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極悪人間ヒーローになる  作者: 溝野魅苑


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京也③

「死んだような顔してるね。」

美咲先輩はそう言って笑った。

相楽さんをレイプしかけ、出禁を言い渡された俺は、物質検査の結果が出たとの連絡を受けて美咲先輩の元にきている。

「もう死んだようなもんです…。」

なんであんなことを…。後悔してもしきれない。あの時、相楽さんの事しか考えられなくなって、ダメだと思っても体にいうことを聞かせられなかった。そんなことってあるか?

先輩はクスクスと笑った。

「気弱な君が暴力マシーンの兄貴分をレイプしようとするなんてね。」

「いや、それは、まあ、そうなんですけど…意思に反してたのになんでそうなった?っていう…。」

「意思に反してた?それは…どうだかね?人間なんて、どこまで自分のことを理解してるかなんてわかったもんじゃないよ。崇拝、信仰っていう君の気持ちは欺瞞で、潜在意識の中では愛しているのかもしれないよ?」

そうなんだろうか?あの時も、それに夢の中でも、確かに愛おしい気持ちが溢れて抑えられなくなってる。それが本心なんだろうか。「そうだとしても、こんなに拒絶されてしまうのなら何か別の力が作用して、俺の脳がバグったと思える方がまだマシです。例えばあの箱。四年間こんなことなかったのに、今回だって、その前の夢を見ていた時だって俺は箱を持っていたんですから。」

「箱。」

美咲先輩の目がメガネの黒いフレームの奥でギラっと光る。

「箱ね。あれ、地球上には存在してない物質じゃないかと思う。」

「マジでですか?!」

「レーザー、放射線、磁気…その他諸々、全てが存在を証明しないんだよ。なのに、ここにある。」

「じゃあやっぱりこの箱は相楽さんの変身に関係する?」

「まあその可能性は高いだろうね。世界の滅亡を阻止するために人間が改造された発端の場所に、偶々偶然地球上に存在しない物質で作られたものがあるって可能性の方がよっぽど低い。」

「それって宇宙人の仕業ですかね。」

美咲先輩は少し考えて口を開いた。

「それも、人類の創生から関わってきた、神、創造主とか呼ばれた種族だろうな。」

「そっか。古代宇宙飛行士説ですね。創造主なら潜在意識を弄ることもできるし、世界を創造するための、言わば細胞のような部分にも関わることもできますね。」

そして人間を作ったものであれば、簡単に一人の人間を作り変えるような装置を作ることも可能だろう。

「で?これでレイプしようとしたのを箱のせいだと兄貴分に言えそうかい?」

「どうですかね…相当嫌な思いはさせたと思ってるんで、一筋縄では行かないかと。あ!で、今日はそれだけじゃなくて見て欲しいものがあるんです。」

俺はリュックから相楽さんの変身を写したデータのあるSDカードを取り出した。

「これは何?」

「変身する相楽さんの撮影に成功したんですけど、うちの機材だと限界あって。」

美咲先輩は呆れたように天を仰いだ。

「君ねえ、大学の研究室は機材レンタル屋じゃないんだよ?」

「あー…すみません。」

俺が諦めてSDカードをリュックに戻そうとすると、美咲先輩は手を差し出した。

「まあでも、面白そうだから見させてもらうけどね。」

俺がSDカードを手渡すと美咲先輩は映像を再生した。

「驚いたなあ。本当に変身している…。」

美咲先輩は驚きの声を上げたが、同時に何だか楽しそうだった。

「更にこれをこうすれば…っと。」

美咲先輩がノイズを除去したり、解像度や彩度を変えたりと手を加えていくと、さすが大学の研究室のパソコンだけあって俺が加工した時より遥かにはっきりとした映像となっていく。

「ん?…これ、箱じゃないか?」

美咲先輩はパソコンのディスプレイに吸い込まれんばかりに顔を近づけながら言った。

「この、光ってるやつ…。」

美咲先輩は相楽さんが白く光り出すところを指差した。

「あ…。」

そこに写っていたのは、白い光を放ち逆光となっている赤黒い人型だった。光の中心を拡大すると、ぼんやりとしてはいるが、今ここにある箱と同じものが溶け込むように同化している心臓がはっきりと見てとれた。

「箱が心臓に同化してる…。」

「これ、皮膚も筋肉も溶けてんのかな?なかなかグロテスクな変身だね。」

美咲先輩が眉根を顰めて言った。何でこんな風になったんだろう?

「何で相楽さんはこうなって、俺はならないんですかね?」

「選ばれなかったってことだろ?」

「じゃあ結局代わりなんか他にいなくて相楽さんだから変身できてるってことじゃないですか。」

「まあそうなんだろうね。ただの脅しなんだろうよ。」

「なぜ相楽さんが…。」

「君になくて、相楽さんにあるものがあるのでは?」

「相楽さんにあるもの…か。」



そこを俺は間違っていた。


「何かってなんだよ。」

「それがないと俺みたいにリビドーが暴走するとか…。」


相楽さんにあるものじゃなくて、相楽さんにないもの、だ。

それに気がついた時にはもう何もかもめちゃくちゃになっていた。


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