つけられないんだよ。脅威と戦う以外には君のその体はただのヒーローショーのヒーローもどきだ。」
よくできてるじゃねえか。頭のいい奴らだな。
「わかっただろ?役割を終えない限り、その体は死ぬことができない。それが終わったら好きに死んでくれていいよ。」
ガキどもの声。小馬鹿にしてる甲高い笑い声。
馬鹿野郎か。それが終わったら別に死にたかねえんだよ。




